[フィリピン] 2021年フィリピン不動産見通し - 2021年の景気回復とともに

2020/12/24

[フィリピン] 2021年フィリピン不動産見通し - 2021年の景気回復とともに


オンラインニュース「Business Inquirer」に掲載されている、総合不動産サービス会社コリアーズ・フィリピンの来年の不動産市場の見通しについての見解をご紹介していきます。


コリアーズは、デベロッパー各社に対して、投資家およびテナントの好みの変化に適応し、パンデミックにより再定義された不動産市場を生き抜いていくようアドバイスしています。


2021年の景気回復が期待される中、パンデミックによるロックダウンがもたらしたオポチュニティを活かすべく、資産の転換や別目的での利用をすすめていくべきだともアドバイスしています。


インフラプロジェクトも不動産会社が開発戦略を練っていく上で、重要な役割を果たしていくでしょう。


■フィリピン不動産に恩恵をもたらす経済成長

フィリピン経済は、2020年第3四半期11.5%収縮し、1月~9月累計では10%収縮しました。これにもかかわらず、カルロス・ドミンゲス財務相は、2021年の経済リバウンドについて、2021年の第2四半期、第3四半期に展開される見込みのコロナウイルスのワクチンを受けて、楽観的な見方をしています。


コリアーズ・フィリピンは、2021年以降の経済成長を支える主要な政策は、メトロマニラ内外の重要なインフラプロジェクトの実施だと考えています。


以前から、コリアーズは、鉄道、有料道路、空港などの建設および更新が、地価や不動産価値の上昇に貢献することを強調しています。このようなプロジェクトが、パンデミックを乗り越えるための不動産会社の開発戦略を定める上で、重要な役割を果たしていくだろうと指摘しています。


2021年の予算では、政府は、1,090億ペソを運輸省に、6,670億ペソを公共事業・高速道路省に割り当てています。コリアーズは、この割り当てが、今後も国内のインフラ建設を支えていくと述べています。このような公共事業は、2022年以降メトロマニラ以外のエリアにおける総合的なコミュニティへの需要をかきたてることにもなりそうです。


よって、2021年国家予算のタイムリーな承認そして実施が、2021年の経済成長を支えていくうえで重要になります。


コリアーズは、政府が見込んでいる景気回復の機会を活かし、不動産デベロッパーやオーナーに対して、土地の取得や開発戦略をより計画的に行い、2021年の景気回復とともに見込まれている繰延需要を取り込むべきだとアドバイスしています。



■オフィス:2021年のオフィス賃貸市場に対応するために


コリアーズは、オフィス賃貸については厳しい状況が続くと予想しています。


オンラインカジノ業者(Philippines Offshore Gaming Operators(POGO))が退去を続けた一方で、従来の企業やアウトソーシング企業は、店舗を畳んだりオフィススペースの合理化を進めてきています。


2020年1月~9月で、オフィススペースの純成約面積はマイナスとなり、前年同期の605,60平米から一転して-113,000平米となりました。


したがって、コリアーズは、2020年末時点のメトロマニラのオフィス空室率は9.1%に到達すると予想しています。2019年は4.3%でした。2021年については、純成約面積は250,000平米、空室率はさらに上がって11.6%になると見込んでいます。


メトロマニラの新規供給もまた、パンデミックの影響を受けそうです。コリアーズは、2021年に完成するオフィスビル面積は632,600平米と予想しており、当初予想の969,900平米から35%下方修正しました。


コリアーズは、オフィス賃貸の回復は主に、国内企業の再開を促す一般的な企業マインドが戻ってくるか、またフィリピンのアウトソーシングサービスを利用する世界経済の回復にかかってくると考えています。


通信、医療事務、医療情報管理およびEコマースといった主要セグメントが、賃貸需要を押し上げることが期待されており、2021年後半期には賃料も戻ってくるとみられています。


多くの賃貸活動が一時的に止まった状態になる中、一部のテナントは積極的にオフィススペース探しをしています。ハブ&スポーク方式(*)など代替スキームを実施しようとしている企業が中心です。

(*) ハブ&スポークとは
オフィスでいう「ハブ&スポーク」とは、サテライトオフィスを構え、本社を小規模に抑えて、ロックダウンなどが起こった時の事業継続を確保する戦略です。


コリアーズは、オフィスのオーナーに対して、より積極的にテナントのニーズにあった代替の賃貸プランを提供したり、POGOの退去などにより空いたフィリピン経済特区庁(PEZA)の認可オフィススペースに入居しようとしている企業をサポートしたりしていくことをアドバイスしてます。


また、主要なビジネス地区と比べると賃料が30%~50%安いコアでない地域のオフィススペースなども提案してオプション拡大につなげていくべきだと提案しています。ハブ&スポーク方式を取ろうとしているような、本社一か所集中をやめて、分散型の戦略を取ろうとしているような企業にとってはとても重要です。


テナントの多くは、様子見のスタンスを取り、事業環境の不確定性を考慮しながら、コスト削減のチャンスを伺い、長期事業計画に賃貸戦略を合わせていくと見られています。
 

コリアーズによると、不確定性が高まった今回のパンデミックの期間に、短期リースのオプションを探ったり、従来のオフィスをリモートワーク型の働き方で補完する形態を取ったりする企業の動きが見られたということです。



■レジデンシャル:キーワードは総合的なコミュニティと中所得・ラグジュアリーセグメント


1.コンドのプレセールをけん引した中所得層向け、ラグジュアリーセグメント

パンデミックにもかかわらず、中所得層向けおよびラグジュアリー(320万ペソ以上)のプロジェクトは堅調で、2020年1月~9月に販売開始した物件の89%を占めました。また、中所得層向け~ラグジュアリープロジェクトは、同期間のプレセール市場の総売上の85%を占め、前年同期の72%からも増加しました。


過去2年で、これらのセグメントがプレセールに占める割合は68%でした。


コリアーズは、2021年のレジデンシャル需要は、これらのセグメントのプロジェクトにけん引されていくのではと述べています。同社のデータによると、2020年第3四半期時点で、2021年から2022年に完成予定のこれらのセグメントのプロジェクトのうち、約86%がすでに成約済みだということです。


繰延べ需要をつかむためには、デベロッパーが柔軟な支払条件に対応したり、プロップテック(不動産×テクノロジー)のプラットフォームを採用したりしていくことも必要なようです。


ロックダウンによる建設の遅れで、2020年に引渡しされる予定のユニット数は、当初予想の14,720戸から59%下がって、現在では6,000戸の予想です。2021年には、7,270戸の新築ユニットの完成が予想されています。新規供給のうち約76%がベイエリア、続いてフォートボニファシオ、アラバン、オルティガスセンター、マカティCBDとなっています。


政府は、2021年には海外で働くフィリピン人労働者からの送金も回復する予測しています。低金利環境やオフィス賃貸の回復、さらにエンドユーザーや投資家の成約も復活してくることで、レジデンシャル市場にスピルオーバー効果をもたらしそうです。


需要の回復に伴い、価格や賃料も回復してくるでしょう。コリアーズは、2020年の-13%(価格)、-7.7%(賃料)から逆転して、2021年末までにはそれぞれ1.7%、2.1%増となると予想しています。


コリアーズは、2020年のプロジェクト新規立ち上げを見送ったものの、2021年の繰延需要を取り込みたいコンドミニアムデベロッパー各社に対して、プレセールに魅力的な価格帯やエリアを検討していくことをアドバイスしています。1月~9月に成約した中所得層向けプロジェクトのうち48%が、パラニャケ、パシグ、アラバン-ラス・ピニャスのエリアでした。一方で、高所得層向け~ラグジュアリープロジェクトで成約したプロジェクトの大部分が、パラニャケ、ベイエリア、オルティガスセンターおよび周辺地域、C-5道路パシグ回廊といったエリアでした。


2.メトロマニラ以外のエリアでの安定的な一戸建て住宅プロジェクト需要


コリアーズはまた、パンパンガ、カヴィテ、ラグーナ、バタンガスと言ったメトロマニラ以外の主要エリアにおける一戸建て住宅プロジェクトの需要が安定してあったことについても指摘しています。大きな居住空間、オープンエリア、屋外スペースのある住戸を求めるバイヤーが多いようです。


コリアーズは、デベロッパー各社に、土地付き住宅および土地のみのプロジェクトの代替地を開発していくこと、また市内または市街地周辺にある古い構築物を再開発して、総合的なコミュニティに再開発できないかの検討をしていくことをアドバイスしています。


3.総合的なコミュニティ(Integrated Community)へのさらなる関心


今回のパンデミックとそれに伴うロックダウンで、必要不可欠な物やサービスにすぐアクセスができる、総合的なコミュニティの利便性への関心がより高まりました。したがって、レジデンシャルプロジェクトの需要は、そのような総合的な側面の有無に左右されそうです。コリアーズは、総合的なコミュニティかどうかが今後マイホームを検討する人の主要な検討項目になっていくことが予想されるため、そういった側面をアピールしていくべきだと強調しています。


また、レジデンシャルデベロッパーがメトロマニラ外の需要をつかむには、戦略的な土地取得と政府のインフラプロジェクトに合わせた動きがポイントになりそうです。コリアーズは、レジデンシャルデベロッパーに対して、メトロマニラ外のレジデンシャル需要を加速する、海外で働くフィリピン人労働者(OFW)にも積極的に働きかけていくことをアドバイスしています。


■リテール:需要を支えるオフライン/オンライン戦略


パンデミックにより、消費者に支えられるフィリピン経済の成長は大きく阻害されました。特に大きな影響を受けたもののひとつが、モール事業者および小売業者です。パンデミックおよびロックダウンにより、モール事業者は、遠のく客足に適応するような革新的な戦略を実施していくことを迫られました。


2020年から2022年にかけては、飲食物、医療・生活必需サービスに従事する小売業者が、リテールスペースの成約面積を伸ばしそうです。必要不可欠でない小売業者の、実際の店舗スペース成約の動きは弱まるでしょう。


コリアーズによると、2020年の53,100平米から増えて、2021年には新規リテールスペース449,700平米が完成予定です。


2021年以降の新築モール建設は、フィリピン家庭の消費者心理と購買意欲の回復、さらにオンラインショッピングの人気が高まる中でも実際のモールスペースを使っていくかどうかという小売業者の傾向に左右されるだろうとコリアーズは述べています。
 

(出所:Business Inquirer

(トップ画像:Image by Eduardo Davad from Pixabay)