[フィリピン] 不動産市場動向2023年11月

2024/01/23


総合不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2023年11月のフィリピン不動産市場のレポートを発行していますので見ていきましょう。オフィスではフレキシブルワークオフィスのIWGがフィリピンにおけるポートフォリオ拡大を続けています。レジデンシャルでは、政府の住宅プログラムで空室率はあがるとするものの、首都圏のコンドミニアムと政府の手ごろな住宅では地域のすみ分けがあることも指摘しています。また、観光省の設定した外国人観光客数目標が達成されたことで、ホスピタリティ部門の完全回復への期待が寄せられています。



■不動産全般

・2023年第3四半期のフィリピン経済は5.9%成長し、第2四半期の4.3%から加速しました。しかし、1年前に記録した7.7%成長には及ばない状況です。第3四半期の成長をけん引したのは、主に政府支出の回復です。第2四半期は7.1%減だったところを逆転して6.7%増となりました。前年同期は0.7%でした。一方で、経済の大きな部分を占める家計消費は、過去2年間で最も低迷し5%増となりました。前期は5.5%、前年同期は8%でした。総資本形成は1.6%縮小しました。前期は0.3%増、前年同期は18.2%増でした。

フィリピンの第3四半期の成長率は、東南アジアの新興経済圏の中で最も早いペースとなりました。ベトナムは5.3%、インドネシアと中国は4.9%、マレーシアは3.3%でした。1月から9月期の成長率は平均5.5%でした。政府の通期の目標である6から7%成長を達成するためには、第4四半期の成長率が7.2%以上である必要があります。


・インフレが落ち着きを見せてくることで、中央銀行に利下げの余裕が生まれ、世界的な景気見通しが依然として不透明な中で、安定的な経済成長を促してくれそうです。クッシュマン&ウェイクフィールドは、経済成長を安定化させることが、中期的に、不動産市場の拡大を促進する外国投資の意思決定プロセスにおいて重要な役割を果たすだろうと述べています。



■オフィス

・オフィスソリューションを提供するンターナショナル・ワーキング・グループ社(international working Group plc (IWG))は、2024年、そのコワーキングスペースポートフォリオに新たに8拠点を加え、フィリピンにおける事業拡大を進める計画です。新拠点には、パンパンガ州アンヘレスに2024年7月にオープン予定のRegus Nepo Center(1,292平米)、ケソンシティのHQ Triumph Building (700平米)、セブのHQ Mahi Center(1,000平米)、PNBホールディングスとの提携によるPNBビルのペントハウスに位置するPNB Makati Center(2,050平米)、マニラのRegus Adriatico Square(987平米)、マカティ市のRegus PMI Tower(1,610平米)です。また、マンダルヨン市のRegus AMA Tower Regisdencesとマニラ市のRegus Doña Elena Towerは2024年前半にオープンが予定されています。2023年、IWGは、カガヤン・デ・オロ、ラス・ピニャス市、イロイロ、ケソン市、スービック湾自由港区に5つの拠点をオープンさせ、現在フィリピン国内には34拠点を構えています。


・コワーキングスペースの躍進の背景には、働き方の柔軟性を高めたいという従業員や労働者一般の希望に答えるべく、企業がリモートとオフィス勤務をブレンドさせる方向に圧力がかかっているからだとクッシュマン&ウェイクフィールドは指摘しています。



■レジデンシャル

ASEAN+3 マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)のレポートは、政府の住宅プログラムを理由に、フィリピン首都圏の不動産空室率が2倍になる可能性を指摘しています。さらにレポートでは、2023年第2四半期のオフィススペースの空室率を18.4%、レジデンシャルコンドミニアムの空室率を17.2%と報告しており、コロナ禍以前のオフィス空室率5%、コンドミニアム空室率10%から上昇していると報告しています。政府は、今後数年間で600万戸の住宅ユニットを建設することを目標としており、在庫が増え、不動産価格の修正が入る可能性についても述べています。さらに、空室率の高止まりが長引けば、不動線業界の全資産の10%を占めると言われている弱小デベロッパーの財務の健全性にいずれ影響を与えることになりそうです。また、レポートでは、2023年第2四半期の自動車ローンの不良債権比率が6.9%、住宅ローンが7.6%と、パンデミック前の水準を上回るレベルで推移していることも指摘していますが、採算性の改善、十分な流動性、そして銀行業界の資本保全バッファーによりリスクは限定的だとしています。


・新規プロジェクトの販売量以外に、レジデンシャル不動産の価格は、立地と多くの経済的な要因にも大きく左右されます。クッシュマン&ウェイクフィールドは、政府による住宅プロジェクトが手ごろな価格の住宅不足の緩和に大きく寄与するだろうとする一方で、これらのプロジェクトは通常都市部周辺地域または地方にあることが多いと述べています。したがって、首都圏の中心業務地区のレジデンシャル市場は、事業環境の回復とともに、今後も改善を続けるだろうと述べています。



■ホスピタリティ

・2023年11月時点で、フィリピンを訪れた外国人は482万人に達し、政府観光省(DOT)が設定した年間目標480万人を突破しました。国別にみると韓国からの旅行者が最も多く26.37%、続いて米国16.53%、日本5.66%、中国5.02%、オーストラリア4.68%でした。観光客の支出が約4,040億ペソ、業界での雇用が535万人と、旅行・観光業界は、引き続きフィリピン経済への貢献度において重要な地位を占めると見られています。


・外国人旅行者が戻ってきていることで、ホテル業界がパンデミック前の活気を取り戻す日は近いことを示しています。一方で、構造的、技術的な課題が業界の回復を妨げることにもなりそうです。クッシュマン&ウェイクフィールドはまた、サービス提供やスタッフ管理の面で激しい競争が起こっており、投資家、事業者、その他業界関係者による早急な解決が必要だろうと指摘しています。



■工業/物流

・製造業は、2023年11月、10か月間で最も早いペースの成長を記録しました。製造業購買担当者景気指数(PMI)は、10月の52.4から11月は52.7に上がりました。PMIが50を超えると拡大を、50未満は全体的な縮小を意味します。新規ビジネスと生産高の拡大は、力強い需要に支えられています。一方で、国内外の需要の増加により、新規発注も増えました。この状況は今後数カ月継続すると見られています。積み残し案件が減少したことで、2022年央以来はじめて、雇用を削減したり、購買活動を控えたりする企業が見られました。しかし、製造業全体の持続的な成長の勢いがこれらを上回ると予想されています。


・経済全体の成長パターンをたどったパンデミック前のレベルと比較すると、製造業の活動は今年やや控えめになっていることから、世界的な景気低迷の影響は明らかであるとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。世界的な先行きの不透明性から来る脅威はあるものの、物流・Eコマース分野における力強いファンダメンタルズが工業不動産部門をけん引する主要な要素となるだろうと付け加えています。



■小売

・借入コストと物価の上昇により、家計消費は控えめな状態が続きそうです。ムーディーズ・アナリティクス(Moody’s Analytics)は、2023年の成長率が、政府目標に届かず、平均5.4%程度に落ち着きそうだと見ています。政府の利上げは停止したとみられていますが、2024年央まで利下げの動きもなさそうです。野村のリサーチによると、インフラ支出が今後数年の成長をけん引すると見られており、2024年は5.8%、2025年は6.1%成長が予想されています。ダウンサイドのリスクとしては、世界経済の減速が予想を上回ること、食料・燃料価格の高騰が再発することなどです。


・インフレと金利が消費者支出を冷え込ませています。このことは、いずれオフィス勤務の最下位、経済全体のプラス成長の結果としての小売部門のプラス成長に反対向きの力を加えることになりそうだとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。




(出所:Cushman & Wakefield

(画像:UnsplashのAlexes Gerardが撮影した写真)