[マレーシア]レジデンシャル不動産オーバーハング状況やや改善

2021/06/07

[マレーシア] レジデンシャル不動産オーバーハング状況やや改善


マレーシアのレジデンシャル不動産のオーバーハング状況について、昨年やや改善が見られました。主には、世界的なパンデミックの結果、取引が低迷したことによります。


2021年は、まだまだ不確定性が残るものの、不動産コンサルタントは、慎重ながらも、さらにレジデンシャル不動産のオーバーハング状況が改善するのではと楽観的な見方をしています。


不動産コンサルタントのRahim&Co Internationalのシヴァ・シャンカーCEOは、Covid-19感染者数が高止まりした結果、昨年はデベロッパー各社が新規物件の販売開始を減速させた、と述べています。


「新規販売開始の数が減ったため、オーバーハング状況にかかる圧力を和らげる結果となった」と同氏は説明しています。しかし、どのくらい状況が和らぐかについては、まだ時期尚早であり、予測するのは難しい、としています。


2020年半ば、Covid-19感染者数が1桁まで減り、多くの不動産コンサルタント・専門家は、不動産市場が早ければ2021年後半までに回復すると予測しました。


しかし、2020年末にかけての第3波により、そのような予測は吹き飛びました。


シヴァ氏は、マレーシアが感染の第4波に直面し、再度ロックダウンをするようなことがあれば、地元の不動産セクターと経済に害を与えるだろうと述べています。


別のコンサルタント会社、PPCインターナショナルのサイダース・シッタムパラム氏は、適切な商品ミックスを揃えることで、市場のオーバーハング状況を緩和できるだろうと述べています。


「今後、市場は50万リンギット(約1,331万円)未満のアフォーダブル住宅に注力していくでしょう。多くのデベロッパーは、50万リンギット(約1,331万円)から70万リンギット(約1,858万円)の価格帯の物件を発売していくでしょう。」


国境が閉鎖されている今、サイダース氏は、これらのユニット、特に50万リンギット超の物件の成約を促進したであろう、外国人バイヤーを誘致することが難しい、と述べています。


国家不動産情報センター(NAPIC)によると、2020年は29,565戸のオーバーハング状態のユニットがありましたが、2019年と比較すると、戸数では3.6%、総額では0.5%減少したということです。


さらに、建設中の売れ残り物件、および建設前の売れ残り物件も、対前年でそれぞれ1.3%減少して71,735戸、22.6%減少して12,975戸になったということです。


一方で、竣工、工事開始、新規供給計画ともに減少し、建設活動は低調でした。それぞれ、12.2%減少して77,009戸、18.6%減少した82,188戸、20.5%減少して71,725戸となっています。


ケナンガ投資銀行のケナンガ・リサーチは、長引くオーバーハング問題は、国内のデベロッパーに悪影響を及ぼすと述べています。


「すでに停滞気味の住宅価格に直面する中、デベロッパー各社は市場は多くのオーバーハング商品と競り合っていかねばなりません。」


「オーバーハング問題は徐々に悪化しており、最近ではCovid-19パンデミックがそれに輪をかけました。オーバーハング状態のユニットは主に高層・サービスレジデンスで30万リンギット(約796万円)から100万リンギット(約2,654万円)の価格がついているものであることに注目してください。」


NAPICによると、2020年には、23,606戸のサービスアパートメント、総額207.6億リンギット(約5,528億円)が存在し、2019年と比較して戸数では37.7%、総額では38%増加したということです。


国際不動産連盟(FIABCI)マレーシア支部は、「Cautiously Optimistic View of Property Overhang 2020 and Beyond(2020年以降の不動産オーバーハングの慎重ながらも楽観的な見方)」という記事の中で、マレーシアのオーバーハング状況は、2010年から2015年にピークを迎えた、と述べています。


ピークは、ユニットを購入してはできるだけ早く高い価格でフリップしようとした投機家によるものだといいます。しかし、不動産市場が軟化し、このような「投機家」がローンの借り換えをできずに、住宅ローンを焦げ付かせてしまったのです。


しかし、FIABCIマレーシアは、オーバーハング状態の物件は、2018年の32,313戸から2019年は30,664戸と5.1%減少したことにも触れています。2020年はさらに減少して29,565戸となりました。



不動産市場は2020年、191,350件の取引、総額658.7億リンギット(約1.8兆円)がありました。2019年と比較すると、件数では8.6%、価格では9%減少しました。


NAPICによると、スランゴール州が取引件数、総額ともに最も貢献し、取引件数ではシェア23%(44,032件)、総額では33%(377.9億リンギット、約1兆円)でした。


プライマリー市場では、新規発売開始は少なく、2019年が60,000戸だったのに対して、2020年は47,178戸でした。


NAPICは、低迷する不動産市場と慎重なバイヤー心理が販売率に反映され28.7%にとどまったと説明しています。


一方で、FIABCIマレーシアは、2020年後半期のレジデンシャルの販売取引レベルが、2017年、2018年、2019年の後半期のレベルよりも高かったことを指摘しています。


「2020年第1、第2四半期は、活動制限令下にあり、経済全体が停滞状態でした。これらの時期を無視して、2020年後半期だけを、2017年から2019年の同時期と比較すると、2020年後半期の方が好調だったのです。」


FIABCIマレーシアは、この予想外の好調は持家キャンペーン(Home Ownership Campaign)のおかげだったと述べています。「業界は、HOCキャンペーンを承認した住宅・地方政府省のズライダ・カマルディン大臣を賞賛しました。大臣も、景気の回復と住宅所有の促進のためには、同キャンペーンを2021年末まで継続することは不可欠であったと述べています。」


HOCは2019年1月に開始しました。国内のオーバーハング問題に対応するためです。キャンペーンは、当初6か月の予定でしたが、1年間に延長されました。


HOCは成功に終わり、政府の当初目標170億リンギット(約4,526億円)を大幅に上回る、232億リンギット(約6,177億円)を2019年に売り上げました。


政府は、2020年6月、短期景気回復計画(Penjana)の下、HOCを再導入し、Covid-19の悪影響を受けた不動産市場を活気しようとしています。


2021年3月、不動産・住宅デベロッパー協会(REDHA)の2021年不動産市場についてのブリーフィングの中で、ソアム・ヘン・チューン会長は、HOCが2020年6月に再導入されて以来、2021年2月28日時点で、34,354戸の住宅ユニット、総額256.5億リンギット(約6,808億円)が売り上げられたことを明かしています。


現在の環境については、FIABCIマレーシアのコー・ペン・カン会長は、もはや投機的な市場ではないことをデベロッパー各社は認識している、と述べています。


「市場は、エンドユーザー向けのデザインやライフスタイルについて、革新的で創造力あふれる開発コンセプトを評価するでしょう。」


不動産サービス会社、シティ・ヴァリュアーズ&コンサルタンツの不動産サービス・事業開発長のルベン・ケルビン氏は、販売をさらに促進すべく、HOCの下で行われている免除が拡大される必要性を感じているようです。


「HOCの下で現在行われている印紙税免除は、2021年5月31日以降も延長されるべきです。また、スモールオフィス‐ホームオフィス(SOHO)、スモールオフィス-バーチャルオフィス(SOVO)、スモールオフィス-フレキシブルオフィス(SOFO)、サービスアパートなどの商業物件にも適用されるようにすべきです。」


ルベン氏はまた、印紙税免除をセカンダリー市場にも拡大し、値ごろ感を高め、販売を強化していくべきだと考えています。


「政府が、外国投資を促すために、外国人の不動産所有に関するルール緩和を検討し、ワクチンプログラム完了後にはマレーシア・マイ・セカンドホーム(MM2H)の再開することを提案します。」


シヴァ氏は、一方で、2021年の不動産市場は2020年よりも好調だろうと予測していますが、2022年の見通しの方がさらに明るい、と述べています。


「今年の市場の成り行きは、いかにウイルスを封じ込めるかにすべてかかっているでしょう。」


サイダース氏は、今年、来年はセカンダリー市場が大きな役割を果たすだろうと考えています。


「価格という点では、プライマリー市場は市場をリードしないと考えています。金融機関がセカンダリー市場をプライマリー市場と同じくらいの重要度をもって見てくれるならば、ずっと不動産市場の助けになることでしょう。」


加えて、サイダース氏は、大規模インフラプロジェクトの続行にも期待しています。「これらのメガプロジェクトは、景気回復の推進力となるでしょう。」


全体として、サイダース氏は、国内不動産市場は「劇的な改善」は2021年後半期では見込めないと考えています。ワクチンプログラムが展開されていますが、期待よりペースが遅いので、2021年の不動産市場はほぼ横這いだろうと述べています。


(出所:The Star

(画像:Image by akenarinc from Pixabay )