2018/08/07
アジアパシフィックにおけるフレキシブルスペースの行方
アジアパシフィックにおけるフレキシブルスペースは流星のごとく成長しています。JLLリサーチによると、大手のオペレーターは2014年から2017年にかけて年間35%の成長を遂げており、この成長率は2018年も続くとみられています(図1)。
図1:フレキシブルスペース在庫ー純賃貸可能面積(単位:千㎡)
(出所: JLLリサーチ)
この業界、特にコワーキング*セグメントの成長をけん引したのには、たくさんの要素があります。それには、メンバーに対して提供されるフレキシブルな契約期間、プラグアンドプレイ**のセットアップの容易さ、コミュニティとしての感覚や、社会的なネットワーク、プロフェッショナルなネットワークへのアクセスのしやすさなどがあります。当初、コワーキングは、従来のようにオフィスを開設するよりも手頃だと感じたスタートアップ企業に訴求力がありました。
しかし、次第に大企業も、不動産戦略にコワーキングを含め始めました。そして、それらの企業に対応すべく、オペレーターもセンターの規模を拡大させてきました。JLLの最新のリサーチによると、平均的なフレキシブルスペースのリースは、2016年にはほぼ40%成長しました(図2)。その勢いはいくらかスローダウンしたものの、センターの成長は続いています。
図2:平均フレキシブルスペースのリースー純賃貸可能面積(単位:千㎡)
(出所: JLL リサーチ)
大規模なセンターを抱える企業に対応することで、オペレーターの賃貸料収入は安定(賃貸主および投資家にとってかなりの安心材料です)、しかしその分、賃貸料は上がり、オフィスのフィットアウト(間仕切りや内装など)にかかる費用が多くなります。結果として、オペレーター各社は、投資家から追加の資金調達を求めたり、代替のビジネスモデルを模索することになっています。
標準リースの代替案
今のところ、一番人気のフレキシブルスペースのビジネスモデルは、賃貸料アービトラージ***です。実質、オペレーターは、賃貸主に対して払っている賃貸料よりも高いユニットあたりの賃貸料をメンバーから徴収しています。このために、オペレーターは、従来のオフィスと比べて、一人当たりのオフィス面積は狭く設定しています。しかし、市場参入するオペレーターが増えているため、競争も激化しており、アービトラージのマージンにも圧力がかかっています。
人気のあるリテールリースのしくみである、基本賃貸料または売上高比例の賃貸料も一つの代替案です。テナントは、一定の基本賃貸料か、もしくは売上高の一定割合の、いずれか高いほうを支払いいます。このモデルは、市場と比べると固定賃貸料は低くなりますが、センターの売り上げが好調になると、その上昇基調に乗ることができます。
ホテル産業で人気のマネジメント契約もまた一つの代替案です。ここでは、オペレーターは、総収益および/または物件のブランド戦略および運営にかかる営業粗利益****の一定割合を徴収するもので、一般的にオペレーターにリース義務はありません。ホテルに関していえば、主要なアップサイド/ダウンサイドは、稼働率と収益率を高く保つためにオペレーターに頼る不動産のオーナーにあります。オペレーターは、他のモデルと比べると義務が限定的で、なおかつ収益率を最大化するのに奨励されています。
これらの代替案が、市場の低迷により耐えるための手段を与える一方で、商業用資産から生まれるキャッシュフローを投資家がどう見るかに直接的な影響を与えます。今後、従来の賃貸モデルの上を行く収益率を上げるためのオペレーターの能力が、賃貸主が代替モデルを採用するか、投資家からどのように評価されるかを左右します。
注:予想は、アジアパシフィックの主要な17オフィス市場の大手フレキシブルスペースオペレーターのサンプルに基づいて行われています。
(出所:JLL)
*コワーキング:コワーキング(Coworking)とは、事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルを指す。一般的なオフィス環境とは異なり、コワーキングを行う人々は同一の団体には雇われていないことが多い。通常、在宅勤務を行う専門職従事者や起業家、フリーランス、出張が多い職に就く者など、比較的孤立した環境で働くことになる人が興味を持つことが多い。
コワーキングは独立して働きつつも価値観を共有する参加者同士のグループ内で社交や懇親が図れる働き方であり[3]、コスト削減や利便性といったメリットだけではなく、才能ある他の分野の人たちと刺激し合い、仕事上での相乗効果が期待できるという面も持つ。(出所:Wikipedia)
**プラグアンドプレイ:パーソナルコンピュータ(パソコン)に周辺機器や拡張カード等を接続した際にハードウェアとファームウェア、ドライバ、オペレーティングシステム、およびアプリケーション間が自動的に協調し、機器の組み込みと設定を自動的に行う仕組みのことである。 (出所:Wikipedia)
***アービトラージ:異なる2つの市場の価格差を利用して利益を得ようとする取引。鞘取り。(出所:コトバンク)
****営業粗利益:英語では、Gross Operating Profit/GOPと言われる。これは、「ホテル全体の営業収入から、売り上げを 上げるために直接関係する費用を引いた額」のこと。 ホテル事業においては、代表的な指標とされており日本のホテルの場合、平均的には20%程度となっている。(参照:ホテル情報総合検索システム)
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