[フィリピン] 2020年4Q不動産市場(マニラ・レジデンシャル)

2021/04/26

[フィリピン] 2020年4Q不動産市場(マニラ・レジデンシャル)

不動産総合サービス会社コリアーズから、フィリピン・マニラのレジデンシャル市場の2020年第4四半期のレポートを見ていきましょう。

コリア―ズは、価格および賃料が回復するのは2022年にずれ込みそうだと予想しています。不安定なメトロマニラのオフィス賃貸市場が、レジデンシャルのプレセールと中古市場の回復を妨げているからです。

2020年、需要の冷え込みにより価格および賃料に調整が入りました。コリアーズは、2021年は回復は見込んでいないようです。

パンデミックに端を発した建設の遅れが、新築ユニットの開発を限定的なものにし、デベロッパーも成約率に活気がないので、販売開始を延期しました。

市場心理が改善してきたら、市場のオポチュニティをつかみ、ペントアップ需要を取り込めるように、コリアーズはデベロッパー各社に対して、クリエイティブな賃貸モデルの開拓、今後のプロジェクトについて郊外エリアの検討、プレセール開発のための任期のロケーションと価格帯のモニタリングを続けるべきだとアドバイスしています。


■需要
パンデミックの影響で需要が低迷、中古市場、プレセール市場ともに過去最低の成約率を記録しました。コリアーズは、中所得層向け~高級プロジェクトが需要をけん引すると見込んでいます。

■供給
コリア―ズによると、2020年に完成したユニットは3,370戸で、2019年の11,233戸から70%減となりました。2020年第4四半期に完成予定だったいくつかのプロジェクトの完成が2021年にずれ込んでいるため、2021年の供給量はややリバウンドが見られそうです。

■賃料
セカンダリー市場の平均賃料は、2020年末、前年同期比で7.8%減となりました。2019年のメトロマニラの平均賃料上昇率は6.9%でした。2022年以降、コリアーズは、賃料にもやや上昇が見られるだろうと予想しています。

■空室率
2020年末時点で、セカンダリー市場の空室率は15.6%に達し過去最高となりました。コリアーズは、2021年もさらに空室率が増えてくるとみています。特に、ベイエリアやフォートボニファシオなど、かなり在庫が積み上がっているビジネス地区で顕著でしょう。

■値上がり
2019年、価格は26%上昇しましたが、2020年は13.2%下がりました。コリアーズは、2022年から徐々に価格が回復を始めると予想しています。メトロマニラのオフィス賃貸が2022年以降ゆっくり回復してくることにも助けられるでしょう。



2020年の完成物件70%減

2020年第4四半期に完成したのは約1,080戸で、2020年第3四半期の625戸から73%増となりました。スタジオ・シティ・タワー5が完成したことで、新築ユニットの40%超がアラバンにあることになります。他には、マカティCBDのガーデン・タワーズ・タワー2、ベイエリアのシックス・センシーズ・リゾート I-タッチ・タワー、フォート・ボニファシオのドゥシット・D2・レジデンシーズなどが完成しました。ベイエリアおよびフォートボニファシオの2,900戸超について、内装工事期間の延長により竣工が2021年前半期に延期されました。考えられる理由としては、建設サプライチェーンの問題と限定的な労働力があげられます。

2020年全体では、完成戸数は3,370戸となり、2019年の11,233戸から70%減でした。このような完成のスローダウンは、過去の景気後退時にも見られました。コリアーズによると、1998年には690戸が完成し、1997年の760戸から9%減でした。同様に、2009年には3,960戸が完成し、2008年の7,610戸から48%減でした。2021年、コリアーズは完成戸数が戻ってきて、10,600戸が完成するだろうと予想しています。これは、同社の当初予想7,910戸から大幅な上方修正となりました。完成予定戸数のうち74%がベイエリア、続いてフォートボニファシオ、ロックウェル、アラバン、オルティガスセンター、マカティCBDとなっています。2021年から2024年にかけて、年間で8,600戸が完成する見込みで、2020年初に同社が予想した6,700戸からこちらも上方修正となりました。


空室率は過去最高

セカンダリー市場の空率率は、2020年第4四半期、過去最高の15.6%を記録しました。一方で、2016年から2019年の年間平均は11%となっています。2020年末時点、主要エリアの空室率の幅は6.3%~22.8%で、2019年末は4.3%~15%でした。2021年、コリアーズはさらに空室率の上昇が進み、16.9%に達するのではないかと見ています。前回の同社の予測では13.5%となっていました。これは、新規完成物件によるところです。上述のとおり、コリアーズは2021年の完成戸数を、2020年の3,370戸から大幅増の10,600戸と予想しています。同社は、オフィス賃貸活動と投資家・エンドユーザーからの成約が戻ってくる2022年後半期には空室率は落ち着いてくるだろうと予測しています。

2020年の需要が落ち込んだ理由は、パンデミックによる海外からの送金と消費者の信頼感への影響によるところが大きいでしょう。コリアーズによると、2020年1月~11月までの、海外で働くフィリピン人労働者(OFW)からの送金額は、対前年同期0.8%減の270.1億USドルとなりました。一方で、2019年1月~11月の送金額は、対前年同期4.4%増となっています。一方で、消費者の信頼感はやや回復するもネガティブな状態が続き、2020年第4四半期は、-47.9でした。2020年第3四半期は-54.5と過去最低でしたので、そこからはわずかに回復しています。

セカンダリー市場の空室率は、主要なビジネスハブのオフィス賃貸の弱まりにも悪影響を受けました。2020年第4四半期の平均オフィス空室率は9.1%に達し、2019年の4.3%から大きく増加しました。市全体の空室率も増加、ベイエリアは、2020年第3四半期は3.8%だった空室率が、6.7%となりました。こちらは、オフショアゲーミング業界からの需要が限定的だったことで、エリア内のレジデンシャル賃貸にも影響を及ぼしました。コリアーズによると、2020年は全体的にレジデンシャルの問い合わせが少なく、フォートボニファシオやマカティに外国人駐在員用のコンドミニアムを検討していたような企業は、レジデンシャル賃貸プランを保留にする動きがみられたということです。しかし、フィリピン中央銀行が、送金額の4.0%増を予想していることに低金利環境も加わって、2021年末までには改善が見られる予想です。フィリピン中央銀行の、ベンジャミン・ディオクノ総裁は、経済を支えるべく、低金利状態を継続する意図を示しており、これにより競争力のある住宅ローン利率を維持できるからです。フィリピン中央銀行からのデータによると、2020年第4四半期の消費者期待値調査(Consumer Expectations Survey)もまた、今後12か月の間に不動産を購入予定の世帯の割合は、2020年第3四半期の3.3%から上昇して3.6%となっています。


賃料・価格の回復

2020年末、セカンダリー市場の価格および賃料は、それぞれ13.2%と7.8%減少しました。この落ち込みは、リーマンショック時よりは大きかったものの、アジア通貨危機の時よりは緩やかでした。アジア通貨危機の際には、価格と賃料の下落は、それぞれ14.5%と15.4%に達しました。コリアーズは、2022年には価格および賃料がそれぞれ1.5%、1.7%上昇すると予測しており、成長のペースのカギを握るのは、国内外の投資家心理とオフィススペースの成約率の回復だと述べています。

コリアーズは、2020年、かなりの数の賃貸契約の早期終了が発生したことで、メトロマニラ全体の賃料の下落につながったと考えています。本帰国や、会社が提示する早期退職を得た従業員などにより、前年同期比で早期終了は2倍以上であったのではないかと推定しています。また、プレセール価格に近い価格で物件を処分するオーナーもいたようです。クバオ、ケソンシティ、マンダルヨン、パラニャケ、モンティンルパといったメトロマニラの郊外エリアで転売されているプロジェクトは、7%~24%の割引で販売されています。コリアーズによると、これはベイエリア、フォートボニファシオ、マカティCBDといったCBDエリアの5%~23%割引と比較すると、やや割引率が高くなっているということです。

(出所:Colliers

(トップ画像:Photo by Assy Gerez on Unsplash)