2022/08/30
不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2022年7月のレポートを発表していますので、ご紹介していきます。
クッシュマン&ウェイクフィールドは、安定的にインターネットにつながることが、不動産業界における基本要件のひとつになってきているとして、デベロッパーが不動産物件の開発を企画する段階から、水道や電気といった他のユーティリティと同様の位置づけで検討がされるよう、通信会社との協力が欠かせないと述べています。また、近隣諸国同様、建設資材の高騰による住宅価格の上昇に対する懸念も述べられています。
■不動産全般
・パンデミックの期間、インターネットの安定的な接続は、仕事の面でも生活の面でも必要なものとなりました。これにより、インターネット接続の安定性は、基本的なユーティリティのひとつと考えられるようになってきており、不動産業界および通信業界は、時代の潮流や外部環境の変化に基因して、デジタル化の流れに適応することを意味する「デジタル・レディネス」を促進するためのアクションを迫られています。Ooklaが発表しているグローバルインデックスは、2022年4月時点におけるフィリピン国内のインターネット速度に改善があったことを示している一方で、こういった改善を今後も続けていくためには、電気や水道といったいった他のユーティリティ同様に、通信インフラをレジデンシャル開発の企画段階から織り込めるよう、両業界が協力していかねばなりません。安定的なインターネット接続は、フィリピンの回復および消費者の経済的エンパワーメントにおいて重要な要素であると見られています。
・クッシュマン&ウェイクフィールドは、インターネットインフラは、様々な不動産ステークホルダーにとって、必要不可欠なサービスになってきている、と述べています。パンデミックによりリモートワークのためのインターネットが必要になった一方で、家主やデベロッパーは、デジタル不動産マーケティングを通じたオポチュニティを作り出してきました。クッシュマン&ウェイクフィールドは、不動産デベロッパーがインターネット接続の良い不動産開発を行うことで、プロジェクトに付加価値を付けることができそうだ、とも述べています。
■オフィス
・アメリカを拠点とするリモート・アクセス・セキュリティ・ソリューションを提供するノードレイヤー(NordLayer)社が行った調査で、フィリピンはリモート勤務をするにあたって最も魅力のない国のひとつであることがわかりました。世界におけるリモートワークのしやすさを指標化したグローバル・リモート・ワーク・インデックスにおいて、1を最高スコアとしたときに、フィリピンのスコアは0.555でした。このインデックスは、サイバーセキュリティ、デジタルインフラ、経済的・社会的条件、コロナ対策の4つの点で評価されたものです。調査対象となった66か国中、フィリピンは57位で、58位となったインドネシアとともに、ASEAN諸国の中では後れを取りました。シンガポールは9位、マレーシアは33位となっています。要素別で見ると、フィリピンはサイバーセキュリティでは45位でしたが、デジタルインフラでは66か国中64位でした。また、コロナ対策では54位、経済的・社会的条件では56位でした。
・クッシュマン&ウェイクフィールドは、情報技術・ビジネス・プロセス・マネジメント(IT-BPM)など、パンデミックのさなかでもリモートワークを実施して成長を遂げた業界があるのは明らかだと指摘しています。フィリピンでは、信頼できるインターネット接続は、在宅勤務またはハイブリッド型の働き方をスムーズに行う上で重要な要素であり、リモートワーカーの仕事の質や生産性に大きく関わります。オフィス勤務とリモートワークを組み合わせたハイブリッド型の働き方が未来の働き方のありかただと見られている中で、信頼性の高いインターネットネットワークを構築することは、投資を誘致する上で、国内の競争力ある労働力を補完することになるだろうと、クッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。
■レジデンシャル
・建設価格が高騰する中で、経済的な住宅の開発を促進するために、フィリピン居住都市開発省(DHSUD)および国家経済開発局(NEDA)は、経済的な住宅ユニットの価格上限を、170万ペソ(約419万円)から250万ペソ(約617万円)に引き上げることを承認しました。住宅セグメントの販売価格を引き上げることで、不動産デベロッパーにとってこのエリアへの投資を魅力ないものにする、急上昇する仕入れ価格の影響が軽減されると見られています。さらに、分譲地・住宅開発業者協会(SHDA)は、大量購入のための特別対応や商品の一括販売ができるようにして、価格上昇の影響を緩和し、建設資材を確保できるよう、建設資材のサプライヤーや生産者との話し合いを求めています。
・クッシュマン&ウェイクフィールドは、建設コスト増の圧力が、新築住宅供給の販売価格を押し上げ、短期的にレジデンシャルセグメント全体における価格上昇が加速しそうだとの見方を示しています。サプライチェーンの混乱が続く中、デベロッパーが建設活動を再開することで、完成に遅れが出るプロジェクトも出てくるのではないかと指摘しています。
■ホスピタリティ
・観光・レジャー市場の回復を見越して、グローバル・エステート・リゾーツ(Global Estate Resorts, Inc.)社は、ボラカイ島に1,200人を収容できるコンベンションセンターを今年オープンしようとしています。また、新築ホテルも2023年にオープン予定です。これらの物件は、グローバル・エステート・リゾーツの「ボラカイ・ニューコースト」プロジェクトのポートフォリオに加わることになります。グローバル・エステート・リゾーツは、新プロジェクトを通じてボラカイ島におけるホテル事業を拡充することで、会議、コンベンション、展示会、結婚式、その他イベント(MICE)のサービスを強化していく計画です。ボラカイ島は、フィリピン有数の観光地で、レジャー施設の需要は持続的です。同社はさらに、土地取得と、以前に販売を開始したプロジェクトの建設のために20億ペソ(約49億円)を割り当てており、2023年にはさらに2つのタウンシッププロジェクトの販売を開始する計画です。
・事業活動が持続的に行われることで、出張も増えてきています。これに加えて、観光目的の国内旅行も増えていることから、ホスピタリティ業界の急速な回復を促しています。しかし、クッシュマン&ウェイクフィールドによると、渡航に関する信頼感が高まっているものの、燃料価格の変動により、航空運賃が大きく跳ね上がる可能性があり、格安旅行市場を中心とした国内旅行者の勢いをくじかせる結果になりかねないと予想しています。一方で、コロナ感染者数を効果的に抑えることが、ホスピタリティ部門の回復にとっては依然として重要な要素であるとも述べています。
■工業/物流
・フィリピンにおける半導体・電子部品業界財団(Semioconductor and Electronics Industries in the Philippines Foundation, Inc. (SEIPI))は、地域的な包括的経済連携(RCEP)の批准を呼びかけています。オーストラリア、中国、日本、韓国、ニュージーランド、といった国々とASEAN諸国が加盟する世界最大の経済連携に対して、フィリピンは不利な状況にあるとしています。フィリピンの電子部品産業の強みは、その労働人口にあるものの、貿易協定に加わることで、輸出面での競争力が増すことになります。RCEPは、上院からの同意を待っているため、フィリピンでは批准されていません。SEIPIは、批准を待つ間の資本逃避32億ドル(約4,442億円)がこれ以上悪くならないようにと願っているようです。
・Eコマース業界が、物流施設や倉庫需要を中心に工業セグメントを前に推し進める一方で、製造および貿易業界も倉庫や工業用地の需要を支えています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、RCEPに参加して国の貿易および投資を強化していくことが、工業部門の今後のさらなる成長を助けるだろうと述べています。
■リテール
・国内小売セグメントは、2021年第2四半期以降回復しています。小売取引額は、2021年第1四半期の5億5,900万ペソ(約14億円)から、2022年第1四半期には6億500万ペソ(約15億円)に増加しました。フィリピン小売業者協会(Philippine Retailers Association(PRA))は、対外的な向かい風はあるものの、フィリピンの小売セグメントの回復に楽観的な見方を示しています。世界的な物流の問題で、出荷のリードタイムが伸びていますが、客足には着実に改善が見られており、経済活動が徐々に正常化するにつれて、発注数も増えていると述べています。
・消費者支出が再び伸びてきていることで、小売セグメントは、コロナ前の業績に戻りつつあります。しかし、クッシュマン&ウェイクフィールドは、上向きのインフレが購買力や消費者の信頼感に影響を与えるため、短期的にはその回復の勢いを弱めそうだと述べています。
(出所:Cushman & Wakefield Philippines)
(画像:Photo by REY MELVIN CARAAN on Unsplash)
もっと詳しく知りたい方はこちら