[マレーシア] 利上げ加速へ中銀に圧力

2022/07/04


積極的な米国の連邦準備制度、世界の食料およびエネルギー価格が長期間高止まりするとのコンセンサスの広がりを受け、また供給ショックがさらに価格を押し上げる可能性が懸念される中、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)に対して利上げを加速させる圧力が高まっています。



シンガポールのUOBグローバル・エコノミクス・アンド・マーケット・リサーチは、「何もしない、もしくは行動が遅すぎる」と、将来、需要や経済全体によりネガティブな影響を与えるような、インフレ高止まりの長期化の種を撒くことになりかねないと述べています。



同社のエコノミスト、ジュリア・ゴー氏、エンリコ・タヌウィジャヤ氏、ジャスリーン・ロク氏は、「そうすると、利上げもより急激かつ唐突なものになる必要があります。次の不況(が起こったとき)に備えて、今から十分な政策のバッファーを取っておくために、今、素早く行動する必要があります。近隣諸国と比べると遅れ気味なBNMの対応は、2022年後半期に、過剰なリンギットの変動リスクを起こす可能性があります。」と述べています。



さらに、各国の中央銀行は、2022年5月以降、すでに連続して利上げを行ったり、予想よりも大幅な利上げを行ったりしています。インフレが長引きそうな見通しがでていることで、長期的なインフレ予想を抑え込み、信用力にテコ入れするために、利上げを前出しせざるを得ない中央銀行が増えているのです。



積極的な政策ガイダンスの引き締め、ウクライナ危機の影響、中国でのCovid-19対策に、ますます厳しくなる世界の金融情勢が、世界恐慌の恐怖をあおっています。



「したがって、我々は、急速に縮まるアメリカとの金利差が、資本の流入やリンギットにより圧力をかける一方で、BNMが、これらの要素が国内経済状況にどのように影響しうるかを計っていく必要があると考えています。」とエコノミスト3人は述べています。



BNMはインフレ・ターゲット(目標)のしくみを採用していません。政府の補助金が入っていることで、総合インフレ率は依然として制御可能な範囲内ですが、エコノミストたちは、政府の補助金にかかるコストが増えてきて価格統制のために供給側にねじれが生じることで、すでに政府は補助金のメカニズムの再評価を迫られていると指摘します。



2022年7月19日、政府はボトル入りの料理用油への補助金、鶏肉と卵の上限価格を7月1日から撤廃することを発表しました。市場での適切な食品供給を確保し、長期的な価格の安定化をはかるためです。




9月末までに50ポイントの利上げの余地


4月から5月にかけて経済および国境の完全再開されたことで、国内の成長見通しが高まっていることも、根底にある需要価格の圧力を高めているようです。



「国内の回復と最近の進捗から、7月と9月の会合で、25ポイントずつ上げきる余地があるとみています。」



BNMは、5月に主要金利を25ポイント上げて2%としたばかりです。2018年以来初めての利上げとなりました。BNMは、当初、金融緩和の撤廃は「慎重かつ段階的」に行っていくような口ぶりでした。



しかし、一方で、金利調整の指標ともなる、マイナスの産出量ギャップが、見通しよりも速いペースで縮まっていることも認識しているようです。



「マレーシアの成長の勢いが、今四半期とその次も堅調に続くと見込んでいますので、BNMは、成長率をしっかり保つ一方で、インフレリスクに蓋をするために、利上げの繰り上げを検討しそうです。我々の最新の政策金利予測では、2022年末までに2.5%、2023年末までに3%と予想しています。今年は75ポイントの利上げが予想されていますが、パンデミック期間に行った125ポイントの利下げのほんの一部ですので、金融政策は依然として緩和的な状態が続くでしょう。」とエコノミストたちは述べています。



マレーシアのコアインフレは、4月、7カ月連続で上昇し2.1%となりました。これは、2018年1月以来最も高いレベルで、長期平均の4.1%も上回っています。



また、総合インフレの2.3%とも近く、この上向きのトレンドは、2022年後半期にも続くものと見られています。世界的な食料供給不足が長引き、物価も上がり、有利なベース効果も切れて、通貨も弱い状態だからです。



上記を鑑みて、BNMは、2022年のコアインフレの予測を、平均してより高い2%から3%としています。これは、BNMの総合インフレの見通し2.2%から3.2%に近付いています。UOBの推定では3%です。



「特筆すべきこととしては、現在のインフレ見通しは、小麦粉、砂糖、料理酒といったその他の価格管理された物品の価格引き上げの可能性や電気代・水道代の調整、さらには燃料補助金が織り込まれていないことです。これらは、ベースラインのインフレ予測に対する上振れリスクをさらに悪化させるでしょう。これらの価格見直しが具体化すれば、インフレの二次的効果を悪化させることになるでしょう。」



UOBのエコノミストたちは、アメリカの連邦準備制度がさらに利上げを行い、2022年末までに3.5%に、2023年第1四半期末までにはさらに4%にまで上げてくると予測しています。「新興市場の中央銀行も後に続くでしょう、そうでなければ、アメリカの金利との金利差に後れを取るか後れを取ってしまいます。」と述べています。


 

(出所:The Edge Markets

(画像:Photo by Ashikin M. on Unsplash)