[フィリピン] 不動産市場動向2023年4月

2023/05/29



総合不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2023年4月のレポートを発表していますので、内容を見ていきましょう。



■不動産一般

・2023年3月の建設資材の小売価格インデックス(CMRPI)は前年同期比4.1%と、過去1年超で最も緩やかな上昇を記録しました。この指標は、メトロマニラの建設資材の小売価格の推移を見るもので、2月は5.4%、1年前の2022年3月は4.8%でした。3月の数値は、7カ月連続で減速しており、2022年2月に記録した3.3%以来の最低値でした。フィリピン統計局(Philippines Statisitics Authority)によると、その他建設資材の価格上昇の鈍化(前月9.3%→3月6.2%)、配管資材(前月4%→3月2.2%)、ブリキ加工資材(前月5.9%→4.7%)が今回の減速に繋がったということです。さらに、連続で価格上昇が減速したことについては、世界的な物価上昇の減速の結果と直近数カ月で対USドルでフィリピンペソがペソ高に動いたことで輸入価格が抑えられたことを挙げています。さらに、高いインフレと金利により抑制されている投資と全体的な需要も建設活動を和らげる方向に働きました。

・長引く景気低迷と建設活動の中断から回復しつつある中、建設資材価格の高騰によって、パンデミックの財務的な影響から回復しきっていないデベロッパーもあり、不動産プロジェクトの中には遅れが出るものもありました。今回のように急激な建設資材コストの上昇にストップがかかることで、中小規模の地場のデベロッパーを中心に、延期していたプロジェクトをスタートさせるいい機会になるのではないかとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■オフィス

フィリピンコンタクトセンター協会(Contact Center Association of the Philippines、CCAP)は、各業界が今後の事業運営の在り方を設定しようとする中、最終的には6割がオフィス勤務、4割が在宅勤務で落ち着いてくると見ています。CAAPによると、技術サポートや旅行会社といった特定の業界は100%在宅勤務の働き方を実施しているということです。世界経済の向かい風の中、CAAPは、アウトソーシングサービスに対する投資家の需要が高まるにつれ、ITおよびビジネス・プロセス・アウトソーシング業界は安定的な成長を続けるだろうと述べています。

・ここ数年のトレンドとなったフレキシブルな働き方への従業員側のニーズは高い一方で、技術的な問題や、オフィスに出勤して社会的な交流を求める声などから、リモートワークに尻込みする企業や従業員もいます。クッシュマン&ウェイクフィールドは、従業員の声と生産性とのバランスを取りながら、オフィススペースの合理化を引き続き検討していくだろうと述べています。




■レジデンシャル

・フィリピンのレジデンシャル不動産ローン(RREL)は、2022年第4四半期に前年同期比10.3%縮小しました。メトロマニラでは大幅にローン利用の縮小があり22%減少、メトロマニラ以外のエリアでは3.4%の縮小でした。メトロマニラで実施されるRRELは主にコンドミニアムユニットの購入用で、メトロマニラ以外のエリアでは一戸建て/アッタチトハウスの購入が目立ちました。一方で、前四半期比でも全体のRRELは4.5%縮小しました。メトロマニラのローン利用縮小23.5%をメトロマニラ以外のエリアの拡大8.5%を打ち消す形となりました。2022年第4四半期に付与された住宅ローンのうち、新築住宅の購入に充てられたのが81.1%、不動産タイプ別には、一戸建て/アタッチトハウスが47.2%、コンドミニアムユニットが33%、タウンハウスが18.9%でした。
・インフレの影響と米国連邦準備制度理事会の利上げの影響を受けて、金利の先行きは不透明で、中期的に消費者ローンの需要にマイナスの影響を与えそうです。一方で、経済状況は徐々に回復しており、レジデンシャル需要も改善が見られそうではあるものの、クッシュマン&ウェイクフィールドは、ローン利用の伸び率は現在の金融市場の不確定さを背景に単調な動きとなりそうだと述べています。



■ホスピタリティ

SMホテルズ&コンベンションズ社(SMHCC)およびラディソンホテルグループ(RHG)は、2028年までにフィリピン国内のRHGのホテルポートフォリオを20まで増やすマスター開発契約を締結しました。さらに、このパートナーシップでは、今後5年間で14のホテルが開発されることになっており、SMHCCはRHGのフィリピンにおけるパーク・イン・ラディソン(Park Inn Radisson)ブランドを拡大する専有開発権を得ています。総投資額は最大150億ペソということです。ホテル業界が回復フェーズに入る中、今回のパートナーシップはタイムリーだとSMHCCは述べています。RHGの現在のホテル稼働率はコロナ前のレベルを超えています。SMHCCはさらに、国内線・国際線ともに便数が増え、各地の観光地で観光客の増加に楽観的な見方をしています。この新しいパートナーシップのもと、セブ市に最初となるホテルを建設することが計画されています。客室数は516室、2027年のオープンを目指します。他には、イサベラ、オロンガポ、ラオアグ、フェアビュー、ダスマリナス、サンタロサといったエリアが建設候補地に上がっているようです。

・観光客数はまだまだコロナ前のレベルには程遠いものの、大手ホテル事業者は投資に好機となるような健全なホテル市場のファンダメンタルズを確認しています。ホテル稼働率がパンデミック前のレベルに戻るにつれて、外国人観光客も増え、国内旅行も活性化することで、クッシュマン&ウェイクフィールドは、ホテル業界は、スキルを持った人材の不足という課題に慎重に対応していくべきだと述べています。



■工業/物流

アヤラランド・ロジスティクス・ホールディングス社(AyalaLand Logistings Holdings Corp.)が新たにパドレ・ガルシアに建設するバタンガス・テクノパークは、2025年第2四半期の完成を目標にしています。投資庁(BoI)に登録されるこのテクノパークの広さは55ヘクタール、軽・中の無公害産業をターゲットにしています。バタンガス・テクノパークは、チャペル、レストラン、輸送ターミナル、ガソリンスタンドおよびALogis乾燥倉庫およびALogis Artiコールドストレージ施設を補完する農作物の卸売市場を備えた複合用途プロジェクトです。さらに、テクノパークの面積のうち1.3ヘクタールは公園およびオープンスペースに充てられます。バタンガス港から車で1時間のところにあり、リパ - パドレ・ガルシアバイパス道ができれば、リパのタリサイ区とパドレ・ガルシアのバウィ区を抜けることで、さらにアクセスが良くなるとみられています。

・工業不動産は、活発な倉庫の賃貸活動に合わせて新規供給の増加し、今後も好調が予想されています。倉庫、物流、配送センターおよびフルフィルメントセンターを含む、Eコマースと関係の深い複数セクターからの強い関心もあり、工業用地への需要も引き続き高い状態が続くだろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■小売

・Eコマースの躍進に伴って、フィリピンはEコマースサポートアウトソーシングサービスのグローバルハブとなろうとしています。フィリピンの有能な人材、競争力あふれる人件費、技術的なイノベーションが、カスタマーサポート、注文管理、在庫管理、データ分析といったアウトソースサービスを求める世界中のオンライン小売業者の注目を集めています。Eコマース業界向けのビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)ソリューションでは、世界中の顧客にむけて素晴らしいサービスとシームレスなショッピング体験を提供することが求められています。さらに、オンライン小売業者は、ビジネス戦略を考えるうえでのンサイトを提供してくれる、顧客の購買行動やパターンを分析するデータ分析を活用することもできます。

・Eコマースおよびオンラインエコノミーの成長は依然として有望で、小売業界の見通しは、人の往来も徐々に改善しさらなる業界が活動を再開する中、小売販売も客足も徐々に改善し、より良いものになっています。しかし、世界的な景気の減速により、海外の小売業者はフィリピン国内の市場環境の再査定を行っていることで、拡大や新規業者の参入には引き続き遅れが出そうだ、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



(出所:Cushman &Wakefield

(画像:UnsplashのREY MELVIN CARAANが撮影した写真)