[フィリピン]不動産市場動向(2023年1月)

2023/03/07


不動産コンサルティング会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、フィリピンの不動産市場に関するレポートを発表しているので見ていきましょう。同社は、コロナで一気に広まったEコマースにより、工業・物流不動産が好調だとする一方で、オフィスや学校に戻る動きが進む中、リテールの客足も戻ってきていると述べています。レジデンシャル不動産は、物価高や借入コスト高が消費者心理を冷え込ませる方向に働いているものの、海外で働くフィリピン人労働者からの送金やBPO業界がけん引するだろうと述べています。



■不動産市場全般


・投資庁(Board of Investment(BOI))とイロコスノルテ州政府(PGIN)は、イロコスノルテ州を北フィリピンにおける主要な商業ハブと位置付けるための覚書(MOA)を結びました。特に、MOAでは、農業、観光、再生可能エネルギー、インフラ、サービスを中心に望ましい投資を呼び込むような、ビジネスフレンドリーな環境を整えていくことを謳っています。イロコスノルテ州を、「東南アジアへの玄関口かつ北フィリピンの主要商業ハブ」として位置付ける強みの一つに、同州で好調な再生可能エネルギー分野があります。同州で進むブルゴス風力発電事業(Burgos Wind Farm)は、東南アジア最大の風力発電プロジェクトです。地理的に戦略的な位置にあることや投資受け入れ態勢、先見の明のあるリーダーたちが揃っていることからさらなる投資を呼び込みたい意気込みです。


・クッシュマン&ウェイクフィールドは、不動産業界における長引くコロナの影響の一つが、分散化の傾向だと述べています。新しいコミュニティが生まれ、ハイブリッド型の働き方を進めるトレンドが続いており、市街地のインフラを改良することで、その地域の中だけではなく、他地域との接続性を高めることになります。新しい道路の建設、既存の道路の改良により道路網を整備するとともに、インターネットやデジタル・コネクティビティ(デジタルでつながっていること)を強化することで、製造、IT-BPM、データセンターといった成長分野のさらなる投資を呼び込み、地域の発展に貢献することができるだろうと述べています。



■オフィス


・フィリピン・オフショア・ゲーミング事業者(POGO)の国外退去、フレキシブルな働き方がオフィス市場を妨げる一方で、さらなる経済の再開を受けて不動産投資信託(REIT)の成長が期待されています。POGOについて、厳しい規制により国内での営業活動をさらに縮小する動きが出ています。また、フィリピン経済特区庁(PEZA)から投資庁(BOI)への登録移転を認める決議No.026-22に基づいて、情報技術・ビジネスプロセス管理(IT-BPM)企業に在宅勤務の働き方が100%認められていることもあって、オフィススペース需要はマイナスの方向に動いています。一方で、経済活動が再び活発になっていることは、オフィスおよびリテールREITの稼働率、賃料の改善に働きそうです。フィリピン証券取引所は、2023年に14の新規株式売り出し(IPO)を予定しており、うち11が企業およびREITがメインボードに上場するということです。AREITとPREITを除く国内のREIT各社は、売り出し価格を下回る値を付けて2022年を終えましたが、REITは不動産セクターの資金源と投資見通しを多様化する上で、引き続き重要であると考えられています。


・世界経済の先行きは暗く、多くの国に不確定性をもたらす中、オペレーションコストを見直すために、アウトソーシングにシフトする企業が増えているとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。一方で、需要に下向きの圧力をかけるのではなく、ハイブリッド型の働き方をオフィススペースのあり方を変え、協力できる環境やさらなるデジタル化といった、リモートワーク、オフィスワーク両方にとって生産性の上がるような環境を創る機会だとみられています。



■レジデンシャル


・海外在住フィリピン人(OF)からの送金は、予想される世界的な景気後退の悪影響を超え、フィッチグループは2022年の3.5%の成長から2023年には5%の成長を予測しています。OF送金額は、フィリピンの経済成長の主要な貢献要素の一つで、過去10年はGDPの約10%を占めていました。フィッチグループの成長予測は、中央銀行の今年の成長予測4%を上回るものです。BPO業界、観光収入、輸出と並んで、OF送金は、外貨準備高を増やすフィリピンの重要なドル資金源です。一方で、2022年のフィリピンペソの終値は、2022年10月に記録した過去最安値の1ドル=59ペソからは改善したものの、1ドル=55.755ペソと2021年の終値と比較して9.3%ペソ安となりました。


・世界的な景気の見通し悪化、高止まりする物価、高まる借入コストなどが、住宅購入者の心理を冷え込ませ、手を出せない人が増えています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、一方で、引き続き経済が再開を続け、海外で働くフィリピン人労働者からの送金額が回復し、労働市場が安定してくることで、こういった対外的な課題やリスクによるマイナスの影響を軽減できるだろうと指摘しています。



■ホスピタリティ


・フィリピン政府は、国内の観光を盛り上げるべく、2024年までに外国人観光客のための付加価値税(VAT)還付プログラムを実施したい考えです。国内での外国人観光客の消費額増を促すべくすでに導入している国もあります。政府はまた、健康証明書「ヘルスパス」の要件を減らすことや、インドと中国からの訪問を優先的に、Eビザの実施も視野に入れています。観光省(Department of Tourism)によると、2022年の訪フィリピン渡航者は265万人、観光収入は2,090億ペソでした。2021年の163,879人と比較すると大幅な増加を見せていますが、依然として2019年に記録した860万人を下回っています。2023年、観光省は、渡航制限を引き続き緩和していくことで、480万人程度の外国人観光客を見込んでいます。


・旅行・観光市場が完全回復に向かうにつれて、ホスピタリティ業界はスキルを持った労働者の不足が問題になっているとクッシュマン&ウェイクフィールドは指摘しています。国内外の観光への信頼感向上のためのマーケティング戦略と合わせて、今あるニーズに対応することがホスピタリティ業界の回復をスピードアップするだろうと述べています。世界的にホスピタリティ業界が再浮上する中、ホテルオーナー、教育機関、政府といったステークホルダーは、労働者のスキルアップと就業条件や業界の慣習を改善するプログラムを用意すべきだとクッシュマン&ウェイクフィールドは提言しています。



■工業/物流


・Eコマース、人口増加、景気回復に下支えされ、フィリピン国内のコールドチェーン業界は、2023年に能力が8~10%増加する見込みです。パレットポジション(倉庫の容量を表す単位)にして、追加で5万パレットに相当します。2022年に記録した業界の成長率10%の勢いは、2023年も継続しそうです。食品関係の消費者支出が増えていることも、工業/物流業界の成長をけん引する要素となりそうです。食品関係は消費者支出の約45%を占めているからです。政府が在庫脳積み増しをすることで腐りやすい食品問題に対応しようとするには、国内のコールドストレージの能力が足りていないと言われています。需要と能力の不均衡には、業界への融資支援など政府の適切な介入が必要だと業界関係者は述べています。


・パンデミックをきっかけに、Eコマースの成長とともに、オンラインスーパーが飛躍的に成長しています。農産物の供給問題が起こる中、冷蔵施設の開発を促すことが、効果的な倉庫運営の需要に応えることになるだろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。このような需要に対応すべく、既存の供給も追いついていく必要があり、そのためには冷蔵部門は工業・物流不動産における投資先としてのポテンシャルが高いと言えそうです。



■リテール


・フィリピン国内の最大手モール事業者のひとつ、SMインベストメンツ(SM Investments Corporation)は、リテール業界の成長見通しに楽観的な見方を示しており、北ルソン地方、ビサヤ地方、ミンダナオ地方の主要都市といった地方を中心に、リテール事業の拡大を計っています。SMは、地方の経済が急速に発達しているのを受けて、これらの急成長地域に投資を向けています。2022年、SMプライムは、地方にショッピングセンターを4店舗オープンしました。これにより、SMプライムのショッピングモールは全部で82店舗、うち58が地方、24が首都圏です。

・リテール業界は、コロナによる移動制限が大きく緩和された2022年、安定的に改善を続けています。特に、在宅ワーク、リモートラーニングから、オフィスや学校に戻る動きがでてきていることが、消費者がリテール施設に足を運ぶきっかけとなっているとクッシュマン&ウェイクフィールドは分析しています。物価高が短期的に支出を抑え、客足の完全復活を妨げるものの、リテール業界の見通しは依然として明るいとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



(出所:Cushamn & Wakefield)

(画像:UnsplashのAeron Oracionが撮影した写真 )