2022/07/12
ESG(環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance))がますます意思決定に影響を与える中、グリーンなポートフォリオをアジア太平洋地域に拡大しようとする不動産投資家は、各地に参入する前にいくつかの要素を検討しておく必要があるとナイトフランクは述べています。
英系不動産総合コンサルティング会社ナイトフランクが行った、「APAC Active Capital Sustainably Led Cities」リサーチよると、シンガポール、シドニー、ウェリントン、パース、およびメルボルンが、アジア太平洋地域の不動産業界において持続可能な方法で運営される都市トップ5となりました。これらの都市は、一人あたりの二酸化炭素排出量の削減、グリーンスペースの多さ、都市化の圧力の低さといった、さまざまな要素から恩恵を受けています。これらの要素は、APACの都市トップ10にも見られます。
▼APAC持続可能な方法で運営される都市インデックスランキング(出所:ナイトフランク)
APACのトップ10ランキングに貢献する3つの要素
1.グリーンスペースの量
都市部の環境をより健康的かつ住みやすくするためには、また、都市が成長しすでに多くの人が住むスペースにより多くの人を取り込もうとするにあたって、自然やグリーンスペースが未だかつてなく重要な存在となっています。
「グリーンスペース」というのに統一された定義は今のところありませんが、世界保健機構(WHO)は、「『自然な地表』または『自然な環境』のある場所を含むスペースだが、街路樹など特定の都市緑化、および池や沿岸地帯といった水の要素のある『ブルースペース』を含むこともある。」と定義しています。私たちがよく訪れる都市部のグリーンスペースといえば、公共の公園や庭園などがあるでしょう。より広域には、庭園、動物園、公園といった主にレクリエーション要素のある公共のグリーンエリアや、郊外の自然のあるエリアや森林を含むこともあります。
定義にかかわらず、複数の研究から、グリーンスペースが都市およびそこに住む人々に様々な恩恵をもたらすことがわかっています。その恩恵には精神的なものから身体にかかわるものまであるのです。逆に、リサーチは、グリーンスペースの量が十分でないと、孤独感や社会的なサポート不足と関係づけられることも分かっています。隔離措置の期間、家に閉じこもっていた人々にとって、グリーンスペースはよりなくてはならないものになっているのです。
人材の留保という意味でも、各都市は恩恵を受けます。今では、世界中から人材を集め、成長させ、そして維持すべく、都市間で熾烈な競争が繰り広げられています。Livability.comが行った調査によると、移動の意思決定をするときに、回答者のうち39%が、屋外のアトラクションやコミュニティーの芸術や文化シーンを、移動の際に検討する要素トップ3に上げています。同じ調査では、歩きやすさや自転車の使いやすさも、人材が移住する際の判断基準の上位に来ています。したがって、十分なグリーンスペースを提供して最適な住環境整えることは、人材の確保という意味で都市の有利な点となるのだとナイトフランクは述べています。
2. グリーン関連の商業ビル
建造環境が、排出されるCO2の40%、世界で使用されるエネルギーの40%、世界の飲み水の30%を消費しており、不動産業界が悪化する気候と炭素排出状況を軽減する道を探るべきことはいうまでもありません。
デベロッパーが持続可能性に投資することを促進するインセンティブとして、APACのほとんどの政府では、環境への潜在的な影響の軽減、エネルギー・水・資材消費の削減など、設定した要件を満たすことができたら、建物に与えるグリーン認証を導入しています。他にも世界的に有名な認証もあります。これらの認証により、不動産市場においてビルの差別化に役立つだけでなく、企業は自社のプラスのイメージを作り、賃料レートとリセール価格の両方で、建物のリターンを強化することができます。またこれらの認証は、相互に排他的ではないので、ひとつのグリーンビルに複数の認証を取ることができ、グリーンな地位を高め、差別化することができるのです。
ESGの複数の要素をカバーする、特定のエリア、国内、地域と様々なレベルでの認証があります。
▼代表的なグリーン認証団体
上記の認証以外にも、政府は市内・国内のグリーン目標に一定の期間内に貢献できるように、ビルの所有者が建物の改良または持続可能性を高めるための予算をつけています。所有者は、改良工事の程度に合わせて助成金を受けることができます。改良によりエネルギー消費や炭素排出量が削減できるほど、資金援助を受けられるようなしくみになっています。このようなしくみは、より広いステークホルダーに手を差し伸べることができます。建物を業界レベルに合わせるための資金源やきっかけがない個人所有の建物もあるからです。資金的な援助を与えることで、このような所有者が環境に貢献するだけでなく、ビルの競争力を高めることを促す、金銭的なインセンティブとなります。
APACでも悪化する環境問題への認知が高まってきており、テナントも、サスティナブルな特徴を持ったビルを選ぶようになってきています。環境へ貢献できるだけでなく、企業イメージの向上にもつながるからです。しかし、現状では需要が供給を上回っており、持続可能なビルのオーナーは、10%ものプレミアムを乗せることができています。ナイトフランクによると、APACのデベロッパーは、高まるグリーンスペース需要をつかみ、気候変動の影響を軽減するため、サスティナブルな建物の開発の勢いを加速させそうです。
さらに、ナイトフランクが独自のデータとロンドン・シドニー・メルボルンのプライムオフィスビルのグリーン認証やその他の地理学的なデータを合わせた調査では、グリーン認証を受けたビルは、グリーンビル認証のないビルと比較して8~18%の販売価格プレミアムが乗せられていることが分かっており、ビルの所有者にますますサスティナブルな特徴を持った建物の開発を促すきっかけとなっています。
3. 都市化の圧力
国連が行った調査で、2050年までに世界人口の3分の2は、都市またはその他都市化エリアに住んでいるとの予測がされています。都市化に最も貢献するのはアジアです。アジアにおける都市化率は、ここ近年著しく加速しています。また、世界の都市人口の半分はアジアに集中するという予測もあります。中国とインドが合わせて25%を占める見込みです。
都市部は、世界の国民総生産(GDP)の80%を生み出しており、都市化現象が重要な要素となっています。もしうまく管理することができれば、生産性を高め、イノベーションや都市形成のアイディアを促進することで、持続的な都市の成長に繋がる可能性があります。
しかし、都市化の速度や規模が、社会的・環境的な課題や資源の需要をもたらします。急激な成長の結果、アフォーダブルな住宅、アクセスのよい経済的な公共交通機関や、その他人が必要とする必需品やアメニティの不足といった予測できない課題が発生することがあります。最も差し迫った問題には、雇用機会の問題があります。特に、都市部に住む貧困層の人々の職です。世界銀行は、2021年も、中国を除く新興アジア諸国における貧困層の数が増加するとの予測を出しています。これは、長引くパンデミックにより雇用機会が限定されたことにも起因するでしょう。
したがって、いかにうまくひとつの都市が計画され管理されるかが重要になってきます。土地用途のパターンや物理的なインフラは、何世代もその状態で残るからです。その機能性が都市のスプロール現象*を受け止められるかどうかを決定するだろう、とナイトフランクは締めくくっています。
*スプロール現象=都心部から郊外に向けて、無秩序かつ無計画に開発が進められ、家や工場が広がる状態
(出所:Knight Frank)
(画像:Image by anncapictures from Pixabay)
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