2021/01/22
[フィリピン]不動産市場動向(2020年12月)
不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2020年12月のレポートを発表しています。コロナウイルスをきっかけにEコマースがますます人気となり、工業・物流不動産が好調のようです。一方で、レジデンシャル不動産価格インデックスは2016年以来初となる前年同期比マイナスとなり、オフィスもPOGOのフィリピン離れや在宅勤務の続行などで、メトロマニラを中心に空室率の上昇が懸念されると述べられています。
■不動産市場全般
・フィリピン経済の回復がどのような軌道をたどるのか、不動産セクターが活気を取り戻すのはいつ頃になりそうか、フィリピンの商業不動産各社の見方は様々ですが、パンデミックによって新興した一部の不動産セクターのトレンドについては一致しています。パンデミックによって、不動産業界関係者は、健康およびウェルネスに重点を置くようになり、不動産オペレーションにおけるデジタル化と技術の進歩への適応にさらに注力していくようになったことです。コロナ危機にまさる勢いで、工業・物流不動産は、安定的な需要と急増するEコマース人気に支えられて上昇する賃料により、非常に好調です。データセンター、生活必需品関連のリテール、ヘルスケア業界にもオポチュニティが見られる一方で、大打撃を受けた不動産セグメントについては、柔軟かつ迅速にスペースを多用途に転換することで利益を得る動きも見られました。
・クッシュマン&ウェイクフィールドは、Covid-19のワクチンの配布と接種を進めるよりも、適切な景気刺激策を実施することで消費者の信頼感を回復させ、他のアジア諸国よりもフィリピンの競争力を高めることで投資を誘致することが業界の完全回復には必要であるとの見方を維持しています。同社はまた、パンデミックから学んだこととして、回復力に向けて、開発プロジェクトの多様化、資産管理の柔軟性、技術革新への適応などをその要素として挙げています。
■オフィス
・オンラインカジノ事業者(Philippine Offshore Gaming Operator (POGO))業界のフィリピン離れが相次ぎ、不確定なビジネス環境からビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)企業や従来企業のオフィス需要も冷え込む中、メトロマニラのオフィスは空室率上昇の脅威にさらされています。POGOのフィリピン離れの影響は、他の不動産セグメントにも及んでおり、テナントを支援する賃料減免支援の動きとともに、価格調整がリテールセグメントを中心に起こるとみられています。しかし、コロナ禍により、クラウドを活用したタッチポイント(顧客接点)、支払方法、サイバーセキュリティといった革新的なソリューションが生まれただけでなく、柔軟な支払方法を提供することが不可欠となっているようです。
・パンデミックにより、在宅勤務(ワークフロムホーム)が仕事、柔軟性、オフィスに対する見方を今後も変えていくことが予想され、職場としてのオフィスの在り方が変わっていくと見られています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、オフィスの将来は一様ではなく、職場のエコシステム的なものになると述べています。実際に働く場としてのオフィススペースの需要は進化すると考えられています。フレキシブルな働き方が企業の文化やブランドに影響を与えています。アメニティ、技術的なソリューション、従業員サービスが、従業員エンゲージメントおよび生産性の強化に繋げるには必要になってくるでしょう。
■レジデンシャル
・レジデンシャル不動産価格インデックス(RREPI)が2020年第3四半期、2016年以来初めて収縮し、前年同期比-0.4%となりました。メトロマニラの価格下落が最も大きく前年同期比で-12.2%、メトロマニラ以外の地域は前年同期比で+6.4%となりました。メトロマニラの下落は、コンドミニアム(前年同期比-17.9%)とデュプレックス(前年同期比-11.8%)の価格下落に引きずられた形になりました。一方で、一戸建ては前年同期比23.3%、タウンハウスは前年同期比11.2%の上昇となりました。フィリピン中央銀行は、この収縮を景気の先行き不明さから土地・住宅の消費者需要が低迷したことによるものだと説明しています。
・中所得層向けのレジデンシャルで、短期的な価格調整が入ることが見込まれています。というのも、外国人労働者や海外で働くフィリピン人労働者を中心とする需要の源泉がパンデミックで停止状態となっているからです。クッシュマン&ウェイクフィールドは、今後は、在宅勤務を継続する者とオフィスに戻る者の混合の働き方となってくるにつれ、レジデンシャル開発の需要と供給は、より密度が低く、また渋滞のビジネス地区から近郊の都市化エリアへと移る動きもあるだろうと予想しています。また、現在進んでいる大型インフラ開発により、主要ビジネス地区へのアクセスを改善されるので、このトレンドがますます進むのではないかと述べています。一方で、レジデンシャル不動産の完全回復は、安定したインフレ率、低金利環境、そして海外で働くフィリピン人労働者からの送金額が戻ってくることに支えられるでしょう。
■ホスピタリティ
・ロビンソンズランド社(Robinsons Land Corp.)は、初となるマリオット・インターナショナル・ホテルブランド、ウェスティン・ソナタ・パレス・ホテル(303室)に41億ペソを投じる計画を発表しました。世界的な衛生基準とホスピタリティ業界の基準に従ったこのプロジェクトは、投資庁(BOI)のインセンティブを受け、2022年第1四半期に営業開始予定となっています。
・短期~中期的には、海外からの観光客がコロナ前のレベルまで回復することは望めないことから、コロナウイルスのワクチンと効果的なキャンペーン戦略が、国内旅行者を増やし、国内観光の活性化につながると期待されています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、宿泊施設に対して、この新しい需要の波に乗るためには、設備をパンデミックに耐えうるものにしていくべきだと提言しています。
■工業・物流
・CVCキャピタル・パートナーズ社は、ファスト・グループと提携し、同社の物流設備の拡大、新しい技術を用いた物流オペレーションのデジタル化、さらなるM&Aの機会検討などを通じてファストのフィリピン物流市場におけるシェアを拡大すべく、60億ペソの投資を約束しました。国内最大のエンドツーエンド物流会社は、世界的なコロナ危機の中も、製薬、食料、その他必需品関連の産業からの安定的な需要を受け、2020年の収益は前年同期比12%増を見込んでいます。フィリピン経済のさらなる再開とともにファストは2021年のますますの飛躍を期待しています。
・物流・倉庫の需要は、Eコマースの成長を受けて引き続き好調です。リテールはオンラインに完全に移行したり、実際の店舗をオンラインのチャネルで補ったりしています。物流事業者は、医療セクター、生活必需品・サービス業界のさらなる需要増に対応できるよう、設備の近代化に投資することで、市場シェアの拡大につなげられそうです。
■リテール
・ビスタランド&ライフスケープス社は、他のリテール事業者よりも業績を伸ばしています。この理由として、同社は、同社のリテールスペースが、パンデミック前の時点からすでに、日曜大工用品店、スーパーマーケット、飲食店などを核テナントとして抱え、必要不可欠な物品・サービスを提供することで、Eコマースと互換性がある設計になっていたことを挙げています。同グループの賃料収入は、2020年1月~10月で前年同期比10%の下落にとどまっており、ニューノーマルへの移行に向けた調整を行っていくことで、急速な回復に向けた見通しを維持しています。
・リテール業界の完全回復は、まだまだ先行きが不透明な中すぐには期待できないところですが、必需品のリテールセグメントがフィリピンのリテール業界をけん引していくと見られています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、リテールの活性化には不可欠な消費者支出は、高い失業率、就職不安、ビジネス環境の不確定さにかかる懸念への対応がしっかりと取られたら、着実に回復してくるだろうと述べています。
(出所:Cushman & Wakefield)
(トップ画像:Photo by Robin Kutesa on Unsplash )
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