2021/08/05
フィリピン不動産市場動向(2021年6月)
不動産コンサルティング会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2021年6月のレポートを発表していますので見ていきましょう。
オフィス市場については、フレキシブル・オフィススペースを提供するWeWork社の調査を挙げて、多くのビジネスリーダーが従業員の協力を促す場としてのオフィスの重要性を認識しつつも、オフィスに戻る際には、清掃・消毒の徹底やソーシャルディスタンスの確保を重視していることがわかります。また、工業不動産では、アリババのクラウドコンピューティング子会社であるアリババ・クラウドがフィリピンに初のデータセンター建設を発表し、データセンター拠点としてのフィリピンに注目が集まりそうです。
■不動産一般
・ブルームバーグ・エコノミクスは、世界の不動産価格が、2008年通貨危機前には見られなかったようなバブルの警告を見せており、ニュージーランド、カナダ、スウェーデン、UKおよびUSで特にそのリスクが高まっているとしています。同社のレポートでは、世界の住宅価格を特筆すべきレベルまで持ち上げている要因に、「過去最低レベルの金利、類を見ない財政刺激策、頭金として使用可能なロックダウン期間の間の貯蓄、限定的な住宅在庫、そして世界経済の堅調な回復に向けての期待」を挙げています。ブルームバーグ・エコノミクスのランキングは、賃料に対する価格、所得に対する価格など5つの指標に基づいて作成されており、価格上昇の持続可能性や現在の価格情報をはかる住宅価格の上昇率を見極めるのに役立ちます。リスクが上昇しても、低金利、高い貸付基準、金融システムの安定性を確保するために実施されている政策などがあるため、バブル崩壊のきっかけはそれほど明確ではなく、将来のシナリオとしては、崩壊というよりは冷え込む方向に行くとみられています。
・フィリピン不動産業界は、価格も賃料も2四半期連続で市場の価格調整があったのちにすぐ回復し、2008年世界通貨危機からは守られていました。バブルのシナリオは、銀行システムを中心としたいくつかの構造改革により防止されたのです。今年初め、信用供与を行う機関の不良債権(Non-performing Assets)レベルに対応すべく、共和国法No.11523号、通称FIST法と呼ばれる金融機関戦略的移転法(Financial Institutions Strategic Transfer Law)が可決されています。
■オフィス
・ハイブリッド型の働き方は、パンデミック前からも存在しましたが、このコロナによって加速した形となりました。フレキシブル・ワークプレースのWeWorkの全世界調査によると、世界のビジネスリーダーの76%が、社員が協力しあうためには従来のようなオフィスが肝心であると考えているようです。さらに、同じ調査では、74%が徹底的かつ定期的な清掃と消毒など、職場での衛生措置を強化することを望んでおり、61%が実際のオフィスに戻った際には、ソーシャルディスタンスの確保を実施したいと回答しています。オフィススペースが企業にとって重要な位置づけであることには変わりありませんが、未来の職場戦略はフレキシブルである必要があります。
WeWorkの調査はさらに、ミレニアル世代の90%が、給料の高さよりも仕事の自由度に重きを置いていることも明らかになっています。
・ハイブリッド型の働き方は、パンデミックの間の単なるトレンドから、オフィスの未来の形へと進化しています。というのも、仕事のエクスペリエンスを再設計して、対面での協力と柔軟性とバランスさせるからです。これは、従業員の満足度向上、企業の不動産関連コストの両方に効いてきます。
■レジデンシャル
・フィリピン中央銀行(Bangkok Sentral ng Pilipinas)の国内レジデンシャル不動産価格のバロメーターである、レジデンシャル不動産価格インデックス(RREPI)は、2021年第1四半期4.2%下落しました。レジデンシャルユニットの全体的な需要は、パンデミックが始まって以来、低迷した状態が続いているからです。同様に、2021年第1四半期の不動産ローンも減少しました。住宅ローン件数は特に、対前年同期では14.7%、対前期では32%減少しました。メトロマニラの外のレジデンシャル物件は、対前年同期で0.8%とゆるやかに増加しましたが、対照的にメトロマニラ内では10%下落しました。2021年第1四半期のRREPIの下落は、2020年第3四半期の-12.2%、2020年第4四半期の-4.8%に続き、3四半期連続のマイナスとなりました。
・レジデンシャル不動産の需要の弱さは、集団ワクチン接種の進度がゆっくりであることで、国がさらなるCovid-19感染者数の増加のリスクにさらされていることから、景気回復の不安定性を反映しています。海外で働くフィリピン人労働者(OFW)の送金額が穏やかな回復を見せているにもかかわらず、需要が低迷した状態が続いていますが、これはビジネス環境、経済環境が安定するまで、短期~中期的に需要が繰延されるからだと、クッシュマン&ウェイクフィールドは説明しています。
■ホスピタリティ
・2020年初から、観光活動は下火となり、2020年の観光の直接粗付加価値(Direct Gross Value Added)は、2019年の2兆5,100億ペソ(約5.5兆円)から61%減の9,733.1億ペソ(約2.1兆円)に落ち込みました。同様に、GDPに占める観光業の割合も、2019年の12.8%から2020年はたった5.2%となりました。旅行各社は、まだまだ続くパンデミックの影響に耐えつつ、観光省(Department of Tourism)に対して、バヤニハン2法に基づく、観光業界の中小零細企業向けのローンの猶予期間の延長を求めています。60億ペソ(約130億円)の与信枠を管理する政府の金融機関、小企業機構(Small Business Corporation)は、すでに猶予期間を2年に延長していますが、各社はまだ事業を安定化できていないものの、今後旅行・観光への意欲が回復することを予期しているため、借り手にさらなる余裕を与えるべく期限を調整するように要請しています。
・旅行・環境業界に財政刺激策を行うことで、地元のステイケーション客や国内観光客の繰延需要を呼び込むためのパッケージや目玉商品の改良といった、回復を助け、業界の強靭性を強化するような戦略を練ることができるようになるだろうと、クッシュマン&ウェイクフィールドは指摘しています。
■工業/物流
・フィリピンは、国内・域内の事業者を呼び込み、データセンター(DC)市場として新興してきています。Eコマースとデジタル化の必要性にますます注目が集まることで、多くの事業者が国内にデータセンターの建設計画を発表しています。代表的なものは、アリババ・クラウド(Alibaba Cloud)のフィリピン初のデータセンターや、コンヴァージICTソリューションズ(Converge ICT Solutions)のセブにおけるデータセンター追加などです。フィリピンのEコマースは、ほかの東南アジアの国々と比較するとまだ遅れていますが、データセンター各社は、よりデータ駆動の経済に向けた、大きな成長の可能性を期待しています。
・フィリピンのEコマースの成長は、いまだ初期段階にあり、その勢いのピークには達していません。同様に、企業もまだ、データ駆動型のオペレーションを組み込めていませんが、高いインターネット浸透率と5Gネットワークなどより高度な技術の導入により、インターネット経済がさらに加速されることで、その勢いは強まるでしょう。これらは、データ使用量やインターネット需要の増加と相まって、ビックデータのための高度に安全なストレージの必要性をますます高めています。
■リテール
・現在の小売業自由化法(Retail Trade Liberalization Act(RTLA))に基づく、外国小売業者からの150億ペソ(約327億円)相当の係属中の申請がありますが、これらは、上院法案No.1840に規定のRTLA改正が通れば、「何倍にも膨れ上がる」可能性があります。この法案では、現在の資本金要件1億2500万ペソ(約2億7,300万円)から5,000万ペソ(約1億900万円)へと引き下げる、1件目の店舗の資本金要件を4,150万ペソ(約9,050万円)から2,500万ペソ(約5,450万円)に引き下げることが提案されています。この改正では、フィリピン資本だけでなく、新しい資本金要件のもとで、外国小売業者も40%まで投資できるよう提案されています。改正案の代議院版では、外国小売業者の払込資本金をさらに引き下げて957万ペソ(約2,090万円)としており、両院の会合で不一致部分のすり合わせが早急に行われることが期待されています。
・フィリピンのリテール市場が外国小売業者にとって魅力的だということは、Eコマースが浸透する中でも、国内のリテールシーンが安定していることを反映しています。強い消費主義の上に成り立つフィリピンでは、店舗での小売りが、オンラインによる小売りとともに、パンデミック後に再び盛んになるとみられています。一方で、小売業に参入する外資のさらなる規制緩和は、より多くの国際ブランドをフィリピンに呼び込むことになりそうだとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。
(出所:Cushman & Wakefield)
(画像:Photo by Alexes Gerard on Unsplash )
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