[フィリピン]不動産市場動向2023年7月

2023/09/06


総合不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2023年7月のフィリピン不動産のレポートを出していますので、ご紹介していきましょう。今月のレポートの中でも目を引くのは、SMプライム・ホールディングスによるREITの届出保留と、2023年第1四半期のレジデンシャル価格インデックスの上昇です。


■不動産一般

・米国の連邦準備制度理事会の緊縮的な金融政策を受けた高金利環境が需要を冷え込ませていることから、SMプライム・ホールディングス(SM Prime Holdings, Inc.)は、自社の不動産投資信託(REIT)の届出を保留にしました。もともとは2023年第3四半期に予定されていたものです。ベンチマーク金利が10会合連続で合計500ベーシスポイント引き上げた後、連邦準備制度理事会は2023年6月にその引き締めサイクルを一時停止しました。しかし、今後さらなる利上げを行う可能性も迫っています。一方で、フィリピン中央銀行(BSP)は、連邦準備制度理事会の動きに追随して、基準金利を過去16年間で最高水準の6.25%まで引き上げました。この金利高の状況に、各銀行は債券市場の需要を吸い上げて、定期預金に流用しているようです。

・不動産需要は全体的に金利の変化に非常に敏感ですが、クッシュマン&ウェイクフィールドは、投資家らが短期的には、REITを控えて他の投資の形式に流れるとみています。しかし、不動産セクターの需要のけん引要素の成長に影響を与える現在の世界的な景気減速を乗り切れば、長期的なフィリピンREIT市場の見通しは明るいだろうとも述べています。



■オフィス

フィリピン経済特区庁(PEZA)は、行政命令(AO)第18号に基づく、新しい経済特区(エコゾーン)にかかるモラトリアム(猶予期間)が2023年内に終了することに対して楽観的な見方を示しています。というのも、この行政命令は、企業の回復と税制上のインセンティブを定めるCREATE法に取って代わられるからです。現在のモラトリアムは、経済特区の整備を通した地方の発展を促進し、いずれはメトロマニラ内の新規の経済特区を禁止するものとなっています。PEZAは、エコゾーンの設置場所を問わないCREATE法の規定との整合性を取るために、モラトリアムは保留にすべきだという見方を示しています。また、PEZAは、首都圏にエコゾーンを新しく作ることで、ITセクターの新規事業者からのオフィススペース需要の増加に応えることができるだろうとも述べています。デベロッパー各社はIT業界向けの経済特区を首都圏に設立する方法を模索しているからです。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、行政命令(AO)第18号のより包括的な経済成長を醸成するという究極的な目標を達成するためには、デジタルおよび構造インフラネットワークの両方へのアクセスを改善するための長期的なプランとコミットメントが必要になると指摘しています。依然として、メトロマニラに拠点を構えようとする企業が多いことを鑑みると、新しい経済特区の設立を認めることは、オフィス市場の回復をアシストすることになるだろうとも述べています。というのも、オフィス市場の主要な成長ドライバーであるIT-BPM業界は、経済特区内に拠点設立を好む傾向にあるからです。



■レジデンシャル

・フィリピンのレジデンシャル不動産価格インデックス(RREPI)は、2023年第1四半期に全体として前年同期比で10%成長し、前四半期の7.7%成長からその速度を上げました。前期比ベースでは、RREPIは1.4%のプラスとなりましたが、2022年第4四半期の2.2%から減速しました。不動産タイプ別のレジデンシャル価格を見ていくと、一戸建て/二世帯住宅が前期の10.0%から17.0%とその成長を加速させた一方で、タウンハウスは前期の-6.8%から、1.8%のプラスに転じました。デュプレックスとコンドミニアムでは成長の減速が見られました。デュプレックスは前期の42.9%から22.1%に、コンドミニアムは前期の12.9%から1.2%となりました。エリア別で見ると、メトロマニラが2022年第4四半期の前年同期比16.1%から今期は7.3%となりました。コンドミニアムのユニット価格は15.9%のプラスから、今季は0.8%のマイナスに転じました。メトロマニラ以外のエリアでは、2022年第4四半期の前年同期比4.5%成長から、今期は11.4%と成長のペースを上げました。一戸建て/二世帯住宅が2022年第4四半期の8.8%から今期は15.6%、コンドミニアムユニットは前期の3.9%から6.6%となりました。一方で、新築レジデンシャルユニットの評価価額は平均で平米当たり73,724ペソでした。メトロマニラの物件の平均価額は平米当たり123,053ペソと高いのに対して、メトロマニラ以外では平米当たり51,459ペソでした。

・需要の増加を狙って、デベロッパー各社は新しく完成した、または計画に上がっているインフラプロジェクト付近に新築のコンドミニアムプロジェクトを発売しています。アクセスが良くなるだけでなく、アメニティの充実や新興の市街地に近いことなどが、フレキシブルな働き方へのし好が高まる中、新しく物件を購入しようとするバイヤーをひきつける要素となっている、とクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■ホスピタリティ

・フィリピン国内のホスピタリティ業界は、力強い国内需要があるものの、メトロマニラとそれ以外のロケーションでは異なる回復の動きを見せています。ホテル販売マーケティング協会(HSMA)は、メトロマニラにある協会の会員ホテルでは、コロナ禍前の水準を超える稼働率70~80%を記録している一方で、その他の地域はこの水準に及ばないと述べています。協会はこの背景には様々な要因があるとしており、そのうちの一つとして、フライトのコストが高いことが国内の主要な観光地の数字に現れていると述べています。さらに、メトロマニラのホスピタリティ市場は、国内需要と再活発化しているMICE(企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event))活動にささえられているものの、季節性の高い国内観光に頼ってはオペレーションや費用を持続させるのは難しいとして、外国からの観光客が戻ってくることがセグメントの完全回復には欠かせないとも述べています。リサーチ会社STRによると、HSMA会員ホテルの多くで、客室一室あたりの収益を表すREvPaRは2019年レベルを下回る平均3,708.30ペソです。同期間の平均ホテル稼働率は80%、客室一室あたりの平均販売単価を表すADRは5,425.49ペソだということです。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、国内旅行・観光市場の季節性は高いものの、ホテルセグメントは,、メトロマニラ以外の地域でのホテル物件のパフォーマンスを上げるために、ステイケーションやワーケーションブームに乗ることができると指摘しています。フィリピンでは、多くの企業が従業員のためにハイブリッド型の働き方を認めています。



■工業/物流

情報通信技術省(DICT)によると、デジタルトランスフォーメーションの採用が進み、クラウド型のサービスへの需要が増えることで、2025年までに、フィリピンのデータセンター能力は5倍の約300メガワット(MW)に達する見込みです。現在、フィリピンのデータセンター能力は60MWですが、通信会社や民間の協力を得てデータセンターの追加が進んでおり、そのうちのほとんどのプロジェクトが100メガワット以上の能力を持っています。さらに、フィリピンのロケーションに目を付けたハイパースケーラーによる投資も進んでいます。DICTは、今後能力が増えることで、政府機関がデータに基づいた判断ができるようなe-政府プラットフォームの統合を支えることになると述べています。DICTは、「協力関係を強化し、相互運用が可能なシステムやプログラムを開発する上での知識の共有を推進するため、複数の機関とe-ガバナンスについての覚書(MoU)に署名もしています。

・企業や組織の運営にデジタル技術が広く採用されるようになったことで、データセンターエコノミー、特にフィリピンなどの二次市場での急速な成長が進んでいます。ハイパースケーラーの関心も依然として高い一方で、国内の電力問題や、好まれる立地(メトロマニラ内や近くの都市地域)における効果的な災害対策プログラム(がないこと)が、大型の事業者を呼び込む上で、フィリピンの可能性が最大限に発揮できないでいるとクッシュマン&ウェイクフィールドは指摘しています。



■小売

・他のブランドをオンラインおよび実店舗で扱うことを認めるマーケットプレイス戦略を強化することで、オンラインおよび実店舗のプレゼンスを拡大している世界的なファストファッション事業者があります。このような戦略を用いることで、H&Mは、アディダス、ニューバランス、クレッタルムーセン、コスといったブランドを自社のプラットフォームで扱おうとしており、Zalando、ASOS、Sheinといったオンラインのライバルに対抗しようとしています。H&Mは、この戦略の客からの評判は上々で、現在外部のブランドを70ほど扱っていると述べています。H&Mは、リーチできる顧客層が広く、インフラ面でも優勢だが、かなり飽和気味の他の第三者アパレルプラットフォームの上に出るかということが主要な課題になってくるといわれています。

・経済活動は再開しましたが、コロナによる消費者行動の変化により、今後もeコマース取引は増えると見られており、リテール業界のコロナ後の未来を形作っていくことになるでしょう。クッシュマン&ウェイクフィールドは、新しい消費者行動に対応し、オンライン小売業者と実店舗の間で急速に激化する競争から抜け出すためには、ユニークでニッチなものを見つけるのが非常に重要だとしてきしています。




(出所:Cushman and Wakefield)

(画像:UnsplashのLaurentiu Morariuが撮影した写真)