[フィリピン] 恒大集団問題で気になるデベロッパー各社の負債は?

2021/09/30


中華人民共和国広東省深圳市に本拠を置く(登記上の本籍地はケイマン諸島)不動産デベロッパー、恒大集団(Evergrande、エバーグランデ)の経営悪化の報道が世間を賑わせています。


今回のニュースの背景には、昨年末より中国政府が不動産市場に対する融資を引き締めていることがあります。特に不動産開発に対しては、一定基準である「3条紅線(3つのレッドライン)」を満たさない企業の資金調達を禁じるとしました。



なお、「3条紅線」とは、

① 総資産負債比率が70%を上回らないこと
② 自己資本負債比率が100%を上回らないこと
③ 現金に対する短期負債の比率が100%を上回らないこと、です。



恒大集団の場合は、2020年12月末時点で「3条紅線」のすべてに抵触し、新たな資金調達ができなくなりました。その後、2021年上期に資産売却による返済を進めましたが、手元資金の不足で2021年9月20日の週に控えている利払いが行えない見通しとなったのです。



2021年6月末の有利子負債残高は5,718億人民元(約9.8兆円)でした。Yahoo Newsによると、このとき、有利子負債残高から現金・現金同等物などを差し引いた純有利子負債は4,101億人民元(約7.0兆円)で、社債も192億3600万USドル、1.01億香港ドル、合計で約2.1兆円の発行残高があります。


ここで、恒大集団の2021年6月末の財務数値を見ていきましょう。恒大集団の2021年6月末の総資産は2兆3,776億元(約40.4兆円)、総負債は1兆9,655億元(約33.4兆円)にも上ります。



中国の2020年の国内総生産が101兆6,000億元でしたので、恒大集団の総負債は中国のGDPの約2%に相当することになります。また、トヨタ自動車の2021年3月期(通期)の営業収益が27兆2,145億円でしたので、トヨタが1年間に稼いだ営業収益よりも大きな額の負債を抱えていることになります。



▼恒大集団の2021年6月末の貸借対照表イメージ




次に、「3条紅線」に照らし合わせて見ていきましょう。細かい調整は加えずに、ざっくりと財務諸表から拾える数字で計算してきます。


①総資産負債比率が70%を上回らないこと

総資産負債比率=総負債÷総資産=19,665÷23,776×100=83%


②自己資本負債比率が100%を上回らないこと

自己資本負債比率=総負債÷自己資本(純資産)=19,665÷4,110×100=557%


③現金に対する短期負債の比率が100%を上回らないこと

現金に対する短期負債の比率=現金・現金同等物÷短期負債=868÷15,728×100=1,813%


たしかに、3つの基準のどれも満たしていないようです。



ここで気になってくるのが、フィリピンデベロッパー各社の数値です。主要各社はどうなっているのでしょうか。直近の会計年度の数値をPropertyAccessが各社のアニュアルレポートから拾ってみました。




総資産負債比率を見ていくと、最も高いものでビスタランドの63%、最も低いものでメガワールドの43%、平均は57%と、3つの紅線の①を全社クリアしています。



自己資本負債比率については、平均140%で紅線の②をクリアしているのはメガワールドのみ、惜しいところでDMCIホールディングスの102%となっています。



現金に対する短期負債の割合は、平均524%ですが、特にアヤラランドが平均を釣り上げている形になっています。




では、日本のデベロッパーはどうでしょうか?大手6社の直近の会計年度の数値を見ていきましょう。





債比率は、平均して71%とほぼ中国の紅線①の基準レベルとなっています。自己資本負債比率は平均で256%、現金に対する短期負債の割合は平均で377%となっています。



こうやって見ていくと、フィリピンのデベロッパーは総資産負債比率が比較的低いことが分かってきました。つまり、財務の安定性を示す自己資本比率(総資産に占める自己資本=純資産の割合)が高いということになります。



たとえば、メガワールドの総資産負債比率は43%でしたので、自己資本比率は100-43=57%ということになります。また、DMCIホールディングスで50%、ロビンソンズランドで48%です。



中小企業庁「令和2年中小企業実態基本調査」によると、中小企業の自己資本比率は、建設業で46.86%、不動産業・物品賃貸業で35.87%となっています。会社の規模は違いますが、レベル感を見ていただけるのではないでしょうか。



▼産業別自己資本比率(出所:中小企業庁「令和2年中小企業実態基本調査」)



2020年の各社の財務諸表は、少なからずコロナウイルス大流行と封じ込め措置の影響を受けています。今後、経済の再開と事業活動の活発化によって、各社の数値がどのように変化していくか見ていくのも良いでしょう。



※本記事は、各社のデータを比較する目的で並べたものであり、財務分析を提供するものではありません。恒大集団およびフィリピンデベロッパーの財務数値の日本円表記は、1人民元=17円、1フィリピンペソ=2.2円で換算した参考値です。



(参照:SBI証券Yahoo NewsEvergrande、フィリピンデベロッパー各社ウェブサイト、中小企業庁

(画像:Image by Tumisu from Pixabay)