2023/07/20
総合不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが6月のレポートを発行していますので見ていきましょう。
コロナ禍のリモートワークからオフィス勤務への復帰が進んでいるようです。ハイブリッド型の働きが今後の主流になるとはいえ、ワークライフバランスやコミュニケーションの観点から、オフィス勤務を肯定的にとらえる人も多そうです。パンデミックで一気に広まったEコマースにより、倉庫、物流、データセンターなどの工業・物流不動産は好調のようです。
■不動産全般
・国際経営開発研究所(International Institute for Management Development(IMD))が発行した2023年の世界競争力イヤーブック(World Competitiveness Yearbook)によると、フィリピンは64の国と地域のうち、前年の48位から52位へと順位を下げました。世界的なインフレ、公衆衛生上の脅威、そして地政学的な緊張の高まりを背景に、経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラの4つの要素で競争力を測定したところ、その3つでポイントを下げました。インフラでは、インフラサービスが整っていないとして、1ランク下げて58位、ビジネスの効率性では1ランク、政府の効率性では4ランク下げて52位となりました。一方で、経済状況は13ランク上げて40位となりました。この背景は、堅調な経済成長、雇用、そして物価が上げられています。さらにレポートでは、世界的な下降リスクが持続的な回復や成長を妨げる可能性について触れただけでなく、フィリピンが包括的な発展を遂げるためには社会保護および医療システムの強化が必要であるとも述べています。アジア太平洋地域で見ると、フィリピンは6年連続で14か国中13位となりました。
・クッシュマン&ウェイクフィールドは、フィリピン経済が徐々に回復を遂げる中、全体的な競争力の向上には、法令上の制限やインフラ不足との長期戦を伴うとする一方で、世界的な景気後退の中、フィリピンの回復力の高い経済は投資家にとっては有力な強みとなり、投資の呼び水となるだろうと指摘しています。
■オフィス
・クラウド型人事プラットフォームの「Sprout Solutions」が行った調査「HR状況レポート2023(the State of the HR Report 2023)」では、フィリピンの従業員のうち51%がリモートからオフィス勤務に戻ったことが明らかになりました。さらに、人事担当者のうちオフィス勤務への以降について不確定だと述べているのが33.4%に留まったことから、コミュニケーション、ワーク・ライフバランス、企業文化や帰属意識の点で、オフィス勤務に利点があることが広く認識されていることを示していることも分かっています。調査対象となった人事担当者のうち50.5%はハイブリッド型の働き方が今後の働き方の主流となることを予測している一方で、オフィス勤務に対する抵抗が少ないことから、ハイブリッド型の働き方を緊急的に採用する必要もなさそうだとレポートは示しています。
・クッシュマン&ウェイクフィールドは、事業活動が通常に戻りつつある中、ハイブリッド型の働き方が中期的にはトレンドとなり、完全なオフィス勤務の復活というよりはオフィス勤務の日数を徐々に増やす指示を出す会社が多そうだと述べています。
■レジデンシャル
・世界的な景気が後退し、移民が減少する中、世界銀行は海外で働くフィリピン人労働者からのフィリピンへの送金額を2023年は前年比2.5%の390億ドル、2024年には400億ドルと予想しています。世界銀行の予想は、フィリピン中央銀行(BSP)が2023年に予想している前年比3%成長、そして2022年実績の3.6%よりも低いものになっています。一方で、世界銀行は昨年実績について、労働者への虐待を理由としてサウジアラビアへの移民が禁止されていたのが解除となったことやフィリピン政府が新規OECD国と結んだ2か国協定のおかげだとしています。フィリピンへの2022年の送金額は380億ドルと世界第4位でした。1位はインド(1,110億ドル)、2位はメキシコ(610億ドル)、3位は中国(510億ドル)、そして5位はパキスタン(300億ドル)でした。
・フィリピンのレジデンシャル不動産需要を支える海外で働くフィリピン人労働者(OFW)からの送金額の現象は、新規販売プロジェクトの需要に大きな影響を与えます。クッシュマン&ウェイクフィールドは、建設資材の高騰が、中期的には、プロジェクト供給に影響を与える可能性があるものの、国内の景気回復の見通しがレジデンシャル不動産を支えるだろうと述べています。
■ホスピタリティ
・今後5年間で、アライアンス・グローバル・グループ(Alliance Global Group, Inc.)は、国内外からの観光客の増加を見込んで、ホスピタリティ事業を拡大し、新規に6拠点(パラニャケ市、ラグーナ、バコロド市(西ネグロス)、サンフェルナンド市(パンパンガ)、ボラカイ島(アクラン)、サン・ビセンテ(パラワン))の開業を目指しています。同社は、現在過去最高の稼働率と室料を記録しているということです。この6拠点の新規展開で、約11,000室が追加される予定です。さらに、同社は、グループ会社のTravellers International Hotel Group, Inc.を通じて、メトロマニラ以外の地域にリゾート&カジノ事業を拡大したい考えです。Travellers International Hotel Groupは現在、6つのホテルブランドを所有しています。一方で、同じグループ会社のMegaworldは現在フィリピン国内で12件のホテルを運営しています。
・国内のみならず国際レベルでも観光活動が再び活発になって来ている中、ホテル事業者が投資オポチュニティの再評価にかかっているようです。クッシュマン&ウェイクフィールドは、パンデミック前のレベルにまで国内・海外旅行がパンデミック前のレベルに戻るには、短期から中期的に、旅費の高騰と可処分所得の減少の影響を受けそうだとコメントしています。
■工業/物流
・Globe Telecom, Inc.、Ayala Corp.、そしてシンガポールのST Telemedia Global Data Centersの合弁会社である「ST Telemedia Global Data Centres(STT GDC Philippines)」は、5.2メガワットの能増を計画しています。デジタルサービス需要の急増を背景に、既存のマカティ、カヴィテ、ケソンの施設の能力を拡大するものです。これにより、世界的なハイパースケーラーやその他の顧客セグメントにも対応したい考えです。STT GDC Philippinesは現在、メトロマニラ内に5拠点(合計22メガワット)を有しています。また最近、同社最大となるSTT Fairview(合計124メガワット)を発表、2025年第1四半期に営業開始予定で、当初能力は28メガワットです。
・Eコマースのブームとリモートワークに支えられ、デジタルなライフスタイルが定着してきたことが、データセンター事業者にとってのオポチュニティを作り出しています。倉庫および物流施設の需要増とともに、データセンターもまた工業不動産の健全な需要をけん引していると見られており、クッシュマン&ウェイクフィールドは、これらのセグメントに投資を呼び込みそうだと述べています。
■リテール
・小売業自由化法(Retail Trade Liberalization Act)が改正され、外資の小売業者に対する最低払込資本金の金額が250万USドルから44万6,000ドルに引き下げられましたが、まだ新規参入する外資系企業はなさそうです。一方で、この法改正により、フィリピン進出済みの外資系小売業者の事業拡大も促そうとしています。法改正の当初の意図は、大手外資系小売業者を国内に誘致することでしたが、フィリピン小売業協会(Philippine Retailers Association)は、規制緩和により中小規模の小売業者の参入を促しそうだとコメントしています。また、払込資本金の規制よりもインセンティブや経済環境を考慮する企業の方が多そうだともコメントしています。
・国内市況への懸念感が減ったことで、客足、小売販売ともに伸びてきているようです。一方で、世界的には物価高、サプライチェーン混乱、Eコマース志向により、小売業には不確実性が漂っており、クッシュマン&ウェイクフィールドは、短期~中期的には、海外ブランドのフィリピン新規参入を思いとどまらせることになりそうだとコメントしています。
(出所:Cushman & Wakefield)
(画像:UnsplashのREY MELVIN CARAANが撮影した写真)
もっと詳しく知りたい方はこちら