[フィリピン]不動産市場動向(2021年9月)

2021/10/31


不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2021年9月のレポートを発表していますのでご紹介していきます。


パンデミックの影響がいたるところで出ているようです。長引くパンデミックにより、Eコマースがますます活気づくことで、工業・物流不動産はさらなる成長を遂げています。また、変わりゆく時代のニーズに合わせて、労働者のスキルに求められるものも変わってきているようです。



■不動産市場全般

・フィリピンのEコマースが勢いを増す一方で、東南アジア地域の業界浸透率が平均6%、インドネシアで8%、シンガポールで14%と比較すると、フィリピンのEコマース業界は5%と、まだ浸透率が低い状態にあります。2020年、フィリピンのEコマース業界は、流通取引総額(GMV)は40億USドル(約4,565億円)と推定されています。パンデミックにより、従来のリテール店舗が一時的な閉鎖を余儀なくされたことで、力強い成長を見せました。2025年までに、GMVは150億USドル(約1.7兆円)にまで膨れ上がると見られています。一方で、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムを含む域内のデジタル経済は、GDPにして2兆USドル(約228兆円)ほどになると見られており、金融テクノロジー(フィンテック)およびゲーミングの分野を中心とした大きな可能性が与えられています。域内のデジタル支払の総取引額は、2020年には6,200億USドル(約71兆円)だったのが、2025年には1.2兆USドル(約137兆円)にまで成長する可能性があると見られています。また、ゲーミング市場も、2020年には時価総額50億USドル(約5,706億円)と言われていましたが、2025年には130億USドル(約1.5兆円)に達するとみられています。

・パンデミックとデジタル革新がEコマースを新しい高みへと押し上げています。工業・物流不動産部門のビジネス機会がますます高まる一方で、リテールは、変化する消費者の好みに追いつくべく新しい戦略を採用せざるを得ない状態にあり、不動産業界の勝者/敗者のシナリオが変わりつつあると、クッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。




■オフィス

・パンデミックが長引いていることで、フィリピンの情報テクノロジーおよびビジネス・プロセス協会(Information Technology and Business Process Association of the Philippines (IBPAP))は、収益および雇用目標を引き下げました。2016年、雇用の年間成長率目標は8%設定されていましたが、現在は2022年にかけて2.7~5%程度の成長率になると予測されています。一方で、BPO業界の収益予測は、年間成長率3.2%~5.5%程度の予測となっています。業界関係者もまた、ますます求められるデジタル要件が、スキルのギャップを広げる結果となっていることを認識しており、業界の変わりゆくニーズに対応するためには、BPO労働者のスキルアップまたは再教育の必要性が出てきています。このようなスキルのギャップは、旅行やホスピタリティといった減速したブランドのBPO従業員が、ゲーミングやEコマースといったニーズの高まりを見せている業界への異動するなど、パンデミックの影響から来ています。BPO業界の今後の採用基準も、専門技能やテクノロジー関連のスキルを持った人が優先されることになりそうです。

・短期的には、世界、国内ともにビジネス環境に不確実性が残る中、主要市場において消費者活動が減速することで、フィリピンのIT-BPM業界は影響を受けやすくなります。業界で働く人々に追加のスキルや新しい能力を身に着けさせることは、パンデミックの余波を乗り切るのに重要になってくる、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■レジデンシャル

フィリピン中央銀行(BSP)のレジデンシャル不動産価格インデックス(RREPI)は、2021年第2四半期に前期比9.4%低下し、2期連続の下落となりました。2021年第1四半期は4.2%の下落でした。今期の低下の要因は、2020年第2四半期のインデックス急上昇と、Covid-19危機の長引く影響とのミックスでした。直近のRREPIの公表によると、メトロマニラのレジデンシャル価格は4期連続のマイナスとなり、前年同期比で18%減となりました。価格の下落がみられたのは、一戸建て、コンドミニアム、そしてタウンハウスです。デュプレックスタイプの住宅への新しい銀行融資の報告はありませんでした。メトロマニラ以外のレジデンシャル物件もまた、マイナスとなりました。しかし、その変動はわずかで、前年同期の0.8%から0.6%でした。一戸建てが前年同期比で6.0%減少したことで、価格に下向きの圧力がかかりました。

一方で、RREPIの全体的な下落は、コンドミニアムユニットと一戸建てまたは二戸建ての価格が控えめだったことによるものです。全体のレジデンシャルコンドミニアム価格は特に、メトロマニラの不動産需要の減速を背景に、4四半期連続で落ち込んでいます。

・レジデンシャル市場の価格下落の動きは、需要の原動力が国内外の経済情勢の短期的な脆弱性により大きく影響を受けているためであり、もとより広く予測がされていたものです。中所得層のレジデンシャルコンドミニアム市場の立ち直りは、フィリピン経済の回復と同時に起こると見られています。しかし、ワクチンの供給が限定的で、物流上も課題をかかえていることで、なかなかワクチン接種の目標を達成できてないことから、思ったよりもリバウンドは遅れるのではないかとクッシュマン&ウェイクフィールドは見ています。


■ホスピタリティ


・旅行業界は、パンデミックからの業界の立ち直りをかけて、2019年の国内旅行が生んだ観光収益3.14兆ペソ(約7兆円)の半分を目標金額として掲げました。プロモーション戦略の一部として、陸路による旅行に焦点があてられることになりそうです。というのも、国内の空の旅には、制約や書類上の要件が多いからです。観光業界は、外国観光客を呼び込むために、タイの「プーケットモデル、またはつまりサンドボックスモデル」にように、完全にワクチン接種を終えた外国人は隔離期間なく入国できるようにしようとしています。

・パンデミックが始まってから1年以上が経ちますが、ホスピタリティ部門は、いまだ回復へのスタートを切れずにいます。業界関係者は、ワクチン接種を終えた人々が国内観光を支えるとみており、観光業界が適応し、生き延びていけるような販売戦略を練ることで、ワクチン接種を終えた人々にオポチュニティを見出そうとしています。

ニューノーマルで効果的な運営ができるように、新しいテクノロジーを取り入れたり、労働者のスキルアップをしたりと、今後大きな支出が発生することが見込まれます。一方で、施設の中には、別の目的での利用に転換せざるを得なくなっているものもあるようです。



■工業/物流


・ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関、OECD(経済協力開発機構)によると、物流分野への参入の障害を排除する動きが見られており、全体的な競争が高まることで、フィリピンを含む東南アジア全体の景気回復の加速が期待されています。OECDは、成長を促すため、外国直接投資(FDI)誘致の重要性も強調しています。また、域内の貨物運送・物流部門は、雇用の5%を生んでおり、2021年末にはコロナ前のレベルに戻ると見られています。さらに、公共ユーティリティの外国人所有比率が現在40%に限定されているフィリピンについて、物流部門の自由化を進めることを提言しています。

国際貨物運送業者の最低資本金要件200万ペソ、外国投資家には1,000万ペソといったその他の障害もまた、FDIを制限する方向に働いており、「市場への参入を限定し、消費者物価を高め経済全体に波及効果を及ぼし、経済成長、雇用、ノウハウの移転、革新を減速させる」可能性がある、としています。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、物流部門が現在体験している前代未聞の成長はが外国投資を誘致する大きな影響力となると述べています。FDI誘致のための激化する競争とともに、物流セグメントに対象を絞った政治的主導権が、フィリピンを優位な位置につけるのに役立つだろうとも述べています。



■リテール


小売業自由化法(Retail Trade Liberalization Act)の改正が、議会の正式な承認待ちの状態となっています。両院協議会は、外国小売業者の最低投資額を2,500万ペソ(約5,650万円)、1店当たりの最低要件を1,000万ペソ(約2,260万円)で合意しました。新しい資本金要件は、上院が定めた5,000万ペソ(約1.13億円)と、代議員が定めた1,000万ペソ(約2,260万円)との折衷案です。しかし、フィリピン小売業者協会(PRA)は、外国との競争に弱い中小零細企業への影響を鑑みて、この動きを歓迎していません。外国企業は、「効率的な低コストのサプライチェーンと政府の支援」という優位性があるからです。現在の小売業自由化法(RA8762)では、国内の小売企業を外国投資家が保有するための最低資本金は、250万USドル(約2.9億円)となっており、他のASEAN諸国が設定している最低資本金より、かなり高いレベルとなっています。

・最近の小売業自由化法の改正で外国人小売業者の参入が緩和されたことで、世界的な小売業者にとってはプラスの刺激策となり、リテール業の雇用の新設などを中心に、業界の回復を支えていきそうです。グローバルなリテール業者のベストプラクティスは、パンデミック後の市場の早急な回復にも有効だろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。


(出所:Cushman and Wakefield

(画像:Photo by J Torres on Unsplash  )