フィリピンの不動産市場(2020年3月)

2020/04/07

フィリピンの不動産市場(2020年3月)


グローバル不動産総合サービス会社クシュマン・アンド・ウェイクフィールドが、2020年3月のフィリピン不動産市場についてのレポートを発行しました。同社は、新型コロナウィルスCovid-19の影響でホスピタリティ、リテール部門は特に影響を受ける一方で、レジデンシャルは高まる住宅需要を背景に厳しい状況を乗り切るだろうとしています。


■不動産市場全般

・メトロマニラにおける新型コロナウィルスCovid-19のさらなる流行に歯止めをかけるためのコミュニティ・ロックダウンは、経済にマイナスの影響を与えるとみられています。直に影響を受けるのはホスピタリティ部門です。ロックダウン以前より観光客の入国を制限しているため、稼働率は30%にまで急落、室料も50%ほど下がっています。ショッピングモールの閉鎖を受けて、大手モール事業者は、月額賃料の免除を決めています。一方で、レジデンシャル部門は、高まる住宅需要を背景に、この厳しい状況を乗り切るとみられています。

・REITが不動産市場を取り巻く前向きな市場心理を後押ししています。投資資金の調達のために、より多くの会社がREITを検討しており、フィリピンのREIT市場は、マレーシアのREIT(時価総額70億USドル(約7613億円))、タイのREIT(時価総額110億USドル(約1兆1,963億円))に匹敵するレベルまで成長するのではないかと期待が寄せられています。メトロ・パシフィック・トールウェイ社(Metro Pacific Tollways Corp. (MPTC))、メガワイド・コンストラクション社(Megawide Construction Corp.)なども最近になってインフラREIT発行の可能性を発表しています。また、トーレ・ロレンソ・デベロップメント社(Torre Lorenzo Development Corp.(TLDC))もIPOを通じてREITを立ち上げることを計画しています。一方で、REITが投資家にとってより魅力的な手段となるにつれ、農業用地の大規模買収がされ、耕作地が減少することへの懸念が持ち上がっています。

・セブ・ランドマスターズ社(Cebu Landmasters Inc.(CLI))は、社債発行により80億ペソ(約172億円)を調達し、セブ、ボホール、カガヤン・デ・オロ、ダバオ、プエルト・プリンセサ、レイテ、ブトゥアン、ジェネラルサントスシティにおける戦略的な大規模土地取得と拡大計画を発表しました。調達した資金は、同社のダバオ・デル・スルにある22ヘクタールのビジネスハブ開発にも充当される予定です。


■オフィス

・過去2年間、フィリピン・オフショア・ゲーミング事業者(POGO)がフィリピンのオフィス需要を支えてきましたが、以下のような要因で減速することが予想されています。

 - フィリピン政府による、新規申請の制限とPOGO関連の犯罪行為の増加を抑制するための措置
 - 中国政府による不法POGO従業員の取り締まり
 - Covid-19の拡大を防ぐための渡航禁止令

一方で、IT-BPM企業による需要や、大企業によるフレキシブル・ワークプレイスの高まる需要など、根強い需要も見込まれています。


■レジデンシャル

・レジデンシャル市場は、メトロマニラ以外の成長エリアにおいて拡張を続ける見通しです。

 - セブ・ランドマスターズ社: ボホール州ダウイスにヴェルミロ(Velmiro)ブランドのタウンハウスと一戸建て204棟のプロジェクトの開発に着手。
 - メガワールド社: セブ・ラプラプシティのマクタン・ニュートンタウンシップにあるパール・グローバル・レジデンシーズ(Pearl Global Residences)にコンドミニアム1,836ユニットを追加。
 - クリスロン・ホリデー社: ダバオシティの2.8ヘクタールの敷地に、4棟構成のレガシー・レジャー・レジデンシーズ(Legacy Leisure Residences)を計画。
 - フィリグリー社: パンパンガ州クラークに、高級不動産ブランド、ゴルフ・リッジ・プライベート・エステート(Golf Ridge Private Estate)をフィリンベスト社ミモザ・プラス・レジャーシティに開発予定。

・メトロマニラでは、DMCIプロジェクト・デベロッパーズ社による、パシグ・シティに2棟構成のブリクストン・プレイス(Brixton Place)の建設が進行中で、2022年5月に完成予定です。2020年3月時点で工事の20%が完成しています。DMCIは、カヴィテのバコール・シティにある初となる中層プロジェクト、アリア・レジデンシーズ(Alea Residences)の最後のタワー、ブディ(Budi)が2020年2月に完成したことを発表しました。

・Covid-19の流行により、購買活動が減速気味なので、デベロッパー各社は購入者を呼びこむべくフレキシブルなパッケージや支払方法などを提案することになりそうです。ただし、複数のインフラ開発が進み、中~高所得層のファミリーが増加することで、中期的には需要は下支えされるでしょう。


■ホスピタリティ

・サントラスト・ホーム・デベロッパーズ社(Suntrust Home Developers. Inc.)は2月にウェストサイド・シティ・リゾーツ・ワールド社(Westside City Resorts World, Inc.)とトラベラーズ・インターナショナル・ホテル・グループ社(Travellers International Hotel Group, Inc.)社とリース契約を締結。マニラ・ベイショア・インテグレーテッド・シティ(Manila Bayshore Integrated City)の土地3区画を2039年8月まで、さらに25年更新可能なオプション付きでリースします。これにより、サントラスト社は、メガワールド社の31ヘクタールのウェストサイド・シティを補完する、メイン・ホテル・カジノを開発するために同区画を使用する権利を得ることになります。

・地元のデベロッパー、フェルクリス・ホテルズ・アンド・リゾーツ社(Felcris Hotels and Resorts Corp.)による5.9ヘクタールのフェルクリス・セントラルのコンプレックス内には、現在モールとオフィスがありますが、ここにホテルとコンベンションセンターが追加されます。このホテルが完成すれば、2022年4月までにダバオシティのホテル客室供給に280室が加わります。


■工業/物流

・バギオ・シティの周辺地域の経済発展を目的として、サブランの小さな町をBLISTT(Baguio - La Trinidad - Itogon - Sablan - Tuba - Tublay)ゾーンとして開発する検討がされています。これは、ベンゲット州の成長を促進するためのBLISTT成長戦略の一部と考えられています。

・チェルシー・ロジスティックス・アンド・インフラストラクチャー・ホールディングス社(Chelsea Logistics and Infrastructure Holdings Corp.)は、Covid-19によるタンカー・カーゴ輸送に直接的な影響を受けていません。同社は、フィリピンにおける日用消費財や医療用具の効率的な配達サービスを得意とし、物流サービス需要が増加していると言います。港湾事業者であるインターナショナル・コンテナ・ターミナル・サービス社(International Container Terminal Servicies, Inc.(ICtSI))およびアジア・ターミナルズ社(Asia Terminals, Inc. (ATI))も感染拡大防止対策を十分にしたうえで営業を継続しています。

・ホンダ・カーズ・フィリピン(Honda Cars Philippines, Inc.(HCPI))がメトロマニラ南のラグーナ州にある工場の閉鎖を発表し、地元の企業がホンダの工場施設を引き継ぎたい意向を表明しているようです。


■リテール

・下院は200年小売自由化法の改正草案を可決しました。同法案は、払込資本金を250万USドルから20万USドルにすることで、外国人の小売事業への参加要件を緩和することを目的としています。他には、外国事業者の純資産、支店数、実績要件の排除、外国投資家による国内小売業者の株式取得要件の廃止、外国小売事業者が提供する現地生産商品の割合を在庫の総コストの30%から10%へ引き下げなどが改正案には含まれています。

・2020年末予定であった世界最大の家具ブランドIKEAのオープンが2021年に変更となりました。フィリピンにおけるIKEAの旗艦店は、パサイ・シティのSMベイシティにある、モール・オブ・アジア・コンプレックス内に入る予定で、世界最大の総床面積157,000平米となる予定です。

(出所:Cushman and Wakefield