[フィリピン] 不動産市場動向(2022年8月)

2022/10/10


不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2022年8月のレポートを発表していますので、ご紹介していきます。新型コロナウイルス関連の制限が徐々に解除され、国内線・国際線の旅客数の増加、リテールの客足など、さまざまなところでコロナ前の状況に戻る動きが見られます。




■不動産全般


・不動産関係者は、国家土地用途法(National Land Use Act)の法案可決を促しています。将来のインフラプロジェクトが確立されたビジネスハブだけでなく、周辺のコミュニティにも恩恵を与えるためです。法案は、保護地、生産用地、集落開発用地、インフラ開発用地の4つの用途カテゴリーの詳細を明確に示して、国家レベル、地方レベルでの土地およびその他物的資源の利用および管理の枠組みを定めるものです。さらに、法案が可決されれば、「国家マッピングおよび空間データインフラプログラム」を立ち上げていくことも計画されています。これは、国家土地用途法の政策審議会のガイドラインに沿って、すべての企画段階においてベースとなる意思決定マップおよび関連する空間データベースを作っていこうとするものです。

・フィリピンは、経済の拡大が主要なビジネスハブに集中していることから、高度に都市化されたエリアでは混雑が課題です。効率的な土地の用途計画を作ることは、国の持続的な成長にとって欠かせない、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。というのも、土地資源を適切に利用することで、将来のインフラプロジェクトの経済的利点を最大化することができ、公共交通指向型のコミュニティを作り、不動産デベロッパーに地方での開発を促進させることができるからです。



■オフィス

・IT-ビジネス・プロセス・マネジメント(IT-BPM)業界は、ワークフロムホーム(在宅勤務)の働き方を実施することで、2021年、好調な業績を納めました。リモート勤務の中でも従業員が生産性を損なうことなく業務ができていたことがわかります。2021年、同業界で働く人は144万人、前年の9.1%増となりました。業界の収益も10.6%増の294.9億ペソ(約726億円)となりました。ITビジネス・プロセス・マネジメント協会(IBPAP)によると、業界で働く人のうち約30%は郊外に転居しているということで、こういった地域に新しいビジネスハブを作るにはいいタイミングです。新しいBPOハブを郊外や地方に作ることで、主要ビジネスエリアの混雑緩和に繋がるだけでなく、国内でのBPO業界の成長にも繋がりそうです。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、地方でのビジネスの機会を促進することは、国の包括的な成長にとって重要なポイントだとする一方で、ビジネスハブを地方に作るためには、インフラやサービスが不適当で投資の優先順位付けが必要となったり、国内外の関係者を呼び込むべく投資インセンティブスキームを作ったりと、課題もありそうだと指摘しています。



■レジデンシャル


・フィリピン開発学研究所(Philippines Institute for Development Studies(PIDS))は、最近行った調査から、住宅の取得能力を計るための所得の30%という基準は、低所得世帯にとっては達成不可能かもしれないと述べています。この所得層に含まれる人々は、20%の頭金補助を受けることができるものの、月々の支払いを維持できないというのです。調査ではさらに、都市化が進んだエリアに住む人や大家族と住む人も含め、多くの世帯では、職場や繁華街から遠く離れた公営住宅にしか住む余裕がないということも分かってきました。30%の所得基準は、BP(Batas Pambansa)法220のセクション2にあるように、公営住宅・公団住宅開発は、国家経済開発庁(NEDA)が取得可能なレベルだとみなす、世帯総所得の30%以内でなくてはならないと定めています。しかし、PIDSは、この基準はフィリピンにおいては完全に確立されたものではなく、30%基準を用いると住宅の負担を感じるのは、都市エリアに住む世帯の8%ほどだとされるものの、残余利益モデルを使った推定では、21%の世帯が負担を感じることを問題視しています。このことから、PIDSはさらに、もし政府が公営住宅の価格上限を30%基準を使った住宅負担をベースに見直せば、公営住宅の恩恵を受けるべき世帯の多くが取り残されることになりそうだと指摘しています。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、国内のアフォーダブル住宅のジレンマは、不十分な枠組みに加えて、このセグメントの採算性が悪いために、民間企業があまり進出していないことを挙げています。アフォーダブル住宅問題に対処するためには、政策を慎重に検討して、「低所得層」に属する人々がアフォーダブル住宅の恩恵をより受けられるようにするだけでなく、民間セクターを巻き込んで行く必要がありそうだと述べています。



■ホスピタリティ


・フィリピン民間航空公社(CAB)は、国内線・国際線あわせて、旅客数が、2021年前半期の295万人から2022年前半期は1,320万人と400%以上増えたと発表しています。パンデミック前の3,050万人(2019年前半期)レベルには満たないものの、着実な回復傾向が見られます。国内線が旅客者数をけん引しており、2021年前半期が200万人だったところ、2022年前半期は969万人と385%増加しました。国内の渡航制限が解除されるにつれて、第2四半期の国内線利用客数は第1四半期と比較して97%、国際線利用客数は264%増加しました。国際航空運送協会(IATA)は、2022年6月のアジア太平洋地域の航空路線が前年同月比で492%増加したと明かしており、域内各国が海外からの渡航者の受け入れを徐々に始めていることが窺えます。

・旅客数の急増が、国内観光客を中心とした、ホスピタリティ業界の回復を示唆しています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、旅行・観光業界が厳しい経済環境に直面しており、完全回復はすんなりとはいかないだろうが、海外からの旅行客が増えてくるのを待つ間に、デジタル技術の採用の必要性に対応していくことができるだろうと提案しています。



■工業/物流


・通信事業者のPLDTグループは、データセンター施設を拡大し、データセンターの施設内でサーバーやルーター・スイッチなどのIT機器を収容するための専用の棚を示すラックを、2022年第4四半期までに1,500ラック、2023年末までにさらに1,500ラック増やす計画です。同社は、ラグーナ州のサンタロサに11番目となるヴィトロ・データセンターを今年初めに完成させています。PLDTグループのデータセンター全体のラック稼働率は現在74%で、国内企業やハイパースケーラーの需要に対応し、事業のアジリティを高めるため運用をデジタル化しようとする企業のニーズの高まりを受けて、データセンター業務を拡大していきたい考えです。グループのデータセンター施設の拡大は、フィリピン政府の進める、ハイパースケーラーの国内拠点設立促進を前進させるものとみられています。

・データセンター不動産は、不動産の他のセクターがデジタル化を取り入れるにあたって、パンデミック後の成長を維持するものと見られています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、フィリピン国内でのデータセンターブームは、従来オフィスがハイブリッド型の働き方を採用したり、Eコマースプラットフォームがシームレスな事業運営を求めたり、企業が現代化を受け入れたりする中で、中期的に継続するだろうと予想しています。



■リテール


・パンデミックの真っ最中、ショッピングモール事業者は、テナントのビジネスを支援するために、賃料の支払い繰り延べや、賃料の減額を行ってきました。行動制限も解除され、徐々にビジネスも元通りになるにつれて、ショッピングモール事業者は、繰り延べ、または減額していた賃料を元に戻す動きに出ています。これが、パンデミックの影響から脱し切れていない従来型の小売業者にとっては追加のプレッシャーとなっているようです。さらに、実店舗は、オンラインショッピングの浸透により、競争が厳しくなってきています。フィリピン国内の卸売・小売業界は、120万人分にものぼる失業があったと報告しています。うち、19.2万人分はスーパーおよびデパート、18.9万人分はホームセンター、14.4万人分はオンラインまたは直接販売です。


・物およびサービスの価格に圧力がかかっているものの、リテール分野はホリデーシーズンに向けて、今後数カ月は伸びることが予想されています。しかし、急騰するインフレは、いずれ小規模事業者や多くの消費者に影響を与えるので、リテールセグメントの長期的な成長を妨げる脅威となりうる、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。




(出所:Cushman &Wakefied)

(画像:UnsplashのAnirudh Gaurが撮影した写真)