[フィリピン] 不動産市場動向2023年8月

2023/09/21


総合不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2023年8月のフィリピン不動産市場のレポートを発行していますので見ていきましょう。マニラベイの埋め立てプロジェクトの一時停止は、ベイエリアの今後の投資計画に影響を与えそうです。一方で、人手不足の問題はあるものの、ホスピタリティ部門と、Eコマースやコールドストレージ物流で勢いづく工業/物流部門は明るい兆しが見えて来ています。



■不動産市場全般


フィリピン政府が、長期的な環境への影響について徹底的に見直しをするため、マニラベイにおける埋め立てプロジェクトに待ったをかけたことで、投資家の関心に与える影響を懸念する声が上がっています。これらの埋め立てプロジェクトは一度承認されていたにもかかわらず、急に保留が決まったことで、政府の政策の一貫性に疑問の声が上がって、投資環境に不確定性を与えるのではないかというものです。さらに、こういった動きがあることで、将来投資が近隣のベトナムやタイに流れてしまう可能性もあります。ベイエリアで計画されていた埋め立てプロジェクトは、マニラ市およびパサイ市の面積を広げることで、これらの地域の地価の安定化に繋がるとみられています。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、不動産市場への投資の増加は、すべての投資家にとってのビジネス環境を整える政府の政策があるからだとする一方で、政府の政策に矛盾があると、大きな障害になったり、投資家のリスク管理体制をむしばむことにもなると指摘しています。



■オフィス


ダモサ・ランド社(Demosa Land, Inc.)は最近、カガヤン・デ・オロに新しいフレキシブルオフィスをオープンさせ、北ミンダナオ地域では初のフレキシブル・ワークスペースとなりました。リージャスCDOダウンタウン・タワー(Regus CDO Downtown Tower)は、ダモサ・ランドとインターナショナル・ワークスペース・グループ(IWG)との提携によるもので、オフィススペース約1,136平米に249席の収容能力をもっています。この新規スペースのオープンにより、ダモサ・ランドは、この地域に新しい企業や投資家を誘致したい考えです。

・職場文化は絶えず進化しており、成熟した都市部では、フレキシブルオフィスの勢いはますます増しています。パンデミック前には小さかったフレキシブルオフィススペースは、今や急成長のセグメントへと変貌し、柔軟かつ包括的な職場環境を醸成することが期待されています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、その一方で、専用のオフィススペースを構えずに、主要ビジネス街から地方へと事業運営の分散を図ろうとする企業にとってのオポチュニティを生み出していると指摘しています。



■レジデンシャル


海外で働くフィリピン人(Overseas Filipino(OF))の2023年6月の送金額は、前年同期の27億5,000万ドルから2.1%増の28億1,000万ドルとなりました。今回の送金額は、半年前にあたる2022年12月に記録された31億6,000万ドル以来最高値でした。一方で、過去13か月間で前年同期比の増加率が最も低かったのは、2022年5月の1.8%でした。2023年前半期全体では、157億9,000万ドルとなり、2022年前半期の153億5,000万ドルから2.9%増となりました。最近OF送金額が伸びている背景には、出稼ぎ先のホスト国における経済状況が改善し、雇用および賃金の増加に繋がったことに加え、6月のペソ高も貢献しています。ホスト国別の送金額で見ていくと、2023年6月、最も多かったのは米国(41.1%)でした。米国に加え、シンガポール、サウジアラビア、日本、英国、UAE、カナダ、韓国、カタール、台湾で、全体の約80%を占めています。一方で、米国での積極的な利上げにより景気の減速リスクがあることから、送金金額は今後やや落ち込むことが見込まれる一方で、中国のさらなる経済再開が送金額を下支えするとも見られています。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、住宅ローンの金利が上がっていることの影響は続いているものの、好調なOF送金額の実績は、中所得層向けのレジデンシャル不動産に活力を与えるだろうとコメントしています。一方で、住宅ローン金利の上昇は、中期的に、需要を冷え込ませ、不動産価格の上昇を鈍化させる可能性もあるとも述べています。



■ホスピタリティ


国内で新しいホテルのオープンが続々と予定されており、ホスピタリティ業界の人手不足が深刻化しそうです。これは、コロナ禍でホスピタリティ業界が営業を一時停止せざるを得なかった際に、ホスピタリティ業界の多くの人が新しい収入減を求めて転職したことが背景にあります。デベロッパーやホテル事業者が止めていたプロジェクトを徐々に再開しはじめていることから、ホテル販売マーケティング協会(HSMA)によると、今後15か月間で約30,000室のホテル客室がオープンを迎える予定です。一方で、IT-BPMをはじめとする別業界に転職してリモート勤務をしている労働力を再びホスピタリティ業界に引き戻すことには課題があり、多くのホテルが市場での競争力を保つために、給料の引き上げをおこなっているようです。


・クッシュマン&ウェイクフィールドは、投資家、デベロッパーともに、海外からの観光客およびMICE業界の回復を見込んでおり、ホスピタリティ業界は、インフレ高と人手不足はあるものの、今年に入って、新規供給・プロジェクト立ち上げという点で目覚ましい回復を見せているとコメントしています。



■工業/物流


フィルインベスト・ランド社(Filinvest Land, Inc.)は最近、ラグーナ州カランバにある同社の工業団地の拡張工事の鍬入れ式を行いました。50ヘクタールの面積を持つフィリンベスト・イノベーション・パーク - シウダッド・デ・カランバ(FIP-CDC)は、さらに25ヘクタール拡張される予定です。2022年に設立されたFIP-CDCはフィリピン経済特区庁(PEZA)認定の経済特区(エコゾーン)で、建設が完了してレンタル可能な工場(レディ・ビルト・ファクトリー)およびオーダーメイドで建設され、賃貸されるBTS型のユニット(2023年末までに完成予定)、工業用地(2024年央に完成予定)などを新規で提供することになっています。この新規施設はグレードAに認定される予定で、屋上にはソーラーパネルを設置、雨水回収システムなども導入されます。拡張エリアは、物流、Eコマース、軽工業などをターゲットにしており、カラバルソン(カヴィテ、ラグーナ、バタンガス、リサール、ケソン)地域の成長をさらに促進すると期待されています。


工業不動産は、Eコマースやコールドストレージ物流といった、主要な市場トレンドの高まる需要に適用しようとしています。経済状況を追い風に、さらなる業界の繁栄を遂げるためには、新しい開発物件には、グリーンな取り組み、サスティナブルな要素、さらなる自動化などのイノベーションを取り入れていくべきだとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■小売


議会が定めた最低賃金の引き上げを受けて、リテール業界のステークホルダーは、多くの企業で人員の削減が余儀なくされることで、業界内での失業の増加は避けられないとしています。フィリピン小売業者協会(PRA)によると、提案されている最低賃金の引き上げに関する法律が制定されれば、約50,000人分の雇用つまり業界全体の労働力の10%が削減されると見積もられています。PRAは、小売業者の多くは、最近課されたメトロマニラ内の40ペソの最低賃金引上げに対応するのにも悪戦苦闘しているので、代わりに労使交渉の中で賃上げを決定すべきだと述べています。法律による最低賃金の引き上げは、そのような状況にない企業にも賃上げを強いるだけだが、多くの企業には自社内に労働組合があるので、賃金と福利厚生について労働組合を通すのが理想的だろうとコメントしています。


・フィリピン国内におけるコロナ関連の規制が徐々に解除され、ついには撤廃されたことで、リテール施設への客足が徐々に伸び、パンデミック前のレベルに戻ってきています。しかし、クッシュマン&ウェイクフィールドは、過去数年の厳しい状況に加えて、経済の先行き不透明さから消費者支出の回復はゆるやかで、多くの小売業者が以前として足場を固めようとしている段階にあり、賃上げによる運営コストの増加は、まだコロナから完全に立ち直っていない小売業界の新たな障害となりかねないとコメントしています。




(出所:Cushman and Wakefield、Business World Online (1) (2))

(画像:UnsplashのBen Binが撮影した写真)