[マレーシア] 新築高層オフィスにテナント流れ、古めのオフィスは苦戦

2022/09/22


クアラルンプールを中心に隣接する市や町を含めたマレーシアの都市圏「クランバレー」の古めのオフィスビルは増えた空室を埋めるのに、厳しい状況に直面しそうです。新しいオフィスビルの建設が進み、古いビルから移転を決める企業が増加し、オーナーもテナントも新しい開発物件に移っているからです。



マラヤン銀行(Malayan Banking Bhd/Maybank)は、同行の40%株主であるマレーシア政府系投資会社「ペルモダラン・ナショナル(Permodalan Nasiona Bhd/PNB)」が所有する、世界で2番目に高いビル「ムルデカ118」へ、2025年に本社を移転することを発表しました。


「企業の移転により、新しい開発物件は恩恵を受けますが、全体の空室率を減らすことにはなりません。最近完成した複数のメガプロジェクトに加え、他にも完成間近の物件が控えていることから、空室率は20%から22%に上がるとみられています。」と、CBRE WTW評価&アドバイザリー社のマネージングダイレクター、タン・カー・レオン氏は述べています。


今後完成予定のオフィススペースを見ていくと、タン氏は、過剰供給状態は今後も続き、さらには悪化する可能性もあると述べています。他の老朽化したビルは、高速インターネット、環境にやさしい機能、より自然な換気や照明など、最新のオフィス要件が提供できないからです。


「クアラルンプールの古いオフィスビルの中でも、90年代、80年代に建てられた物の中には、稼働率が50%を切っているものもあるようです。古い物件ほど、オフィスのアップグレードのために大規模な資本的支出をしないで新しいテナントを見つけることは簡単ではないようです。資金調達コストが関連リスクで正当化されるかどうかは、現在のオフィスビルオーナーが直面する難しい問題です。」とタン氏は述べています。


一方で、タン氏は、古めのビルでも「非常に中心地に近い」ロケーションのものは、改装して小規模事業者や、フレキシビリティや利用者や仕事の増大に適応できる能力・度合いを表すスケーラビリティを求める企業のニーズに合わせることで、非常に魅力的にもなり得ると述べています。



オフィス供給が今後2年間で豊富な状態が続く場合、築35年のメナラ・メイバンクは、メンテナンスが行き届いていると言われており、市内中心部の戦略的な一等地にありながら賃料は競争力があるということで、テナント確保の面では、同年代に建設された他のビルと比較すると優位に立っているようです。



KGVインターナショナル・プロパティ・コンサルタンツのエグゼクティブ・ディレクター、アンソニー・チュア氏は、「ロケーションのよいオフィスビルは、テナントを呼び込むことができます。テナントの顔ぶれは超一流企業とはいかないかもしれませんが。」と話します。



「メナラ・メイバンクは、戦略的なロケーションにはありませんが、築年数の割にはかなり良く手入れがされています。メイバンクのブランドと評判に紐づいて、テナントを呼び込める可能性というのは、無視できません。」とコメントしています。


PNBのCEO、アフマッド・ズルカルナイン・オン氏は、メイバンクとPNBの賃貸借契約への署名の際に、ムルデカ118の今年末の完成時には、すでに70%が埋まっていると話しています。このうち、40%はメイバンクで、約60,426平米を占有することになっています。



ムルデカ118は、東南アジアおよび東アジアでは最高層のビルとなります。賃貸可能面積は約148,645平米です。高層の17フロアには、高級ホテルブランド「パークハイアット」が入り、同ホテルブランドとしてはマレーシア初の物件となります。


メイバンクが本社をムルデカ118に移転することで、オフィス専用に建てられた55階建てのメナラ・メイバンクには、約10万平米のオフィススペースに空きが出ることになります。


古めのオフィスビルは、競争力のある賃料を売りに、まだまだ健全な需要があります。


JLLプロパティ・サービシーズ(マレーシア)の国担当ヘッド、YYラウ氏は、最新の高層ビルが魅力的なのは理解ができるが、異なるタイプのオフィスを好む人もいるし、必ずしも新しい建物だけが好まれるわけではない、と指摘します。


「多くの古めのオフィスは、健全な需要を獲得できています。賃料の競争力が高かったり、ロケーションやアメニティーが良かったり、サスティナビリティの面などで特定の基準を満たしていたりすれば特にです。もちろん、維持、設備、その他の要因も見逃せません。」と説明しています。


ラウ氏はさらに、賃料が魅力的な状態が続いているので、市場活動もゆるやかに増えてきていると言います。


「経済が上向いてくるにつれて、正味成約面積も改善してくるでしょう。」


正味成約面積とは、退去された商業スペースと、成約された商業スペースの差異です。クランバレーの中でも、ロケーションが戦略的で好調な建物については、わずかに賃料の上昇も見られているということです。


しかし、ラウ氏は、駐車場が十分でなかったり、防火対策が古かったりと、特定の設備が時代遅れの場合は特に、古めの建物は市場で課題に直面しそうだとも述べています。


一方で、KGVのチュア氏は、オフィス市場は依然として虚弱な状態で、力強い経済の推進力を欠いていると話しています。


「オフィス市場は、需要と供給の間の均衡を採ろうとしています。今のところ、供給サイドが市場に重くのしかかっています。」として、古めの建物の中でも特に二次的なロケーションにあるものは、賃料および稼働率といった点で、影響を受けそうだと述べています。


「おそらく、古めのオフィスビルは既存のテナントを保持するために改装されるか、処分されることになるでしょう。後者の例としては、今年初めに(マレーシアの従業員積立基金制度であるEPFが)約30年前に購入したバングナンKWSPをAIMSデータセンターに売却した案件です。他には、前Wisma KFCの売却案件で、購入者はホテルに改築する予定のようです。」とも話しています。




(出所:The Edge MarketNew Straits Times

(画像:UnsplashのIA SBが撮影した写真)