[フィリピン]不動産市場動向(2020年10月)

2020/11/02

[フィリピン]不動産市場動向(2020年10月)


不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2020年10月のレポートを発表しています。同社は、フィリピン初となるREIT上場について、各社コロナを背景に上場を遅らせているものの、今後アヤラランドなどに続いて上場する企業が増えれば、株式市場の活性剤となっていくのではないかと期待しています。また、オフィス市場については、ソーシャルディスタンスのための在宅勤務を引き続き行う企業が多く、オフィスのあり方そのものを見直すきっかけとなりそうだとも述べています。


■不動産市場全般

・パンデミックが国内だけでなくほとんどの東南アジア諸国における新規上場(IPO)を鈍らせましたが、フィリピンでは、国内初となる不動産投資信託(REIT)の上場が今後の株式市場を盛り上げていくのではないかと注目されています。今年は多くの企業が弱気な市場心理を背景にREIT上場計画を遅らせており、2020年10月時点で、REIT上場を果たしたのは3社のみ(Merry Mart Consumer Corp.、Ayala AREIT、Converge ICT.)です。

・各企業は、パンデミックの影響から立ち直る力強いビジネス環境と景気の回復を様子見している状況なので、IPOに踏み切るには慎重な姿勢を維持するとみられています。REITの施行規則の緩和によりより多くの不動産会社がREITへの関心を高めている一方で、投資を通じた持続可能な成長を促すとみられています。


■オフィス

・アジア開発銀行(Asian Development Bank)は、パンデミック後も、先進国、発展途上国ともに在宅勤務(ワーク・フロム・ホーム(WFH))の働き方が続くと予想しており、従業員はよりコスト、生産性、ワークバランスへの意識を高めるとみられています。同銀行の推定では、先進国では仕事の35~45%が自宅でできるのにたいし、発展途上国は10~30%程度となっています。パンデミック後も、先進国はより柔軟な働き方を継続し、発展途上国は従来のオフィス環境に戻る傾向があるとみられています。これは、低所得国では自宅で仕事をするのに適した環境があまりなく、家族と同居していることで気が散ったりすることが理由としてあげられています。雇用主の側から見ると、WFHの働き方をすることで、企業のデジタル化が進み、ワークスペースの共有化が進むと、実際のスペース需要が減るので、賃料コストも減ることになります。

・今後の職場は、リモートワークとオフィスでの仕事とのミックス状態となりそうです。クッシュマン&ウェイクフィールドは、それぞれの従業員、役割、機能およびチーム編成を考慮しながら、個々の組織に合わせて労働力を配分していくことが必要だと述べています。パンデミック期間を通して、コロナウイルスの感染拡大抑制のために広くWFHが行われるようになっても、社会的な交流や対面での関係は仕事をするうえで重要な役割を果たしています。今後は、企業はオフィスを中央組織と交流の場、訓練・啓発の場として、別の視点から見るようになるかもしれません。


■レジデンシャル

・フィリピン国内の住宅の受注残が657万ペソに達し、公営住宅セグメントについて、お役所仕事を減らし、取引や国や地方の認可や証明書を得るための要件の整流化のための新しい措置にスポットライトが当たっています。2007年の「アンチ・レッドテープ法(お役所仕事を減らすための法律)」を改定するための下院法案第7884号が可決され、住宅取引にかかる処理を6か月から3か月に短縮することを目的としています。これは、経済成長や、その健康、治安、生産性などを向上させる役割を加速させるものとして、住宅セグメントに重要性を置いていることがうかがえます。

・過去数年のメトロマニラおよび周辺エリアにおける住宅開発は、主に中所得~高所得層向けの開発を中心としてきたため、公営住宅セグメントが手薄な状態となっていました。住宅に関する規則とプロセスを整流化することで、低価格帯の物件とのギャップを狭めるだけでなく、レジデンシャル開発のための許可を主よする際の、不利で時間のかかるプロセスを排除することで、他の主要デベロッパーの関心も呼び起こせるかもしれないとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。


■ホスピタリティ

・一般的なコミュニティ隔離措置(GCQ)および修正を加えたコミュニティ隔離措置(MGCQ)のエリアで宿泊施設がフル操業が可能となりました。ホテル経営側が許可すれば、ホテルの従業員はやっと職場に戻ることができるようになります。今回の決定は、観光活動を再開させる努力の一環として、10軒のホテルがステイケーションでの影響を認められたのに続きました。また、GCQとMGCQのエリア内、エリアをまたいだ移動に関する制限も緩和され、地方政府の規則に従って行われるものではありますが、国内旅行を刺激するものとして期待されています。最近、必要不可欠でない海外への渡航禁止も解かれましたが、まだ乗客数は伸びず、海外旅行への需要の再興には至っていません。

・国内、海外旅行ともに、慎重な姿勢を見せる消費者が市場に水を差す形となるでしょう。国内旅行をするにも、地方を越えて移動する際に必須の医療/健康証明書を取得するための追加費用など、中央政府・地方政府が課すその他要件を満たすための関連費用が発生することから、国内旅行も思いとどまる人が多いだろう、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。しかし、宿泊施設がフル操業できるようになったことで、ひとたび旅行意欲が戻れば、業界はいつでも宿泊客を迎える準ができているということです。


■工業・物流不動産

・フィリピン最大の輸送・物流会社の一つ、チェルシー・ロジスティックス&インフラストラクチャー社は、早くも2021年央までには回復の兆しを見せています。同社は、パンデミック期間のEコマースの増加の恩恵を受け、オペレーションが通常通りになれば、素早い回復が見込めるとしています。チェルシーは、財務状況を維持するために、遅らせられる設備投資を後回しにし、非効率な資産を処分するなどの戦略を取ってきました。同社はまた、2021年第1四半期に完成予定の、2.5ヘクタールの物流設備により、相当のキャッシュフローを生むことが予想されています。

・工業不動産の供給は、力強い市場の見通しを背景に各社が開発/拡大計画を続行することから、パンデミックの影響を受けることはなさそうです。しかし、今後行われる予定のインセンティブの合理化などの施策が投資家(特に外国の投資家)にとって好ましいビジネス環境を混乱させることになると、国の工業セクターの競争力や魅力に影響が出る可能性があるとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。


(出所:Cushman and Wakefield

(トップ画像:Photo by Eldon Vince Isidro on Unsplash )