2020年第2四半期アジア太平洋地域投資状況

2020/08/17

2020年第2四半期アジア太平洋地域投資状況


総合不動産サービス会社サヴィルズが発行している四半期ごとのアジア太平洋地域の投資状況レポートのうち、フィリピン、マレーシア、ベトナムについて見ていきます。

■フィリピン


フィリピン経済が「ニューノーマル」に適応しようとする中で、さまざまな規制上の変更が行われ、資本市場は、事業を維持するために、今までのやり方を刷新して、費用対効果が高く効率的に規制を順守できるような取り組みを始めるよう迫られています。


2020年第1四半期、GDP成長率は-0.2%となり、1997年のアジア通貨危機以来初となるマイナス成長でした。世界でも最も厳しいロックダウンのひとつを行った影響で、今後数四半期の見通しは弱い状態が続くでしょう。


パンデミックがもたらした課題にもかかわらず、フィリピン中央銀行(BSP)は、国の成長見通しへのインフレショックを緩和することに専念しました。6月のインフレは2.5%で、政府の通年予測である1.75%~3.75%の中央値付近です。第2四半期終了時点までのインフレも2.5%となっています。投資に適した成熟した環境ですが、国内への信用の流れは滞っています。最近公表されたデータでは、生産活動への融資残高は、昨年5月の7.44兆ペソから、今年5月は前年同期比で一桁台の9.8%増となる8.17兆ペソでした。総合銀行、商業銀行が延長した融資は合計で、5月前年同期比で11.6%増となり、4月の12.7%より緩やかなペースでした。


これらの状況を踏まえて、2020年第2四半期、商業不動産投資市場における流動性は悪影響を受けました。投資家の意欲は弱く、同四半期内に完了した取引は一つもありませんでした。一方で、レジデンシャル市場は、2020年第1四半期、価格上昇が見られ、全国平均で前年同期比12.4%増となりました。すべての物件タイプのレジデンシャル不動産価格で上昇が見られましたが、最も上昇幅の大きかったのはコンドミニアムで前年同期比23.6%増でした。


経済指標が明らかになってくるにつれて、失業増、ビジネス閉鎖、賃金カットや雇用不安などから、今年残りの期間のレジデンシャル購入の動きが弱まることは確実でしょう。資本価値、特に地価はこのトレンドにならうと予想されています。現在、取引がないので、市場関係者は様子見の状態です。もし現在の経済状態が続くとすると、価格も徐々に下がってくるとみられます。BSPはパンデミック初期から積極的な対策をとっていますが、景気刺激策は3月に承認された54億ペソ(約118億円)のみで、十分ではありません。2020年後半期は、政府も複数の多国間機関も、経済成長率を最悪のシナリオでは-2.0%~-3.8%と予想しています。


■マレーシア


新型コロナウィルスの感染拡大を食い止めるためのロックダウン「活動制限令(MCO)」を経て、マレーシア経済は段階的に再開するにつれ、政府は長く続いたロックダウンの影響を緩和すべく、経済刺激策を発表しました。最近発表された4番目となる経済刺激策(PENJANA)は、総額約350億リンギット(約8,900億円)、中小企業への資金援助と新しい税インセンティブ、職の保護と不動産セクターへのインセンティブに焦点を当てています。


国内の不動産市場を支えるべく、政府はPENJANA景気刺激策パッケージの一環として、持家キャンペーン(Home Ownership Campaign(HOC))を再導入しました。不動産移転書類の印紙税免除(住宅価格の最初の100万リンギットに適用)、融資契約にかかる印紙税免除などが含まれています。印紙税免除は、価格が30万リンギット(約760万円)から250万リンギット(約6,370万円)の住宅に適用されるほか、デベロッパーの好意で物件価格の10%が割引となります。他には、マレーシア国民がレジデンシャル物件を処分する際に発生する譲渡益にかかる不動産譲渡益税(Real Property Gains Tax(RPGT))の免除がありますが、こちらは一人当たり3物件までとなっています。また、60万リンギット(約1,530万円)以上のレジデンシャル物件にかかるLTV(ローン・トゥ・バリュー)70%が、3軒目の住宅ローンについては緩和されます。


2020年第2四半期の不動産市場は、取引数が前期比13%増と活気を取り戻しつつありますが、前年同期比では6%減となりました。特筆すべき取引としては、ペトロナス(Petronas)社が170エーカー(約68.8万㎡)の工業ヤードを3.2億リンギット(約82億円)でセルバ・ディナミック・ホールディングス(Serba Dinamik Holdings)社に売却した案件があります。同物件はジョホール州コタ・ティンギにあり、この取引で、セルバ・ディナミック・ホールディングスは、オフショアの油田探査・開発スペースの足場を得ることになります。また、ジョホールでは、KUBマレーシアがクルアンにある6,564エーカー(約26㎢)のクバ・エステート・プランテーションを、べラディン・プランテーションに1.58億リンギット(約40億円)で売却することを決定しました。また、世界の手袋製造最大手のひとつ、コッサン・ラバー・インダストリーズは、空き地となっているセランゴール州のクアラ・ランガットにあるフリーホールドの工業用地96.5エーカー(約39万㎡)を、グランド・フォートレス・グローバルに1.53億リンギット(約39億円)で売却する売買契約を締結しました。売却で得られた資金は、グループのゴム手袋生産設備の拡大に充てられます。他には、アイボリー・プロパティーズ・グループがペナン州最大のショッピングモール、クイーンズベイ・モールの向かいの4.9エーカー(約19,800㎡)の2つの土地区画を1.43億リンギット(約36億円)で取得しました。将来、商業スペースおよびサービスレジデンスの開発が行われる予定です。


その他の商業用地の取引としては、クアラルンプール・チェラスの2.9エーカー(約11,740㎡)の土地を、コングロマリット、バウステッド・ホールディングスがビナストラランドに1.38億リンギット(約35億円)で売却した案件があります。この土地は、マイタウン・ショッピング・センター(Mytown Shopping Centre)に隣接しており、サービスレジデンスとホテルの開発が決まっています。


■ベトナム


ベトナムの2020年前半期のGDP成長率は1.81%と、ベトナム統計総局(GSO)によると2011年以来最低レベルとなりました。パンデミックの影響により、外国直接投資(FDI)は前年同期比で15%減の157億USドル(約1.6兆円)となりました。


不確実性の高まりに加えて、プライマリー市場の供給が少なかったことから、ホーチミンシティのレジデンシャルセクターは前半期としては過去5年で最悪の-52%でした。しかし、第2四半期の平均成約率は51%と前年同期比で16%増となり、Covid-19の影響はあるものの、潜在需要はまだあることを反映しています。ヴィンホームズ、フーミーフン、サンシャイン・グループといった主要デベロッパーは、新しい環境への適応が早く、販売チャネルを機能豊富なオンラインプラットフォームへと変更、ユーザーエクスペリエンスを高め、デジタルエコシステムを確立しています。


EU-ベトナム自由貿易協定(EVFTA)は、2020年6月8日の国会で満場一致で承認され、早ければ8月にも発効予定です。協定の批准で、相互貿易と国内の物流業が活性化されるでしょう。米中貿易の緊張が長引き、ベトナムは、移転や輸送経路の変更を考える多国籍企業の恩恵を受けています


アップルは、2020年第2四半期にエアポッド生産の30%を中国から移転しました。これにより年間400万個がベトナムで生産されることになります。パナソニックもコスト削減のために家電生産をタイからベトナムに移転すると発表しています。2020年第2四半期の資本市場は、Covid-19にもかかわらず重要な取引がいくつもありました。


シンガポール政府が保有する投資会社テマセック・ホールディングスは、米国のプライベートエクイティマネジャーKKR、その他投資家とともに、不動産デベロッパーヴィンホームズの持分6%を親会社のヴィングループから15.1兆ベトナムドン(約696億円)で取得しました。


韓国で3番目に大きいコングロマリット、SKグループは、医薬品・殺菌剤の生産を行うイメックスファーム(Imexpharm、銘柄コードIMP)の大株主となり、ヴィングループ、食品・飲料を中心とする消費関連製品の生産・販売を行うマサン、PVオイルなどの株式のポートフォリオに新たにイメックスファームを加えました。2020年5月29日、子会社のSKインベストメントIIIが、イメックスファーム・コーポレーションの株式の24.9%に相当する1,232万株を取得しました。


フォーカス・エコノミクスは、先に2020年のベトナム経済成長率を2.6%と予想していました。しかし、中央政府は、より楽観的なGDP成長率5%以上を目標に掲げています。2020年のGDP成長率予測は域内最高で、ベトナムは2021年から2024年にかけてアセアンで最も堅調なリバウンドを遂げる見込みです。経済の先行きは比較的明るいでしょう。


(出所:Savills

(トップ画像:Tierra Mallorca on Unsplash )