2023/10/26
総合不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2023年9月のフィリピン不動産市場のレポートを発行していますので見ていきましょう。パンデミック後もフレキシブルな働き方が続く中でもIT&ビジネス・プロセス・マネジメント業界の成長が続いています。フィリピン国内のIT-BPM業界が、全世界の成長率をしのぐ勢いで成長していることは、同業界の将来性を物語っています。
■不動産全般
・国内で初めて不動産投資信託(REIT)が上場したのが2020年。財務省は、現在上場する8つのREITが調達した金額は933億フィリピンペソ(約2,465億円)、合計の時価総額は2,285億ペソ(約6,040億円)と見積もっています。REITに投資しているのは、98%が個人投資家であることから、金融包摂を促進する上で重要なツールとなることから、財務省はさらなるREITの上場を各社に呼びかけています。フィリピンの資本市場を刺激し、ビジネスのオポチュニティを作り出す以外に、REITは景気の回復やインフラの近代化も促進すると考えられています。一方で、公正かつ効率的な固定資産の評価システムを推進することを目指した固定資産評価・査定改革法(Property Valuation and Assessment Reform Act)の法案通過が目前に迫っていることで、不動産の収益力を強化し、地方政府(LGU)に必要な財源の一助となると見られています。
・フィリピンの健全な人口増加と長期的な投資を求める中流階級の増加により、国内のREIT市場は成長の可能性を抱えています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、フィリピンのREITはまだ新生期にあるものの、世界経済、国内経済の見通しが減速していることから、多くの投資家がREITの実行可能性についてためらいを感じていると述べています。
■オフィス
・北米の人材不足と米アウトソーシング企業からの需要の増加にけん引され、フィリピンIT・ビジネスプロセス協会(IBPAP)は、フィリピンの情報技術およびビジネス・プロセス・マネジメント(IT-BPM)業界について楽観的な見方をしています。IT-BPM業界は、2023年の収益目標である354億ペソを達成する見込みで、達成すれば年間成長率は8.8%、全世界の業界成長率の7.7%を上回ります。また、同業界がフィリピンのGDPに占める割合も、7%から、今年は8%に拡大する見込みです。IT-BPM業界における正社員数は、2022年に8.7%増を記録し、全世界での社員数の増加率も上回っています。IBPAPは、変化する働き方に企業が適用できるような政策を推進する政府の取り組みもまた、外国投資の誘致に繋がったと分析しています。業界の拡大は、メトロマニラ以外でも見られています。カガヤン・デ・オロ、セブ、クラーク、ダバオ、イロイロといった地域も、アウトソーシング企業の進出先として好まれています。
・アウトソーシング需要は、パンデミックの期間、世界的に増加しました。未だパンデミックの影響から脱出しようとするなか、アウトソーシングを費用面のレジリエンスの高い戦略として見る企業が多いことから、アウトソーシング事業はさらなる成長が見込まれています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、人気のアウトソーシング先としての地位を保ち続けるフィリピンでは、IT-BPM業界は国内の中で最も好調な産業のひとつで、オフィス不動産をけん引する主要な原動力としての座を保ち続けるだろうと述べています。
■レジデンシャル
・オンライン不動産マーケットプレイスLamudiは、トレンドレポートの中で、商業不動産投資が増加を続ける中、2023年第2四半期のプラットフォームに掲載されている商業不動産のリードが、前期比で30%となったと発表しました。バイヤーの関心を集めているのはカラバルソン地方です。域内5州のうち4州が、売地のロケーショントップ10にランクインしています。特に、リサール州とラグーナ州は、低価格セグメントにおいて上位をしめました。一方で、農業用地の検索が多かったのは、カヴィテ州、バタンガス州、リサール州で、商業用地の検索のトップはメトロマニラ、続いてカラバルソンとパンパンガでした。Lamudiは、カラバルソンのリードが増加している件について、インフラが適度に整っていることと、地方として重点産業である情報技術、金属、電子、自動車、石油化学に力を入れていることを要因として挙げています。過去数年、カラバルソン地方はテクノパークの集積地として位置付ける一方で、飽和的なメトロマニラの不動産市場以外の投資を推進する投資家による、レジデンシャル、複合用途、商業不動産開発への投資も数多く誘致してきました。
・インフラブームの到来するとともに、メトロマニラ以外の新しい成長エリアのアクセシビリティを強化する開発オポチュニティがますます生まれています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、新しいインフラプロジェクトが完成し、地域としての魅力が増すことで、中部ルソン地方とカラバルソン地方における総合不動産開発プロジェクトの新規立ち上げが促されるだろうと述べています。
■ホスピタリティ
・インフレが進むものの、消費者の旅行意欲を反映して、旅行業界の予約数は増加しています。オンラインビザ申請センター、BLSインターナショナルによると、ビザの申請数もパンデミック前の水準を超えており、日当たりの予約件数は30%程度増加して、パンデミック前のレベルの100%に達しているということです。2023年前半期、フィリピン航空(PAL)の旅客数も89%増を記録しました。おかげで、PALの収益は過去最高となり、新しい航空機と技術への投資に踏み切りました。ユナイテッド航空フィリピンでも同様の動きが見られており、同社は国内外の旅行市場に対して楽観的な見方を示しています。
・海外からの旅行者の増加に、国内需要も相まって、ホスピタリティ業界は、航空運賃の増加、人材不足、価格水準の上昇などにもかかわらず、再び活気を取り戻しています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、ホテル稼働率もまた、ホリデーシーズンを前に、緩やかに上昇することが見込まれており、ホテル業界のパンデミック後の回復を支えることになりそうだとコメントしています。
■工業/物流
・インド・インドネシア・UAEを拠点とするケン・リサーチが発行したレポートによると、フィリピンの物流業界が国のGDPに占める割合は現在4~6%で、2022年から2027年までに年間成長率8.2%で成長し、時価総額は1兆1,600億ペソ(約3兆円)に到達すると見られています。物流業界が急速に発展を続ける一方で、持続的な成長の妨げとなりうる課題には、農村部に多く見られるインフラおよび技術面での不足が挙げられています。また、輸送に必要な新しい技術を導入しながら世界の輸送・物流業界が進化を続け、物流会社が経済上、地政学上、環境上の課題に耐えながらも、フィリピン市場は手動のプロセスと人材に大きく依存しています。また、2020年には小売市場に占める割合は2%程度だったEコマースは、今や7%にまで成長しており、効率的かつ透明性のある物流サービスのための技術の発展を促すことになりそうです。
・モノやサービスにリアルタイムにアクセスする需要がかつてないほど高まっており、Eコマースはフィリピン経済の重要な原動力となっています。フィリピン国内におけるインターネット浸透率を高めるための政府の適切な支援と投資があれば、Eコマース需要はさらに増加すると見られています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、工業・物流セグメントへの投資は、デジタルエコノミーの成長の勢いを助けるための主要な工業ハブを今後も促進していくだろうと述べています。
■小売
・フランスの化粧品ブランド「ランコム」は、2015年に一度フィリピン市場から撤退していますが、再参入を検討しています。ブランドが注目するのはZ世代が先導するラグジュアリー市場の成長です。ラグジュアリー市場は、「洗練、パーソナル化、一段上のエクスペリエンス」を求める声により変革を続けており、高所得消費者が増えていることも、この動きを後押ししています。2018年の調査によると、国内の大衆富裕層は2017年から2030年まで年間8%の割合で増加すると見られています。ランコムは現在、グリーンベルトにポップアップストアを構えていますが、今年中に路面店をオープンさせる予定です。
・クッシュマン&ウェイクフィールドによると、ラグジュアリー小売部門は、パンデミック中もレジリエンスを保ったセグメントのひとつでした。というのも、購入者に根ざすブランドに対する忠誠心(ロイヤルティ)があるからです。クッシュマン&ウェイクフィールドはまた、ラグジュアリーブランドは、国内で急成長するラグジュアリー市場の波に乗ることができるだろうとも述べています。急成長の背景には、国内に増えつつあるインターネットの知識を備えた消費者をターゲットに効果的なデジタルマーケティング戦略のおかげもあるだろうともコメントしています。
(出所:Cushman and Wakefield)
(画像:UnsplashのRobin Kutesaが撮影した写真)
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