[フィリピン] パンデミックではじけたPOGOの夢

2021/11/22


フィリピンでは、パンデミックにより経済が大きな打撃を受けようとも、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)や電子工業などの産業はフィリピンに残留することを選択しましたが、フィリピン・オフショア・ゲーミング事業者(POGO)は退去することを選択した産業でした。


POGOの退去により、2020年、フィリピン経済は158.5億ペソ(約358億円)もの損失を出しました。フィリピン政府のデータによると、2021年には177.3億ペソ(約400億円)に達しそうです。


国営のフィリピンゲーミング公社(PAGCOR)によると、少なくとも28社のPOGOのライセンス保有企業が、2020年のパンデミックの始まり以降、フィリピンでの事業と資産を放棄しています。


PAGCORのオフショアゲーミングライセンス担当副社長補佐代理ヴィクター・パディラ氏は、POGOからの収入が、2019年の70.1億ペソ(約158億円)からほぼ25%減の52.8億ペソ(約119億円)まで落ち込んだと話しています。2021年については、さらに収入は落ち込んで33.9億ペソ(約76億円)となると見込んでおり、2年間で53.6億ペソ(約121億円)のマイナスとなります。


リーチュウ・プロパティ・コンサルタンツ社のCEO、デイヴィッド・リーチュウ氏は、POGOはパンデミックから18か月で、875,000平米のオフィススペースから退去するか、アイドリング状態にしていると言います。プライスポイント1,200ペソ(約2,710円)/平米では、不動産市場は一か月あたり10.5億ペソ(約24億円)収入が減ったことになり、年間では126億ペソ(約284億円)になります。


リーチュウ氏は、政府も、POGOが賃貸していたオフィススペースにかかる12%のVATを通じた年間の歳入15.1億ペソ(約34億円)を逃すことになると説明しています。


パディラ氏は、ライセンスの取り消しを求めたPOGOは、拠点を何とか破産させないようにするのに苦戦していると言います。ロックダウンが再実施されたことで活動再開ができず、国境の制限により外国人労働者の入国ができないからです。このことから、ライセンス取得事業者の中にはこれ以上オペレーションを続けることができないと判断し、閉鎖を決めた事業者もあるようです。


フィリピンを去ったPOGOの多くは、域内のカンボジア、ラオス、ベトナム、遠いところではドバイに移転しています。パディラ氏は、PAGCORは、これらのPOGOは移転先に留まるだろうと予測していると述べています。


2021年9月、ドゥテルテ大統領は共和国法No.11590に署名、POGOに対して総収入の5%に相当するゲーミング税の支払を命令しました。この法律はまた、PAGCORおよび経済特区の規制当局に対して、ライセンスを受けた者から最大2%の規制手数料を回収することも認めています。


さらに、POGOで働く外国人労働者についても、総給与に対して25%の源泉徴収税を課し、納税者番号のない従業員については、一人当たり20,000ペソ(約45,130円)の罰金を会社に科すことになりました。


上院にこの措置を提出した、ピア・カエタノ上院議員は、財務省からの推定値を引用し、この法律により2022年には321億ペソ(約724億円)の税収が得られると述べました。


2021年8月時点で、PAGCORの管理下には、41社のPOGOと133社のサービスプロバイダがあり、そのほとんどがベイエリア、マカティ、およびアラバンのオフィスビルに入っています。


JLLフィリピンでリサーチ&コンサルタント長を務めるジャンロ・デ・ロス・レジェス氏は、フィリピン政府がコロナウイルスの感染拡大封じ込めに成功すれば、POGOの関心に再度火をつけることができるかもしれないと述べています。それまでの間は、オフィススペースの所有者は支払スケジュールを調整するなどして、POGOなしで生き延びなくてはいけません。


「オフィスの稼働率を高めるための対策については、家主および場所によってバラバラです。賃料の引き下げ、柔軟性のある支払条件、一時的な需要の取り込み、コスト最適化、リース期間短縮などが行われています。」


PAGCORのパディラ氏は、パンデミックの期間に国外に出たPOGOは新天地に留まるだろうとして、フィリピンが2019年のようなPOGOの数を見ることはもうないだろうと述べています。


「新しい国に移転して、より有益なビジネス環境を見つけたら、フィリピンに戻ってくるというのはまずないでしょう。」


新しいPOGOを呼び込むべく、LPCのリーチュウ氏は、政府は外国からの渡航者に対する渡航制限を緩和するだけでなく、中国政府がパスポートの発行を再開するように祈らなければならないと述べています。


7月、中国政府は、新種の変異株、特にデルタ株の感染拡大を最小限に抑えるべく、緊急でない渡航のためのパスポートの処理および更新を停止しました。ビジネス、仕事または勉学の目的で、特定のフライトのみが許可されている状況です。


政策立案者はPOGOが不動産および歳入に与える経済的な影響を決して無視してはならない、とリーチュウ氏は述べています。パンデミック以前、POGOがメトロマニラとそれ以外の都市に賃貸したオフィススペースは167万平米、年間250億ペソ(約564億円)に相当します。


リーチュウ氏は、今後の課題は、POGOに対する課税を執行し、法の定めに従って、POGOがフィリピン政府に支払わなければいけない税金を収めさせることだと指摘します。


政府や不動産オーナーが、POGOに戻ってきてほしいと願う一方で、ギャンブル活動に伴う犯罪のリスクを懸念して、戻ってこないことを願う人たちもいます。


カエタノ法案に反対のフランシス・パンギリナン上院議員は、POGOへの課税と合法以下のコストはメリットを上回る、と述べています。POGOの外国人労働者をめぐって、デジタル売春、人身売買、入国時の賄賂、誘拐、殺人などの事件があったからです。


1月、中華系フィリピン人の市民団体のリーダー、テレシータ・アンシー氏は、フィリピン国内の10万人超の中国人労働者は、昨年11月にはすでにワクチン接種を受けていたと言います。当時、食品医薬局は、フィリピン国内向けのワクチンをまだ承認していない段階でした。


2019年、労働雇用省は、POGOに対して123,649件の外国人雇用許可を発行しています。このうち、10人に1人は中国人でした。対照的に、当時POGOで働いていたフィリピン人は31,556人のみで、POGO業界がフィリピン人に十分な雇用機会を与えているのかについて疑問の声が上がっていました。


(出所:Philstar

(画像:Photo by Axville on Unsplash )