[マレーシア] GST廃止からSST再導入へ

2018/08/03

[マレーシア] GSTの撤廃とSSTの再導入

2018年5月9日のマレーシア国政選挙の結果、野党が勝利し新政権が発足しました。マハティール首相率いる新政権のもと、2015年4月に導入された、消費税に相当する物品・サービス税(GST)税率について、2018年6月1日をもって6%から0%へ改正されることが公表されました。選挙公約であった消費税の廃止を実現した形になります。財務省が電子メールで声明を配布、すべての企業が対象です。また、5月30日には、従前導入されていた売上税・サービス税(Sales Tax/Service Tax)を9月1日より再導入することが発表されました。

■GSTからSSTへの移行

・2015年4月1日SSTに代わってGSTが導入される
・2018年6月1日GSTが0%化
・2018年7月16日をもってGST法撤廃
・2018年9月1日SSTが再導入

 ■GST vs SST 何が違う?ー不動産価格に与える影響

(出所:KPMG

二つの税スキームを比較するにあたって、類似点と相違点を順番に見ていきましょう。

(1)類似点

GSTと既存の売上税スキームの一つの類似点は、住宅/居住用不動産の購入において消費者(購入者)に対しては何の税も課されないということです。GSTについていえば、居住用不動産は、「免税率」の物品に該当します。(注:商業用不動産については、商業用不動産が「通常税率」の物品に該当するため、消費者に対してGSTが課されます)

しかし、最終商品を作る段階(税務用語では、「インプット段階」とも言われる)で、両方の税スキームにおいて、デベロッパーは仕入れおよび材料の調達の際に税金を負担します。ここが二つの税スキームの差が出てくるところです。仕入れおよび材料にかかる税率が、GSTと売上税では異なるのです。


(2)相違点

1972年の売上税法に基づいて、レンガ、セメント、床タイルなどといった基本の建設資材は「別表1の物品」に該当し、このカテゴリーに該当するすべての物品は売上税の対象になりません。一方で、その他建設資材は、「別表2の物品」に該当し、このカテゴリーに該当するすべての物品は、売上税が5%課税されます。

GSTのスキームでは、すべての建設資材およびサービス(例:土建業者、技術者など)は、標準税率6%でGSTが課せられます。これにより、必然的にデベロッパーの生産コストは高くなります。

GSTのしくみがわかってくると、多くの場合において、この追加の税コストは単純に最終消費者に乗せられる(標準税率の物品)か、政府から還付される(ゼロ税率の物品)ことに気づかれるでしょう。しかし、免税率が適用される場合、追加の税コストは、最終消費者の前段階、つまりデベロッパーが負担することになるのです。デベロッパーはサプライチェーンにおいて、その税コストを転嫁できる「犠牲者」を持たないからです。

これは、住宅購入者にとっては、住宅購入の際にGSTを支払わなくてもいいので、いいニュースのように思えます。しかし、浮かれてはいけません。デベロッパーが追加の税コストを最終売却価格に織り込もうとするかもしれないことはたやすく想像できます。

以下の表は、新築物件の価格について、2015年4月のGST導入前後の比較を示しています。比較目的のため、最終消費者に販売されるまでの税やコストは簡略化されています。また、デベロッパーはすべての税コストを、売却価格を通して消費者に100%転嫁できるという前提となっています。


上記の例では、新築の住宅物件では、GST導入後、3.41%の価格上昇がみられます。

しかし、プラスのポイントもあります。概して、新規の住宅物件は、標準税率が課される商業用物件と比べて全体的な税負担の増加率が低くなっています。よって、デベロッパーが最終的な小売価格に税コストの一部分しか、もしくは全部は転嫁しない可能性があるのです。

この欠点としては、新しい商業用物件の価格設定がわかりやすい(販売価格+GST)のに対して、新築の住宅用物件の価格が暴騰したように見えることです。これは、一方で、住宅のセカンダリーマーケットの価格に波及効果をもたらすことは目に見えています。

■タックスホリデー期間、住宅価格はどうなる?

導入時に約3%の価格上昇が見られたGST。これが廃止され、タックスホリデー(GSTゼロ%化からSST再導入までの3か月間)期間、またSST再導入後、住宅価格はどうなるのでしょうか。

DBSグループリサーチのレポートでは、次のように述べています。

GSTは、2018年6月より0%化、2018年9月から売上・サービス税(SST)が導入されます。GSTの廃止により、住宅デベロッパーは3%ほどの経費節約ができる一方、デベロッパーが経費節約分をすべて最終購入者に還元することはないとみられています。一方で、激化する不動産市場を見据えて、その分をより積極的なプロモーションやキャンペーンに投入することが予想されるからです。

BORNEO POST ONLINEでは、次のように報じています。

住宅用不動産は、「免税率」GSTのカテゴリーに該当するため、直接GSTが課されることはありません。

しかし、仕入れおよび材料の調達段階で税金が課されているため(GST6%課税 vs 別表1の物品に対して0%、別表2の物品に対して5%の売上税)、デベロッパーが販売価格を通して購入者に増加分のコストを転嫁するとすると、GSTの実施により間接的に物件価格が3%ほど増加したものとみられます。

したがって、GSTの0%化は、今後の住宅用不動産の価格を下げる可能性があります。税コストがすでに売却済みの不動産に全部/部分的にすでに載せられているとすれば、デベロッパーの採算性も上がることが予想されます。

SST実施の見通しについて、Maybank IBリサーチは、SSTのデベロッパーに対する影響はニュートラルだとしています。

住宅用不動産について、SSTは、建設コストに最小限の影響しか与えないと予想されています。というのも、課税対象(コストの構成要素)によって、適用される税率が10%のものもあれば5%のものもあるからです。また提供されたサービスについては6%課税ですが、労務費についてはSSTの対象とはならないからです。

それとは対象に、GSTのしくみでは、すべての建設用資材は6%の課税がされ、サプライヤーはそのインプット税を住宅用不動産に乗せることが許されていました(住宅用不動産はGST免税率が適用されるため、6%のGSTは、デベロッパーにより販売価格の中に織り込まれている)。

よって、コストの構成要素によって異なる税率が課されるので、全体としての住宅用不動産の建設コストは、SSTが実施される際には、1~2%とわずかに下がるだけでしょう。デベロッパーは、こうして節約できた建設コストを、過剰供給などで低迷がちな市場に買い手を呼び込むべく、割引などに充てることが予想されます。

2018年9月1日に再導入されるSSTについて、マレーシア税関は以下のような草案を発表しています。

売上税(Sales Tax):課税対象となる物品のグループ別に異なる税率(5%・10%)
サービス税(Service Tax):一律6%
(出所:マレーシア税関)

既存の在庫に関しては、すでに購入済みの建築用材などにはGSTが課された状態ですので、大きな値下げがあることは期待できません。現在進行中のプロジェクトについて、GST0%となった経費節約分をデベロッパーがすべて価格に反映させるとは限らないとの見方はありますが、その恩恵を受けていることは間違いありません。SSTの再導入前に、一度マレーシア不動産に目を向けてみてはいかがでしょうか?

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