海外不動産の外国税額控除は可能? 5つのポイントを専門家が徹底解説

2025/01/16

監修:海外不動産税務の専門家 大木宣幸
(公認会計士・税理士・宅地建物取引士)
International CPA Firms・大木国際会計事務所 代表


「海外不動産の外国税額控除ってなんだろう?」
「外国税額控除があるとしたらどれくらい?」


海外に保有する不動産について、日本の居住者であれば「外国税額控除」という制度が利用できます。

とはいえ、そもそも外国税額控除とはなにか、どのくらい控除できるのか、気になる方も多いはず。

今回の記事では、海外不動産にかかる外国税額控除について、その定義から対象となる税金、控除できる金額、確定申告の注意点まで専門家がわかりやすく解説します。


最後まで読むことで、外国税額控除の考え方を理解し、ポイントをおさえて制度を利用できるようになります。

保有する海外不動産について、外国税額控除を正しく賢く利用して確定申告をしましょう。



なお、売却する海外不動産の確定申告のポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

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海外不動産を売却したい! 確定申告のポイント3つを専門家が徹底解説




海外不動産の外国税額控除5つのポイント


海外不動産の外国税額控除については、以下の5つポイントをおさえる必要があります。

1.外国税額控除とは
2.外国税額控除の対象となる税金
3.控除できる額(控除限度額)
4.控除限度額に満たないとき・超過するとき
5.確定申告時の注意点

では、ひとつずつ見ていきましょう。




1.外国税額控除とは

外国税額控除とは、日本に居住する者が海外で収入を得た際に、現地でも日本でも課される二重の所得税を調整するしくみです。

国際的な二重課税を調整するために、一定額を日本の所得税額から差し引く(控除する)ことができます。

ここでいう「税額控除」とは、住宅ローン控除と同じようなイメージで、税額からダイレクトに控除できるという意味です。


もう少し詳しく見ていきましょう。

海外で不動産を賃貸したり売却したりして得た収入は、現地の法令に従って所得税がかかります。

しかし、日本に1年以上居住している場合、当該所得に対して日本でも所得税がかかります。

というのも、日本では、所得を得た場所(国内・海外)に関係なく課税をする「全世界所得課税方式」が採用されているからです。


▼二重課税のイメージ図(PropertyAccess作成)



現地でも課税され、日本でも課税される所得税の二重課税を調整するのが「外国税額控除」です。

外国税額控除の適用を受けることで、現地で支払った所得税に相当する税金については、一定額を日本の所得税額から控除できます。




2.外国税額控除の対象となる税金

外国で支払った税金であれば、なんでも外国税額控除の対象となる訳ではありません。

外国税額控除の適用を受けられる種類の税金(=外国所得税)かどうか、確認することが必要です。

外国所得税に含まれるのは「外国の法令に基づき外国またはその地方公共団体により個人の所得を課税標準(*) として課される税」です。

(*) 課税標準=税金を計算するときの基礎となる価額



国税庁は、外国所得税に含まれるものとして、以下のような例を挙げています。


  1. 1. 超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
    2. 個人の所得またはその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
    3. 個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
    4. 個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税



一方で、外国所得税に含まれないものは、消費税や固定資産税などの地方税など、個人の所得が課税標準でないものは控除対象外です。

外国所得税であっても、外国税額控除の対象とならない税額もあります。

国税庁のホームページに詳細が記されていますので、事前に確認しておくと確定申告もスムーズにできます。

個別の事例については、専門家や税務署に相談してみるのも良いでしょう。


【補足】

租税条約との関係は?

誤解されている方が多いのですが、租税条約が締結されていない国であっても、外国税額控除は適用可能です。

外国税額控除は租税条約だけでなく、そもそも日本の税法でも定められている制度だからです。

例えば、日本と租税条約がないカンボジアなどで、所得税に相当するものが生じた場合、それが外国税額控除の対象になる税金であれば、日本側で外国税額控除の適用対象になります。




3.控除できる限度額(控除限度額)

控除できる限度額(控除限度額)は、所得税額のうち、その年の所得全体に占める国外で発生した所得の割合に相当する金額のイメージです。


(*) 過年度の損失の繰越などがあれば、繰越の控除を適用する前の金額



たとえば、ある年に日本で発生した所得と国外で発生した所得の割合が8:2だったとします。

計算上の所得税額が100万円だったとき、2割に相当する20万円が控除限度額です。


このように、その年の所得状況により控除限度額は変動しますので、支払った税額の全てが控除できるわけではありません。

ただし、控除できなかった外国税額は、翌年以降3年間繰り越しが可能です。

繰り越しについては、次の章で詳しく説明していきます。



また、復興特別所得税・地方税についても、同様の割合で控除限度額が計算されます。

(*) 2013年から2037年まで、東日本大震災からの復興事業のための財源確保のための税金

国外で支払った日本の所得税に相当する税金があれば、この控除限度額内で控除可能です。




4.控除限度額に満たないとき・超過するとき

実際に支払った外国所得税額が控除限度額に満たないとき、または超過するとき、その差額は最大3年間繰り越しできます。




ある年に発生した控除余裕額や控除限度超過額は、翌年以降3年間に発生する控除余裕額や控除限度超過額と相殺可能です。

過年度に控除し忘れた外国税額控除があった場合は、
更正の請求を行い、取り戻すこともできます。

更正の請求は、法定の申告期限から5年以内に行うことが必要です。




5.確定申告時の注意点

外国税額控除を受けるためには、確定申告をする必要があります。

確定申告をする人が誰でも提出する第1表、第2表の他に、「
外国税額控除に関する明細書(居住者用)」を提出します。

このとき、次の(ア)(イ)に気を付けましょう。


(ア)証明書の提出

外国税額控除を適用するためには、外国で支払った税金の証明書を提出しなくてはなりません。

外国所得税が課されたことを証明する書類、その課された税が外国所得税に該当することについての説明を記載した書類などです。

これには、税額が記載された領収書や納税証明書など、外国の税務当局が発行した正式な証明書が必要です。


(イ)期限内の申告

外国税額控除を適用するためには、確定申告を期限内に行う必要があります。

確定申告の期間を過ぎると、控除を受けられなくなるので、早めに必要書類を整え、期限内に申告を行うことが大切です。

毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を行います。

外国税額控除の計算は複雑ですので、税務署や税理士によるアドバイスを受けると安心です。

特に、外国の税法や条約、海外との取引に詳しい税理士に相談することで、適切な申告ができるようになります。




まとめ

今回は、海外不動産にかかる外国税額控除について、以下の5つのポイントをご説明しました。

1.外国税額控除とは
2.外国税額控除の対象となる税金
3.控除できる額(控除限度額)
4.控除限度額に満たないとき・超過するとき
5.確定申告時の注意点



外国税額控除とは、日本に居住する者が海外で収入を得た際に、現地でも日本でも課される二重の所得税を調整する仕組みです。

国際的な二重課税を調整するために、一定額を日本の所得税額から差し引く(控除する)ことができます。

外国税額控除の対象となるのは、外国の法令に基づき課される個人の所得を課税標準として課される税です。

外国で支払ったすべての税が対象となるわけではありません。


また、控除できる金額には限度があります。

控除限度額は、所得税額のうち、その年の所得全体に占める国外で発生した所得の割合に相当する金額のイメージです。

控除限度額に満たない部分(控除余裕額)、控除限度額を超過する外国所得税額(控除限度超過額)は、3年間繰り越せます。


そして、外国税額控除を利用するためには、確定申告が必要です。

外国所得税の支払いを証明する書類をしっかり準備して、期限内(毎年2月16日から3月15日)に確定申告しましょう。

外国税額控除で不安を感じる方は、税務署や税理士にアドバイスを受けると安心です。

特に、外国の税法や条約、海外との取引に詳しい税理士に相談することで、適切な申告ができるようになります。




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