2023/11/30
2023年第2四半期のフィリピン経済の成長率は予想(4.3%)を下回りました。第3四半期は5.9%を記録しましたが、2023年の成長率目標である6%以上を依然として下回っています。アナリストは、今年いっぱいはより緩やかな成長になると予測しています。それでも、フィリピンは東南アジアで最も急速に経済成長する国のひとつになると予測されています。
フィリピン中央銀行は10月27日、政策金利を6.25%から6.5%に引き上げました。これにより、銀行が課す住宅ローン金利が上昇し、住宅に対する全体的な購買意欲に影響を与える可能性が高いとみられています。
総合不動産サービス会社コリアーズ・フィリピンは、年内の経済成長は個人消費に牽引される可能性が高いと見ており、小売とホテルセクターをさらに下支えするだろうと予測しています。オフィススペースの成約面積は、メトロマニラ内外の各企業の事業拡大計画に部分的に依存するとみている一方で、住宅需要は、海外で働くフィリピン人からの送金や投資家の高級住宅開発に対する意欲に左右されるだろうと述べています。
コリアーズはまた、逆風が続いているものの、市場にはいくつかの機会があると述べています。コリアーズは、特定の不動産セグメントにはまだオポチュニティが残っているため、不動産関係者は2023年末に向けて好調な仕上がりを享受できると楽観的な見方をしています。
また、デベロッパー各社に対しては、フィリピンの不動産セクターの長期的な成長を利用して、前もって計画すべきだと提言しています。特に、2024年以降政府が実施する可能性の高い新しい経済政策やプログラムに留意し、これらがフィリピンの不動産関係者にとっての規制環境をどのように再定義するかを注意深く観察していくべきだと述べています。
■オフィス
マニラ首都圏では、新規オフィスビルが竣工を迎え、第3四半期に退去スペースが急増したことで、オフィスの空室率がわずかに上昇しました。コリアーズによると、質への逃避とコストへの逃避を織り交ぜた施策を実施しながら、従来企業やアウトソーシング企業からの取引が引き続き行われています。
今年1~9月のマニラ首都圏以外のオフィス取引は横ばいで、セブ、パンパンガ、ラグナが成約件数の大半を占めました。今後、第二次、第三次都市が持つスキル人材プールや改善しつつあるインフラネットワークを企業が活用するにつれて、マニラ首都圏以外の主要エリアでの事業拡大のオポチュニティは拡大するとみられています。
コリアーズはまた、オフィス入居企業に対して、柔軟性のあるワークスペースの選択肢を持つことで、引き続き職場戦略を補完していくことを奨励する一方で、賃貸主に対しては、テナント企業が質への逃避ができるように、高品質なビルを積極的に割安に提供すべきだと述べています。また、テナント企業のオフィス復帰(RTO、Return-to-Office)の取り組みをサポートするような革新的なプログラムを実施すべきだとも述べています。
コリアーズの2023年第3四半期のデータによると、複数企業が、質/コストへの逃避戦略を実施したようです。フォートボニファシオ、マカティ中心業務地区(CBD)、オルティガスCBDにオフィススペースを確保した従来企業やアウトソーシング企業もあるということで、これらの企業は、市場がテナント寄りになっていることを利用して、主要ビジネス地区に新規の優良オフィススペースをより低い賃料で確保することに成功したのです。
コリアーズは、現下の市況を踏まえると、コロナ禍による賃料の低下により、テナントが低コストで質への逃避戦略を実行できるオポチュニティが引き続き存在すると述べており、今が新築の優良スペースが供給されるエリアでオフィススペースを確保する好機だとの見方を示しています。現在の空室在庫と今後12ヶ月以内に竣工予定の新しいオフィスタワーを考慮して、コリアーズは、フォート・ボニファシオとオルティガスCBDのオフィススペースを推奨しています。また、フレキシブルワークスペースを検討することも提案しています。2023年、2024年と高い空室率が続くことが予想されるとして、現在の賃貸契約が切れる前に、入居企業は不動産戦略を見直すべきだろうとも述べています。
今後もサステナブルかつグリーンなビルが、引き続き大手の多国籍企業やアウトソーシング企業にとって魅力的な選択肢となるでしょう。コリアーズによると、2023年から2025年にかけて完成する新築オフィスビルの約56%をグリーンビルが占めるということで、テナント企業にとっては選択肢が広がりそうです。
■レジデンシャル
マニラ首都圏全域でコンドミニアムの賃貸は回復を続けており、特に外国人駐在員が戻ってきています。フィリピン人従業員が徐々にオフィス勤務に復帰していることも、マカティ中心業務地区、オルティガスセンター、フォートボニファシオなどの主要ビジネス地区における賃貸活動の改善に寄与しているようです。プレセール需要も、中所得者層が牽引して年々回復していますが、即入居可(RFO)のユニットが多く、流通市場では空室が増加していることから、新規プロジェクトの立ち上げに対してデベロッパーは慎重な姿勢を崩していないとコリアーズは述べています。
コリアーズは、2023年いっぱいは賃料と価格の改善が続くとする、これまでの予測を維持しています。しかし、2024年にはかなりの量の新築コンドミニアムが完成するため、来年は賃料と価格に下落圧力がかかる可能性が高いと予想しています。
コリアーズによると、マニラ首都圏以外でもリゾートやレジャーをテーマにしたプロジェクトが拡大しているということで、不動産会社が目の肥えた富裕層市場の需要増に対応するため、同様のプロジェクトの販売があるとみられています。コリアーズは、市場を活性化させるためには、デベロッパーが魅力的で柔軟な支払い条件やプロモーションを継続して提供していくべきだと述べています。また、コロナ禍の最中、グリーンでサスティナブルな設備に対す需要が高まったことから、このような設備を取り入れ、強調していくことも重要だと述べています。さらに、ユニットを保有しているオーナーに対しては、戻りつつある外国人駐在員の需要を取り込むべく、ユニットをアップデートしたり、リノベーションを行ったりする良い機会だろうと提言しています。
■小売
コリアーズは、コロナ後の全国的なリベンジ消費の影響は消え始めているため、モール運営者と小売業者にとっての現在の課題は、入場者数と消費者支出を維持することだと指摘する一方、年末年始のホリデーシーズンの消費増が、これを部分的に相殺するだろうとみています。また、主要ビジネス街の一等地にある実店舗型のモールスペースについては、入居を希望する小売業者は継続的にいるだろうと述べていますが、2024年以降、新規モールスペースの引き渡しが多く予想されていることかあら、空室率は若干上昇する予想です。
コリアーズは、既存のショッピングモール運営者と小売業者に対しては、マーケティング施策を強化し、より多くの客を呼び込み、ホリデーシーズンの消費を取り込むべく、消費を促すために、アクティビティ・センターとしての機能を再活性化し、選りすぐりのイベントを開催すべきだと提言しています。また、今後モールをオープンする予定のデベロッパーに対しては、店舗ミックスを慎重に評価すべきだとも述べています。実店舗への客足は伸びそうですが、フィリピンの消費者のオムニチャネルのショッピング体験を向上させるためには、モール事業者と小売業者がともに協力すべきだとも述べています。
(画像:UnsplashのRobin Kutesaが撮影した写真)
もっと詳しく知りたい方はこちら