2022/05/24
投資銀行や経済シンクタンクは、フィリピン中央銀行(BSP)が今年からおそらく来年にかけて、フィリピンが景気回復と高インフレとのバランスを取りつつ、さらなる利上げに踏み切ると予想しています。
中央銀行としては、ベンジャミン・ディオクノ総裁が、東京を拠点とするアジア開発銀行研究所(Asian Development Bank Institiute (ADBI))が主催したセミナーで、「BSPの出口戦略のタイミングおよび条件は、中期的なインフレおよび成長見通し、公衆衛生の状況、国内外の経済リスクなどに左右されるだろう」と述べています。
ディオクノ総裁は、利上げ、というより「正常化」に向けた動きについても触れました。フィリピンの金融政策決定会合(Monetary Board)は、5月19日、主要金利を25ポイント上げて政策金利を2.25%とし、2018年11月以来初めての利上げとなりました。Covid-19パンデミックが始まり、BSPは経済をなんとか成り立つ状態にすべく、複数回の利下げを行いました。5月19日の利上げ判断の前、政策金利は過去最低の2%でした。
ゴールドマンサックス・エコノミクスリサーチ(Goldman Sachs Economics Research)は、そのレポートで、「景気の回復が続き、インフレは高まり、さらにこの先もインフレは上がる見通しで、BSPが今回の利上げサイクルでさらに175ポイント上げてくると予想しています。うち、累計125ポイントは今年、50ポイントは2023年第1四半期で、政策金利は最終的に4%になるでしょう。」と述べています。
HSBCアセアン担当エコノミストのエイリス・ダカネイ氏は、6月23日の金融政策会合でさらに25ポイントの利上げ、さらに2022年第3四半期に50ポイントの利上げを予想しています。ゴールドマンサックス同様、HSBCも、BSPが銀行に対して貸付を行う翌日物のリバースレポ金利(RRP)が正常化により4%に落ち着くとみていますが、やや緩やかなペースで来年の第3四半期にかけて各四半期に25ポイントずつ上げてくるとみています。
ING銀行のシニアフィリピン担当エコノミストのニコラス・アントニオ・マパ氏もまた、今年、合計75ポイントの利上げを予測しています。「BSPは2022年、2023年のインフレ予測をそれぞれ4.6%、3.9%に引き上げ、来年初めごろまで、インフレは目標値の上で推移するとみています。よって、私たちはBSPが積極的なタカ派のスタンスを保つと見込んでいます。」と述べています。
シンガポールを拠点とするユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)のシニアエコノミスト、ジュリア・ゴー氏と、エコノミスト、ローク・シウ・ティン氏は、BSPが「段階的な利上げの道」を通るだろうと予測しています。
「過度にアグレッシブな利上げを行って国内経済に急ブレーキをかけるようなことにならないように、BSPは気を付けるはずです。したがって、BSPが次の25ポイントの利上げを行うのは2022年の第3四半期、3回目の25ポイント利上げを行うのは第4四半期だと考えています。」と述べています。
しかし、ロンドンを拠点とするシンクタンク、キャピタル・エコノミクスのアジア担当エコノミスト、アレクス・ホームズ氏は、「BSPの引き締めサイクルがアグレッシブになることはない」と考えています。
ホームズ氏は、BSPの金融引き締めが思ったより早くスタートしたことを考慮して、以前は、年末時点で2.5%だと予想していた利上げの予想スケジュールを前出しして、年末までに政策金利が2.75%になると予想しています。それでも、次の2四半期のどちらかに1回の利上げといった、緩やかなペースでの引き締めとなるだろうと話しています。
さらに、ホームズ氏は、成長の勢いも減速し、インフレも目標内に収まることで、引き締めサイクルは今年いっぱいで終わると考えています。対照的に、他のアナリストのほとんどは、引き締めサイクルが2023年にも続く予想です。
イギリスを拠点とするパンテオン・マクロエコノミクスの新興アジア担当チーフエコノミストのミゲル・チャンコ氏は、今年の後半期は全く違うものになることを予想しており、今年の利上げはあと1回のみを予想しています。チャンコ氏は、第2四半期のGDPの伸びは低迷し、石油インフレが戻ってくることで、8月には一時停止をせざるを得ないだろうと考えています。
「正常化が他の皆さんほどアグレッシブになるとは思いません。今のところ、(金融政策決定)会合が今年のところはあと1回、おそらく次の6月の会合で利上げを行い、あとは2023年に2回行って、最終的には翌日物のリバースレポ金利を3%に持ってくるでしょう。」
チャンコ氏はまた、「8月には、正常化の動きに一時停止がかかるでしょう。重要なのは、(金融政策決定会合の)ミーティングが第2四半期のGDP報告の1週間後に行われることになっていることです。主に選挙により政府の支出や投資が停滞状態になることにより、第2四半期は成長の勢いが急激に減速するとみています。」
「さらに、家庭の支出も大きく冷え込むでしょう。したがって、BSPは、その月に急速な利上げサイクルを経済が吸収できる能力があるかどうか、再査定をすることになるでしょう。今のところは、第1四半期よりも第2四半期はさらに力強い予測をしていますから。」と述べています。
(出所:Business Inquirer)
(画像:Image by AGDProductions from Pixabay )
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