[ベトナム] ハイエンドレジデンスへの投資制限案をめぐる専門家の意見

2020/06/02

[ベトナム] ハイエンドレジデンシャルへの投資制限案をめぐる専門家の意見

すでに在庫レベルが十分だとして、ベトナム建設省は、ヴィラや高層アパートメントを含む、ハイエンド(高価格帯)レジデンシャル物件への新規投資に制限をかけることを提案しており、専門家やデベロッパーの間での懸念材料となっています。


建設省は、このハイエンドレジデンシャルへの新規投資制限案について、不動産市場が直面している困難に対応するためのものだと説明しています。この背景として挙げているのは、新型コロナウィルス(Covid-19)の影響で流動性が低下していること、そして、高価格帯・中価格帯の物件が過剰供給気味なのに対して、低価格帯であるアフォーダブル物件が不足していることです。


平米あたり2,500万ベトナムドン(約11.6万円)超の価格がついている中価格帯・高価格帯の住宅需要は、全体の20~30パーセントしかないのに対して、アフォーダブルセグメントの市場需要は70~80%を占めています。


現在、ベトナム国内には、4,400を超えるの新規レジデンシャル・都市化開発プロジェクトが存在し、総投資額は4,800兆ドン(約22.2兆円)に上ります。このうち、2020年3月末までに在庫に追加された物件の総額は104兆ドン(約4,813億円)となっています。


不動産仲介大手プロップネックス・リアルティ・ベトナム(PropNex Realty Vietnam)の共同設立者でありエグゼクティブ・ダイレクターのエイダン・ウィー氏は、同提案は正しい方向に向けた第一歩であり、資金を不動産セクターへリダイレクトさせ、デベロッパーの開発能力をより活かすことができると考えています。ウィー氏は、「不動産市場の持続可能な発展のためには欠かせない、都市人口の実需に対応するアフォーダブル住宅の供給を促すことができる」と語っています。


レジデンシャル、ホスピタリティ、オフィス部門の物件を手がけるデベロッパー、ソンキム・ランド(Sonkim Land)のCEO、アンディ―・ハン・スック・ジュン氏もまた、政府が低価格から中価格帯のセグメントの供給を増やそうと努力しているのはよいことだ賛同しています。というのも、市場の大多数を占める同セグメントの需要に供給がまったく追いついていないからです。


ハン氏は、特に中価格~高価格帯のマーケットでは、価格は需要と供給で決まるべきだが、低価格セグメントでは、デベロッパーにインセンティブを与え、開発サイクルが短縮化できるよう承認プロセスを早めていくなどして、政府が重要な役割を果たしていくべきだと考えています。

「政府の管理下にある土地はたくさんあります。それらが低価格から中価格帯のアパートメントに割り当てられることができれば、供給レベルをかなり迅速にあげていくことができます。」とハン氏は語っています。


一方で、ウィー氏は、この提案が正しい方向への第一歩としながらも、あまり効果的ではないだろうとも考えています。


「大規模集合住宅を提供するためには、建設省は包括的な法律の枠組みを整備しなくてはなりません。さらに、アフォーダブル住宅セグメントでの投機を抑制するような政策や、デベロッパーがより多くのアフォーダブル住宅プロジェクトを投入できるような新しいインセンティブも必要でしょう。」


プレミアム・高級住宅セグメントに制限をかけてデベロッパーに低価格から中価格帯セグメントに集中させることは全く合理的かといえば、そういうわけでもなさそうです。なぜなら、高品質なアメニティやよりよい生活環境が整った高価格帯の住宅への需要がなくなったわけではないからです。


ウィー氏は、「意図的にこれらのセグメントの供給を制限すれば、需要と供給のバランスが崩れて、セグメント間の価格差を拡大させ、プレミアム・高級物件が超富裕層にしか手の届かないものになってしまう」と述べています。


ソンキムランドのハン氏もまた、中価格から高価格帯の物件を制限することは市場のためにはならないと説明します。その理由としては、ベトナムの中所得層は急激に成長しており、今よりもよい物件を購入することができるようになってきていますし、ベトナム不動産への投資を考える外国人バイヤーからも安定的な需要があるからです。


制限をかけることで、供給が凍結する中、需要だけが伸びれば、対象となるセグメントの価格を押し上げるだけだと懸念する声も多いでしょう。しかし、ハン氏は、傍観主義的なアプローチをとり、需要と供給に価格決定をゆだねること、そしてアフォーダブルセグメントに介入して、デベロッパーにインセンティブを与え、長くなりがちな手続き面を短縮させることで、デベロッパーにどんどん開発をやらせていくことが望ましいと述べています。


総合不動産サービス会社JLLベトナムのカントリー・ヘッド、ステファン・ワイアット氏は、ここ数年レジデンシャルセクターは発展を遂げており、相当量の中価格~高価格帯の新築アパートが、ハノイ、ホーチミンシティの二大都市の市場に投入されてきた、と話しています。ワイアット氏は、考慮すべき重要な要素として、レジデンシャルアパートメントの総供給量は、他の東南アジア都市と比較してもベースが非常に低く、人口に対するアパートメントの割合は依然として低いことを挙げています。


同時に、市の中心部に近い土地を探すことが非常に難しくなってきていることも挙げています。このため、地価が高い状態が人工的に作られ、レジデンシャルアパートメントの価格を上げる結果となっているのです。市場は、エンドユーザーのために、よりアフォーダブルな住宅にその重点をシフトする必要があります。しかし、これが達成できるのは、入手可能な土地があり、土地の価格が安いときだけです。


ワイアット氏はまた、真の需要にフォーカスし、すべてのセクターにおいて調和のとれた状態に再調整することが、市場には必要であるとも加えています。


オルタナティブ投資を行うアジア・バンカーズ・クラブのセールス・ダイレクター、ダミアン・ソン氏は、ベトナムがパンデミックとの戦いに勝利したという結果をもってすれば、不動産市場は大きく変わることはないだろうと話しています。しかし、ディストレス資産を求める投資家は、そうではないことを証明しています。


前々から投資を行っていた人にとっては、高価格帯の供給が限定的になれば、既存の在庫または今年発売される新規プロジェクトへの関心が高まるため、保有する物件の価格が上がることになるでしょう。また、ホーチミンシティ、ハノイともに優良物件の供給に限りが出てきますので、セカンダリー市場の外国人枠への関心も高まるでしょう。


高価格帯のセグメントに制限をかける代わりに、専門家たちは、デベロッパーによる中価格帯とアフォーダブル住宅への投資を促進するために、政府はより多くのインセンティブを出すべきだと提案しています。

(出所:Vietnam Investment Review

(トップ画像:Photo by Daniel Lee on Unsplash )