[マレーシア] 国内不動産市場はCovid-19で混乱

2020/08/11

[マレーシア] 国内不動産市場はCovid-19で混乱


新型コロナウィルス(Covid-19)の流行は、国内の不動産市場にさらなる不確定要素と課題をもたらしそうです。


2020年3月中旬に始まった活動制限令(MCO)により、住宅探しをする側も売る側も数が減少しました。不動産の掲載情報も減りました。


MCOは6月9日までいくつかのフェーズに分かれて実施されてきましたが、銀行もまたこの機会にオペレーションを縮小したことから、書類の作成や分割払いなどのプロセスも停止した状態となっていました。


さらに、サプライチェーンが乱れたことにより、プロジェクトや開発物件を期間内に終わらせることができないデベロッパーや建設業者も出てくる可能性があります


Covid-19が不動産市場にもたらした影響額を予想するのは早すぎる一方で、取引量や取引額が落ち込むのは不可避です。


マレーシア不動産代理人協会(Malaysian Institute of Estate Agents (MIEA))のリム・ブーン・ピン会長は、オンラインで開催されたASEAN不動産フォーラムの中で、「マレーシアの住宅価格が1999年以来初めて下落するかもしれない」とコメントしています。


▼マレーシアの不動産サイクルにおける住宅価格の変動率(%)(出所:iProperty/NAPIC)


過去30年間を振り返ってみると、住宅価格は、1997年のアジア通貨危機を受けて、1998年と1999年の間に下落しました。

サブプライムローン危機により2007年~2009年で景気が落ち込んだ数年後の2001年頃から、不動産市場は回復フェーズに入りました。


さらに、2009年頃から、マレーシアの不動産市場は爆発期に入ります。


マレーシアのiProperty社が発行した、Covid-19流行がマレーシアの不動産シーンにもたらした影響についてのレポートを見ていくと、不動産価格は2010年から2015年まで大きく上昇、上昇率は年間13.4%にもなります。


2015年以降は、住宅価格と値ごろ感とのミスマッチ、オーバーハング、弱い消費者心理、住宅ローンの取得困難、主要通貨に対するリンギット安などにより、後退サイクルに入ります。


レポートでは、「現在のマレーシアの不動産市場低迷の主な原因は、住宅の需要供給システムのバランスが取れていないことに起因するということを認識しなくてはならない」と述べられています。


▼株価の年間成長率 vs. オーバーハング件数(2003年~2019年第3四半期)(出所:iProperty/NAPIC)



グラフから分かる通り、2016年には382,955戸が既存の在庫にあり、2003年の237,312戸以降最高レベルとなりました。


2017年、住宅の過剰供給から、オーバーハング状態が起こりました(24,312戸)。そして残存分が2018年に積み上がる形となりました。


さらに激化する市場が2017年、2018年の年間在庫の増加にも表れています。2017年には192,552戸、2018年は149,429戸となっています。


過去からのデータを見ていくと、供給が過剰だった年の翌年はオーバーハング状態のユニット数が増えていることが分かります(2003年~2008年)。


レポートは、オーバーハングが減るのは、その後供給が減ったときだけだと指摘しています(2010年~2013年)。


さらに同レポートは、「2003年に9,300戸だったオーバーハング状態のユニット数は、2015年に11,316戸となっており、オーバーハング数を最低レベルに戻すのに、12年(2003年~2015年)の年月がかかったということだ」と述べています。


Covid-19により回復基調から脱線

英系不動産総合コンサルティング会社ナイトフランク・マレーシアのマネージング・ダイレクター、サルクナン・スブラマニアム氏は、コロナウィルスが不動産市場を回復基調から脱線させたと言います。


スブラマニアム氏は、経済の混乱から失業者が増加、住宅購入を考えていた人や投資家は、大型の買い物を控える傾向にあると述べています。


「今年前半、クアラルンプール中心地での新規プロジェクトの立ち上げは少なく、また取引活動も不活発でした。しかし、このような状況でも、有名デベロッパーによるレジデンシャルプロジェクトで、市の周縁地域や人気の郊外エリアなど、適切なロケーションにあるものには、活発な予約活動が見られました。」


スブラマニアム氏は、持ち家率の比較的高いマレーシアでは、適当なレジデンシャル物件が出てくるのを待っている本物のバイヤーがまだいると考えています。


よって、政府の短期景気回復計画の一環として発表された、印紙税の免除、600,000リンギット以上かつ3軒目以降の住宅のLTV(ローン・トゥ・バリュー、不動産価格に対する借入金の割合)の引き上げ、不動産譲渡益税(RPGT)の免除などを掲げた持家キャンペーン(Home-ownership campaign (HOC))は、不動産市場の刺激につながるだろうとコメントしています。


中央銀行もまた、2020年前半期に3回、7月初旬に4回目となる翌日物政策金利の引き下げを実施し、速やかな景気回復を助けています。


月々の融資の返済額が減り、また4月1日から6か月間の融資返済猶予も加わって、コロナ禍の家計に少し余裕が出そうです。


さらに、スブラマニアム氏は、月々の融資の返済額が減れば、今まで1/3の債務返済比率(DSR)ルールで融資を借りられなかった人も、融資を受けられるチャンスが増えると言います。


スブラマニアム氏は、政府が行っているさまざまな景気刺激策、特に印紙税の免除その他のインセンティブを謳った持家キャンペーンの再導入により、レジデンシャル市場はポスト活動制限令(MCO)に緩やかに回復すると予想しています。


「デベロッパー各社は、商品の位置づけ、そしてテクノロジーの活用やEコマースプラットフォームとの提携を含めた販促戦略を再考することで、売上を伸ばしていけるでしょう。」と述べています。


ナイトフランク・サバ州のエグゼクティブ・ダイレクター、アレクセル・チェン氏は、コタキナバルやサバでは、成熟・成長途上のレジデンシャルエリアにおいて、土地付き、高層物件の両方で、品質の良い値ごろ感のあるレジデンシャル商品に注力する動きがみられると話しています。


(出所:New Straits Times

(トップ画像:Alex Block on Unsplash)