[フィリピン] 不動産市場動向(2022年3月)

2022/04/12


不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2022年3月のレポートを発表していますので、ご紹介していきます。外国投資法、小売り自由化法、公共サービス法の改正により外資の流入が盛んになることで、経済の回復が促され、雇用の創出、リテールスペースの空室率改善などにつながるだろうと述べられています。




■不動産市場全般

・制定から85年が経った公共サービス法を改正する共和国法(RA)No.11659が施行されました。これにより、フィリピンの複数の経済セクターで100%外国資本が認められることなり、今後2年間で約1,000億ドルの外国投資を呼び込むことができると期待されています。

フィリピンのこれらのセクターが、シンガポール、タイ、ベトナムといったASEAN諸国と並んで、外資に開かれることになります。同じように最近施行された、1991年外国投資法を改正するRA No.11647と小売自由化法とともに、今回の公共サービス法改正は、パンデミックの影響を受けた経済の回復を促し、雇用の創設を助け、持続的かつ長期的な成長を促進すると見られています。これらの新法は、公共部門の競争力を高め、通信、運送、航空、鉄道、および地下鉄における現代的な公共サービスへの投資家の関心を集めることにもつながりそうです。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、公共サービスにおける外資規制を緩和することで、競争が高まり、公共サービス各社で世界のベストプラクティスの採用が促進されることから、同セクターに革命を起こすことにつながるだろうと述べています。新規投資の流入は、短期的な経済成長を促すだけでなく、待望のデジタルトランスフォーメーションをもたらし、輸送・物流など主要セクターの効率化を進めることで、フィリピン不動産市場にも恩恵を与えることになるだろうとも述べています。



■オフィス

・フィリピン経済特区庁(PEZA)に登録したIT-BPM企業に、従業員の90%を上限として在宅ワークを認めつつも財政インセンティブを受ける権利を与える政府の決議の有効期限が迫り、PEZAは、従業員の70%は出勤、残りの30%は在宅ワークというハイブリッド型の働き方を登録BPOに対して認める旨の覚書回章(Memorandum Circular)を発行しようとしています。90%在宅-10%出勤の働き方の有効期限が3月31日で満了し、PEZAは外国投資審査委員会(FIRB)に延長を求めていましたが失敗に終わったため、今回の回章が発行されるに至りました。


・人々がオフィスに戻ることで、オフィス不動産を促進するだけでなく、リテールやレジデンシャルといった国内の不動産市場全体が刺激されるという望ましいシナリオですが、一方で在宅ワークもその地位を築いてきているのが事実です。多くの企業や従業員が、現在の働き方をうまく活用できているので、フィリピンの競争力と経済的な利点とのバランスがとれるような、機敏な働き方に関する最適な政策対応を実施する必要があるだろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■レジデンシャル

・行動制限や事業の制限緩和にともないレジデンシャル不動産の需要が高まる中、フィリピンのレジデンシャル不動産価格インデックス(RREPI)は、2021年第4四半期に4.9%上昇し、2020年同時期の0.8%を大きく上回りました。メトロマニラ外のレジデンシャル価格が前年同期比で5.1%上昇、メトロマニラでは5.0%上昇となりました。不動産タイプ別では、タウンハウスとコンドミニアムの価格が前年同期比でそれぞれ22.6%、10.4%上昇し、一戸建ておよびデュプレックスのマイナス(それぞれ-1.1%、-10.2%)を相殺する形となりました。フィリピン中央銀行(BSP)によると、2021年末時点で、メトロマニラの新築住宅の平均評価額は平米当たり115,235ペソ(約27.7万円)でした。一方で、メトロマニラ外の平均は49,905ペソ(約12.0万円)、国内平均は74,347ペソ(約17.9万円)です。
・Covid-19関連の懸念が薄まり、徐々にオフィスに戻る計画が進むことで、主要なビジネス地区でのレジデンシャルコンドミニアムの需要も再燃してきそうです。しかし、地方のレジデンシャル需要を支えるのは、交通インフラの改善で、交通インフラの改善が当該エリアにおけるさらなるレジデンシャル不動産開発を促進することにもなるだろう、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■ホスピタリティ

・国内・海外旅行関連の旅行・観光セクターからのローンの申し込みが、国内・海外旅行のための書類や隔離の要件のさらなる緩和、そして台風オデット(国際名:ライ)の被害を受けた観光地からの事業再開のための支援(CARES)の需要増を受けて増加しているようです。

フィリピン貿易産業省傘下中小企業振興公社によると、旅行・観光セクターからのローン申し込み約2億7,800万ペソをすでに承認し、現在約5億2,400万ペソの処理を進めているということです。中小企業振興公社は、ロックダウンが延長された期間と業界の先行きの不透明さから、旅行・観光業界はローン支援を受けるという点で他業種の中小零細企業に遅れを取ったと述べています。

パンデミック対応の景気刺激策第2弾となるBayanihan2法のもと、中小企業振興公社には79.3億ペソのローン資金が割り振られ、うち40億ペソは旅行・観光セクター向け、残りの39.3億ペソは貿易、製造、サービス、農業などのセクターの中小零細企業向けのローンでした。これまでに、中小企業振興公社は、他セクターの中小零細企業向けに当初の割り当て額を超える59億ペソのローンを承認しています。

・ホスピタリティ業界は、国内外の渡航規制が緩和されるにつれて、状況が改善してきています。短・中期的な見通しは国内外の状況に左右されそうですが、観光インフラ開発を後押しすることで、ホスピタリティ業界が失った勢いを取り戻し、長期的な回復を支えることになりそうだと、クッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■工業/物流


・シンガポールを拠点とするデータ会社「スペースDC(SpaceDC)」は、リサール州カインタに国内最大級のハイパースケーラーデータセンターの建設を計画しています。MNL1データセンターと呼ばれるこのデータセンターは、貿易産業省の発表では、7億USドル相当の投資額が見込まれているということです。計画能力72メガワットで、巨大な顧客ベースとユーザー需要増により莫大な量のスペース、電力、そして接続性を必要とする、クラウドおよびインターネットサービスを提供する世界的なテクノロジー企業である「ハイパースケーラー」を対象としています。営業開始は2022年末が予定されています。

再生可能エネルギーを電源として利用するこの施設は、国内の再生可能エネルギー開発への関心を呼び起こすと期待されています。さらに、データ分析・コンサルティングを行うグローバルデータ社によると、フィリピン企業がクラウドサービスに支払う金額が、2024年には18億USドルから26億ドルに達しそうだということです。

・アセットクラスとしてのデータセンターは、企業にかかるデジタルトランスフォーメーションの圧力とともに、ますます魅力的な投資対象となってきています。一方で、フィリピン国内の問題としては、これらの資産がさらなる成長を遂げ大手の国際企業を呼び込むためには、持続的な電源供給やデジタルインフラの改善が必要だと、クッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■リテール


・小売自由化法の改正を定めた共和国法No.11595の施行を受けて、外資企業はフィリピン国内の小売業への投資計画を実行すべく、施行規則が発行されるのを待ち望んでいます。国家経済開発庁(NEDA)は、すでに日本(主にコンビニエンスストアの拡大と専門飲食店)、中国(飲食サービス、自動車小売業)、韓国(飲食フランチャイズ)、UAE(医療機器および食料品)の小売業者が投資に関心を示していると述べています。


・景気回復の兆しがより顕著になることで消費者支出と新規店舗の参入・既存店舗の拡大が増えるにつれて、リテールの空室率は中期的に先細りすると見られています。さらに、オフィス、レジデンシャル、工業といった回復力のある部門と比べると、リテールスペースの新規供給は遅れがちになると予想されています。



(出所:Cushman & Wakefield Philippines

(画像:Photo by Cris Tagupa on Unsplash )