[フィリピン]不動産市場動向(2021年7月)

2021/08/23

[フィリピン]不動産市場動向(2021年7月)


不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2021年7月のレポートを発表していますので、見ていきましょう。興味深いのは、年齢層別で関心を寄せるレジデンシャル不動産タイプが異なる点です。コロナウイルス感染拡大防止のための制限措置が引き続き行われているものの、前年同期比でLamudi社のページビューが増えているということは、コロナウイルスによってもたらされた「ニューノーマル」に向けて、人々が新しい生活の様式に対応しようとしている表れなのかもしれません。



■不動産一般

・フィリピンの不動産セクターは、不正な金銭取引への脆弱性が中~高程度だとして、金融活動作業部会(Fiancial Action Task Force(FATF))から「グレーリスト」に入れられています。これは、フィリピンのマネーローンダリング/テロ資金供与防止に関する規制が不十分なことに起因しており、反マネーロンダリング委員会(Anti-Money Laundering Council(AMLC))は、マネーロンダリングのための規則の強化を迫られています。AMLCの新規則により、不動産ブローカーおよびデベロッパーは、顧客の身元を明かさないなどの疑わしい性質の取引、仲介業者など第三者を通した取引、高リスク国の顧客に由来する取引などには、特に注意をするようになっています。強化された2001年マネーロンダリング防止法(AMLA)の下、モニタリングレベルを上げるべく、不動産デベロッパーおよびブローカーは、単一の現金取引が750万ペソを超えるものについて報告を義務付けられています。新しい規則では、対象の個人・金融機関に対して、金額や支払方法にかかわらず、疑わしい取引のレポート(STR)を提出することも求めています。


・不動産関係者に対して適切な注意義務の履行を求めることで、不動産セクターの規制を強めることは、資金洗浄活動の経済への影響を前もって軽減する方法の一つでもあります。FATFのグレーリストに載るということは、外国直接投資の流れや海外のフィリピン人労働者からの送金額にも影響を与える可能性があると、クッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■オフィス

・フィリピン情報技術・ビジネスプロセス協会(IBPAP)は、職場がますますハイブリッド型に変化する中、IT-BPM(情報技術-ビジネス・プロセス・マネジメント)業界について、柔軟なオペレーションを採用した他のアウトソース先との競争力を保つべく、長期的なソリューションを計画する必要があると述べました。政府は、経済特区内にあるアウトソーシング企業に対して、今年の9月まで在宅勤務を認めていますが、IBPAPは、期間を過ぎてもリモートワークと出勤とのハイブリッド型の働き方を継続したり、メトロマニラのインセンティブを求めるIT-BPM企業に対するロケーション規制を撤廃するなどの長期的な解決策を検討しています。


・コロナ後のオフィスのあり方が、このままハイブリッド型の働き方に向かうと考えられることから、フィリピンだけでなく世界的なトレンドとなりうるこのシナリオに対応するような政策や明確なガイダンスを国として出していくべきだとクッシュマン&ウェイクフィールドは提言しています。この新興するトレンドにいかに素早く適応できるか、入居する企業の新しいニーズに対応できるかが、国内オフィスデベロッパーおよび所有者が入居企業を呼び込むにあたって大いに役立つでしょう。




■レジデンシャル

・不動産プラットフォーム「Lamudi」による最新の「レジデンシャル不動産市場見通し」では、今年第1四半期のレジデンシャル不動産について、年齢層によって好みの不動産タイプが異なる点が明らかになっています。レジデンシャルコンドミニアムに関心を寄せたのは主にX世代と呼ばれる18歳から24歳の年齢層で、コンドミニアムのページビューが106.8%増となりました。一方で、アパートメントのページビュー増加率は2021年第1四半期に16.11%を記録、けん引したのは25歳から34歳のミレニアル世代で、ページビュー全体の42.76%を占めました。X世代は、ますます増えるハイブリッド型の働き方に大きく影響を受けているようで、職場に近い物件を探しています。一方で、ミレニアル世代は、これから結婚したり家族を増やしたりすることを見据えて、大きなスペースを求めてアパートメントを探すことが多いようです。また、65歳以上のリタイア世代のページビューも、2021年第1四半期に、前年同期の-107.99%から一転して80.32%となり、新たな関心の高まりを示しました。リタイア世代のページビューは、特に一戸建てで増えて+93.58%となっており、メトロマニラ外のエリアに目が向けられています。


・ミレニアル世代は年を重ねるごとに、小さい住居スペースから出て、手頃で大きなスペースを探すべく、郊外やCBDの周辺エリアの住宅物件の需要をけん引しそうです。地方で進むインフラ開発に加えて、ますます一般的になる在宅勤務の働き方もまた、この年齢層の需要を後押しする形になりそうだとクッシュマン&ウェイクフィールドはコメントしています。



■ホスピタリティ

・ホテル管理会社「RedDoorz」は、Z世代をターゲットにしたホテルブランド「サンズ・ホテル」を新しく立ち上げました。デザイン志向のライフスタイルかつエコノミーなコンセプトの商品で、旅慣れした若い世代のニーズに応える狙いです。通常のRedDoorzのアップグレード版となるこのブランドは、「スタイリッシュな快適さとスマートな技術を見事に融合」して、Z世代やミレニアル世代の価値観に合うものを提供しており、コロナの規制の中でなかなか旅行ができていないこれらの世代の「繰延旅行需要」を取り込む準備ができています。RedDoorzは、経済が再開した暁には、若い世代の国内旅行需要が大いに高まるとして、ホテル業界の将来の成長に楽観的な見方を示しています。また、「消費者・パートナー資産のデジタル化」と有形かつ影響力のある取り組みを通じたビジネスオペレーションの改善に力を入れています。


・活動制限が今後も残る中、デジタル改革を進めて旅行をする上での障害を軽減することは、ホテル・観光業界の回復プランの優先順位の上位に来るべきだ、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。パンデミックで活動が制限される中、旅行好きなこの世代の繰延需要をさらに高めることにつながりそうです。



■工業/物流

・安価な人件費を利用して、競争力の高い商品を製造する拠点としてフィリピンを選んだ日本の製造メーカートップ10社の投資予定額が1,000億USドルに達しました。これらの企業は、フィリピン経済に楽観的な見方を示す一方で、役員やエンジニア向けのタイムリーな渡航ビザの発行、規制当局の許可やライセンスの処理・発行、地方政府が課すVATその他税金、Covid-19ワクチンの入手といった、財政上、事業上のボトルネックについての懸念を示しました。貿易産業省は、投資計画の実行を確実にすべく、こういった懸念には、関係省庁とともに対応を協議していくと述べています。


・製造業は、経済の主なけん引役となっており、国のGDPの約1/5に貢献しています。フィリピン内国歳入庁が、国内で活動する輸出型企業の国内調達を対象とした付加価値税(VAT)の課税延期を決定したことで、投資家にとっては大きな救いとなるでしょう。クッシュマン&ウェイクフィールドは、製造業には、さらなる投資を呼び込むための国の能力を強化すべく、堅固な投資の枠組みが必要であると述べています。


■リテール

・米国農務省海外農業サービス局マニラ事務所がまとめた「Global Agricultural Information Network(Gain)」レポートによると、フィリピンの飲食(F&B)Eコマースは、2021年に前年比30%成長し、1年前の2.16億ドル(約237億円)から2.8億ドル規模(約308億円)に達すると予測されています。当初はパンデミックによりオンラインにシフトせざるを得なかった消費者ですが、パンデミック後も、各社がウェブサイトやモバイルアプリなどを充実させることで、パンデミック後も引き続き成長するとみられています。特に、2020年、飲食のEコマースは、パンデミックの中、従来の小売業者がサプライチェーンや食物輸送が大きく影響を受けたため、2019年のたった7,000万ドル規模(約77億円)から3倍以上の急拡大を見せました。


・店舗やECサイト、SNSなど、オンライン/オフライン問わず、あらゆるメディアを活用して顧客と接点を作り、購入の経路を意識させずに販売促進につなげるオムニチャネルのマーケティング戦略は、F&Bはもちろん、他のアイテムのEコマースへのシフトを加速させるでしょう。オンラインとオフラインのチャネルを境をなくして同化していくことで、このシフトをさらに加速させるだけでなく、一貫したサービスの提供をすることができ、顧客の需要へのレスポンスを強化することにつながるだろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。


(出所:Cushman&Wakefield

(画像:Photo by Paolo Syiaco on Unsplash )