2021/09/28
最近ニュースを騒がせている中国の不動産デベロッパー・恒大集団の問題について、Channel News Asiaに論評が載っているのでご紹介していきます。
世界の取引信用保険のリーディングカンパニー、コファス(Coface)社のエコノミスト、バーナード・アウ氏のコメントを見ていきましょう。
恒大集団の流動性問題は、世界的な注目を浴びています。というのも、その巨額の負債が、同社の手元資金をちっぽけなものに見せているだけでなく、中国のGDPの2%に相当するからです。
膨れ上がる負債を背景にした財務の安定性にかかる懸念、上昇する地価に、絶好調の販売、これらが中国当局を不動産市場の沈静化に駆り立てました。
昨年8月、中国政府は、不動産デベロッパーの財務の健全性を改善すべく、3つの財務指標を導入、3つの「紅線(レッドライン)」と呼ばれる指標を満たせない企業に対する貸付過熱を沈静化させる動きに出ました。
恒大集団その他多くのデベロッパーが、3つすべてを満たすことができなかった一方で、40超の企業は少なくとも1つの紅線を越えました。
中国の銀行セクターへのリスク
恒大集団の債務不履行は、中国の銀行セクターにシステミックリスクを起こすでしょうか?そのようなリスクの可能性は低い、とバーナード氏は述べています。
その理由はいくつかあります。
1.恒大集団の2021年6月末時点での5,718億元(約9.8兆円)にも上る借入は、8月時点の中国の人民元建て融資186.7兆元(約3,210兆円)の0.5%にも満たないこと。
2.中国人民銀行によって行われた中華系銀行向けの最新のストレステスト(健全性審査)では、不動産ローン危機の副次的な影響を確認する目的もあったが、銀行システムはこのようなショックに耐えられるだけでなく、昨年強化が進んだことが明らかになったこと。
大中規模の銀行30行のうち、この厳しいストレステストに合格できなかったのはたった3行だったのに対し、前年は9行ありました。
不動産開発における不良債権が15ポイント上昇、住宅ローンが10ポイント上昇するという最も厳しいストレスシナリオにおいて、中国にある4,000行以上の銀行は十分な資金を蓄えていました。これが起これば自己資本比率が平均12.3%まで落ち込みますが、銀行は相当額の損失に耐えるだけのクッションがあることが分かったのです。
3.JPモルガンによると、銀行は昨年から不動産融資へのエクスポージャーを削減していたこと。
海外のASEANプロジェクトやデベロッパーへの影響
事業投資家の最大の懸念は、恒大集団の問題が中国の不動産セクターに拡大し、中国の海外における不動産開発や、業界への外国投資にも影響を与えうるということです。
恒大集団には、特に東南アジアに知られたプロジェクトはありませんが、中国当局からブラックリストに入れられた他の中国デベロッパーも、過去数年で東南アジアに進出してきています。
チャイナ・フォーチュン・ランド・デベロップメント社は、3つの「紅線」の犠牲となって、今年36億ドル(約4,000億円)相当の社債の債務不履行を起こした最初の大手中国デベロッパーです。同社は、2015年から多数の大規模なインドネシアプロジェクトに関わっていました。
広州R&Fプロパティーズは、ジョホールバルの高級コンドミニアム「プリンセス・コーヴ」を含む、複数の住宅プロジェクトをマレーシアに持っています。同社は、ムーディーズから格付けを引き下げられて、資金調達が逼迫してきており、流動性を高めるべく、昨年から資産の処分を始めています。
売上高で中国最大のデベロッパー、カントリー・ガーデンは、3つの「紅線」のうちの1つに違反しています。同社は、2020年6月時点で、マレーシアに2件、インドネシアに3件プロジェクトを持っています。
シンガポールでは、大手中国デベロッパー4社(ローガン、チンジアン、キングスフォード、CSCランドグループ)が80億シンガポールドル超(約6,560億円)を土地に投資していますが、これら4社は「紅線」の違反はありません。
シンガポールのデベロッパー、シティ・デベロップメントが、1970年代以来始めて通期で赤字となりましたが、この時、同社は中国を拠点とするシンシア・プロパティ・グループへの投資の評価損17.8億シンガポールドル(約1,460億円)を計上し、倒産問題に引きずり込まれるのを避けるべく持ち分を売却しました。
東南アジアサプライヤーへのリスク
中国不動産市場が急激に減速すると、貿易や経済成長にも関係してきます。
恒大集団のサプライヤー向け支払遅延の報道がされる中、同社の買掛金その他は、2020年12月から今年8月には15%増の9,511億元(約16.4兆円)まで膨れ上がりました。
建設業界において、超長期にわたる支払遅延(180日以上の遅延)が年間売り上げの10%を超える例が2020年には2倍の67%となり、信用リスクの高まりを示している、とコファスが5月に発表した「China Corporate Payment Survey(中国法人支払調査)」で述べられています。
中国住宅セクターの急激な悪化により、中国の不動産デベロッパーに供給している東南アジアの建設・建築資材生産者や電気機器製造メーカーが圧迫され、信用ポジションに悪影響を与える可能性があります。
中国は、インドネシアの金属および木材輸出の25%、タイのプラスチック・ゴム製品の25%以上を占めています。また、ベトナムの機械・電気関連の20%、マレーシアの14%を輸入しています。
貿易需要弱まる
もう一つの懸念事項は、大幅に減速した住宅セクターとその取引先へのドミノ効果を受けて、中国経済が多大な影響を受けるという見通しです。
不動産市場は、中国の経済成長に大きく貢献しており、関連産業も含めると、経済の29%に貢献しています。建設や機械設備の製造などの周辺セクターも影響を受けるかもしれないとバーナード氏は言います。
もし住宅価格が急激に下落したら、家計消費にも影響が及びます。不動産は、家庭の財産の70%を占めているからです。
中国のマクロ経済状況が弱いと、東南アジアにも、貿易の鈍化という形でスピルオーバー効果をもたらします。
2020年、東南アジアは、EUを抜いて中国の最大の貿易相手となりました。パンデミックにより世界の貿易取引は縮小しているものの、中国とASEANの二国間取引は2019年から7%伸びて7,319億ドル(約81兆円)となりました。
▼2020年中国の貿易相手国トップ15(出所:World Top Exports)
コファスは、中国のGDP成長率が1ポイント下落するとASEANのGDP成長率が0.5ポイント下落すると推定しています。
ASEAN加盟国の中でも、シンガポールが中国のASEAN地域での減速の影響を最も受けるといわれており、続いてタイ、マレーシアとなっています。これらの国々と中国との間の貿易の流れが比較的大きいことが主な原因です。
2015年以降、ベトナムと中国との二国間貿易の急速な発達もまた、中国の成長鈍化に対してベトナムをますます脆弱にしました。
中国とASEANの二国間貿易が活発になり、中国を中心とした域内のクロスボーダー生産ネットワークにおけるASEANの役割が増す中では、中国経済の問題は東南アジア全体に影響をもたらすことになりそうです。
これが、多くのASEAN諸国が、Covid-19パンデミックとの戦いでロックダウンを続けているので、タイミングが悪いとバーナード氏は述べています。
(出所:Channel News Asia)
(画像:Image by PublicDomainPictures from Pixabay )
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