2020/09/04
[フィリピン]不動産市場動向(2020年8月)
不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2020年8月のレポートを発表していますのでご紹介していきます。これまで好調だったフィリピン不動産株式指数が2008年以来の落ち込みとなっています。今回のパンデミックによりEコマースが飛躍的に伸び、物流・リテールシーンにおけるデジタル化の動きが活発化しているようです。
■不動産市場全般
・過去6年間、フィリピンの不動産株式は、フィリピン主要株価指数(PSEi)を上回ってきましたが、Covid-19パンデミックにより、株価は2008年前半期以来の落ち込みとなりました。現在は、PSEiを下回った状態が続き、不動産指数は2020年前半期、約27%下落しました。パンデミックが引き起こした不安定要因と不動産需要の低迷に直面し、不動産業界の時価総額360億ペソ、30%ほど落ち込みました。
・クッシュマン&ウェイクフィールドは、感染者数が上昇を続けていることと、コロナ危機がいつまで続くか分からないという不安から、フィリピン証券取引所の不動産インデックスは今後も厳しい状況が続くと予想しています。強力な市場の刺激策がない中、特にホスピタリティとリテールセグメントの見通しが暗いことに加え、オフィスとレジデンシャルセグメントについては市場心理も複雑なことから、投資家は慎重な状態が続いています。
■オフィス
・多くの企業が長期的な事業継続計画の一部として、フレキシブルな職場スペースを採用し始めており、WeWorkフィリピンは、コミュニティ隔離措置が始まって以来の3月から7月までで、フレキシブルな働き方が広く実施され、会員企業数が10%増加しました。会員企業の中には、厳重なITやセキュリティ要件を必要とするものも含まれており、今後長期的な契約が見込めそうです。また、不動産にかかるコストを最小化しようとより小さいスペースへ移転しようとする企業も含まれています。
・フレキシブルな職場スペースへの需要増加がコロナ後も続きそうですが、クッシュマン&ウェイクフィールドは、職場への復帰は、多様化した生態系の中で進化し、郊外のオフィスも共存していくのではないかと予想しています。今後も在宅勤務を選択する働き手も残り、フレキシブルな働き方が続くことが予想されることから、このトレンドも続くとみられています。一方で、コロナ後も職場の健康と安全にかかる基準への徹底した遵守が強調されるでしょう。
■レジデンシャル
・人の多い場所を避ける動きが出ていることから、レジデンシャル不動産需要が、中心業務地区(CBD)以外のエリアへと向かっています。さらに、コミュニティ隔離措置により利用できる公共交通機関が限られていることから、職場に近い場所を好む傾向も出てきています。この好みのシフトは一時的だとみられていますが、パンデミックは住宅購入の際のポイントを再考するきっかけとなりました。賃貸および売買不動産物件紹介サイトLamudiもまた、高層レジデンシャル物件のウェブサイト上の見込み客数が大幅に減り、土地付きの住宅の見込み客数が増えていると述べています。
・Covid-19は、住宅購入を決める際に新たな選択肢を提示しています。特にパンデミックにより自由に動き回ることが難しくなっているので、自宅から職場へのアクセスが良い総合的な開発物件の利点が浮き彫りになっています。職場の立地の好みもまた変化していますが、自宅を最優先に考える傾向が強まるでしょう。クッシュマン&ウェイクフィールドは、主要エリアとの全体的な接続性が向上するような、複数のインフラ開発が完成することで、今回のパンデミックが、CBD以外のエリアが新たに成長するきっかけを与えるのではないかと予想しています。
■ホスピタリティ
・ロックダウンが始まり海外からの渡航が禁止になったこと受けて、2020年4月~7月の旅行客はゼロとなり、1月~7月の外国人観光客数はたった130万人となりました。前年同期の464万人から73%減です。同様に、観光収入も、前年1月~7月の2,890億ペソ(約6,309億円)からたったの810億ペソ(約1,768億円)と72%減少しました。観光業界は、国内観光の復活にかけています。「修正を加えた一般的なコミュニティ隔離措置(MGCQ)」が実施されたエリアでは観光が再開できるため、ホテル・リゾートの事業活動も再開できることになります。政府観光省(DOT)の調べでは、調査対象となったフィリピン人の77%が、ワクチンがなくても旅行をしたいと回答しています。
・観光客数に大きく依存するホスピタリティ部門は、間違いなく今回のパンデミックで最も打撃を受けた業界でしょう。いつになれば完全に回復できるのかが不透明なため、ホテル・観光物件のデベロッパーは、資産の転用を検討できるでしょう。すでに大手デベロッパーの中には、ホテルスペースをオフィスやフレキシブルワークスペースなどに転換したものもあります。
■工業/物流
・国内物流の課題に対応するため、クーリエ企業は自動化の必要性を認識しています。MrSpeedy社は、ハイテク物流ソリューションを市場に届けることに重点を置き、成長するEコマースを支援するソリューションを提案しています。
(1) API統合により、EコマースアプリまたはウェブサイトとMrSpeedyとを直接リンクさせ、オンライン取引の物流要件を達成できるようにする。
(2) Eコマース・モジュールにより、技術的な知識やスキルがなくても、オンラインストア管理ができるようにする。
(3) ChatGenieで、既存のフェースブックページをMrSpeedyと統合することで、フェースブックのメッセンジャー上でのオンラインチェックアウトを可能にする。
・コミュニティ隔離措置期間中にEコマースが飛躍的に成長、国内の物流・倉庫業に大きなオポチュニティができました。この成長をさらに促進する要因は、デジタルインフラと輸送システムの強化です。これらにより、シームレスで効率的な物流ソリューションが提供できるようになるでしょう。
■リテール
・メガワールド・コーポレーション社は2.5億ペソ(約5.5億円)のデジタル化投資のパイロット商品として、PICK.A.ROO(ピッカルー)というスタートアップブランドを立ち上げました。これは、初の自社ライフスタイル・デリバリーモバイルアプリとなります。PICK.A.ROOは、国内外の業者約300社を集め、食品、電化製品、ハードウェア、パーソナルケアを含む様々な商品を提供する狙いです。この新しいモバイルアプリは、リテール業に大打撃を与えた今回のパンデミックのような状況が起きたときに、小売業者がスムーズにデジタルプラットフォームに移行できるように支援することを目的としています。メガワールドは、飲食、小売、ホスピタリティへの新規事業投資を担当する子会社、AGILE Digital Ventures(アジャイル・デジタル・ベンチャーズ)の設立を発表しています。
・パンデミックが長引くにつれ、実際の店舗へ行くよりもオンラインを選ぶ消費者が増えたことから、Eコマースが飛躍的に伸びています。厳しいビジネス環境を乗り切るために、デジタル化の道を進むことが小売業者には必須と見られています。一方で、消費者は不必要な支出を避ける傾向も出ており、消費者心理がかなり冷え込んでいるため、リテール業の回復見通しは芳しくありません。
(出所:Cushman & Wakefield)
(トップ画像:Ian Romie Ona on Unsplash )
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