2022/04/06
先日の記事「[シンガポール] S-REIT金利上昇に対してヘッジ」にて、シンガポールのREITのギアリング比率は平均37.4%で、規制上の上限50%を十分下回っており、今後新たな資産を取得する際の借入の余地を残しているとご紹介しました。
では、2020年8月のアヤラランドのREIT「AREIT」を先頭に、各社参入を始めているフィリピンREITはどうなっているのでしょうか。
先日、ビスタランドがREITの株式売り出しを届け出たニュースもお伝えしていますが、まずは、現時点で上場しているREIT各社のおさらいをしていきます。
1.AREIT, Inc.(AREIT)
AREIT, Inc. (AREIT)は、2006年9月4日、もともとは不動産会社「One Delta Rosa Property Development, Inc.」として設立されました。現在の名称に変更されたのは、2019年4月12日です。
同社は現在、収益を生む不動産への投資を主な投資戦略とする不動産投資信託(REIT)として運営されています。スポンサーはアヤラランド社(Ayala Land, Inc.)です。投資基準として、物件がメトロマニラまたはフィリピン国内の主要な州の一等地に位置していること、主に商業ビルであること、安定的な稼働率・借用期間、収入業務を持っていることを挙げています。
2020年12月31日時点で、同社のポートフォリオはメトロマニラ・マカティ市の商業ビル3棟(ソラリス・ワン、アヤラ・ノース・エクスチェンジ、マッキンリー・エクスチェンジ)とセブ市の1棟(テレパフォーマンス・セブ)です。これらのビルが建っている土地は、同社の所有ではなく、ポートフォリオにも含まれていません。
2.DDMP REIT, Inc.(DDMPR)
DDMP REIT, Inc.(DDMPR)は、2014年10月27日、パサイ市の4.75ヘクタールの複合用途開発「DDメリディアンパーク」を建設する目的で設立された不動産会社です。
DDMPRの主な投資戦略は、収益を生む不動産への投資です。投資基準として、メトロマニラまたはフィリピンの主要な州の一等地に位置していること、主にグレードA商業物件(工業物件含む)であること、そして安定的な稼働率・借用期間、収入業務を持っていることを挙げています。
DDMPRのポートフォリオには、現在DDメリディアンパーク内の3軒の商業物件(ダブルドラゴン・プラザ、ダブルドラゴン・センター・イースト、ダブルドラゴン・センター・ウェスト)があります。これらの物件が建っている土地は、同社が所有し、会社の資産ポートフォリオを構成しています。
3.Filinvest REIT Corp. (FILRT)
Filinvest REITは、2000年1月14日に証券取引委員会に登録されました。営業開始は2001年で、経済特区施設企業(economic zone facilities enterprise)としてフィリピン経済特区庁(PEZA)に登録されています。FILRTは、2021年7月2日、もとの会社名「Cyberzoen Properties, Inc.」から、現在の名称に社名変更しています。
FILRTの主な投資戦略は、収益を生む不動産への投資です。投資基準として、メトロマニラまたはフィリピンの主要な州の一等地に位置していること、主にグレードA商業物件(工業物件含む)であること、そして安定的な稼働率・借用期間、収入業務を持っていることを挙げています。スポンサーは、フィリンベストメント・ランド社(Filinvestment Land, Inc.)です。
FILRTのポートフォリオには、現在17のオフィスビルがあります。うち16棟は、メトロマニラのモンティンルパ市に、1棟はセブ市にあります。16棟のオフィスビルが建っている土地は、FILRTがスポンサーから賃貸しているものです。セブの物件「セブタワー1」が建っている土地は、セブ州政府の持ち物で、BTO方式を使って同社が運営しています。
*BTO方式=BTO(Build Transfer and Operate)方式 =民間事業者が施設を建設し、施設完成直後に公共に所有権を移転し、民間事業者が維持管理及び運営を行う方式。
4.RL Commercial REIT, Inc.
RL Commercial REIT, Inc.は、1988年5月16日、Robinsons Realty and Management Corporationとして、不動産全般の、購入・賃貸・その他による取得、投資・その他のための所有・開発・売却・抵当権設定、賃貸、保有を目的として、証券取引委員会に登録されました。2021年4月15日、証券取引委員会は、現在の会社名への変更および不動産投資信託としての主な事業目的の変更を承認しました。
RCRの主な投資戦略は、長期的に、主にオフィス用に賃貸され、国内の主要な中心業務地区および主要都市に位置する、収益を生む不動産資産の多様なポートフォリオに投資することです。スポンサーは、Robinsons Land Corporation(RLC)です。
2021年4月15日、RCRとRLCの間で譲渡証書が交わされ、フィリピン国内のビルやコンドミニアム複数軒(それらが建っている土地は除く)が、株式の発行と交換に譲渡されました。譲渡された物件は、Cyberscape Alpha、Cyberscape Beta、Tera Tower、Cyber Sigma、Exxa-Zeta Tower、Robinsons Cybergate Cebu、Robinsons Galleria Cebu、Robinsons Place Luisita 1、Cybergate NagaそしてCybergate Delta 1の建物および関連不動産、Robinsons Equitable Towerのコンドミニアムユニット96戸、Robinsons Summit Centerのコンドミニアムユニット31戸です。
RCRの当初ポートフォリオは、上記の譲渡を受けた物件に加えて、マンダルヨン市のRobinsons Cybergate Center 2とRobinsons Cybergate Center 3の合計14物件で構成されています。譲渡を受けた物件のうち9物件が建つ土地は、RCRがスポンサーから賃貸しているもので、Cyber Sigmaはフィリピン共和国基地転換開発公社(Bases Conversion and Development Authority)とのリース契約です。
5.MREIT, Inc.(MREIT)
MREIT, Inc.は、2020年10月2日、投資持株会社として投資活動に従事する目的で、Megaworld Holdings, Inc.として証券取引委員会に登録されました。2021年4月7日、証券取引委員会は、社名変更と主たる事業目的を不動産投資信託とすることを承認しました。
MREITの主な投資戦略は、収益を生む不動産への投資です。投資基準として、メトロマニラまたはフィリピンの主要な州の一等地に位置していること、主にグレードAオフィスおよびリテール物件であること、安定的な稼働率・借用期間、収入業務を持っていることを挙げています。スポンサーは、Megaworld Corporationです。
MREITのポートフォリオには、現在、タギッグ市、ケソン市、イロイロ市の中心業務地区に位置する10軒のオフィス、ホテル、リテール、その他物件で構成されています。これらの物件すべてがMREITの所有ですが、土地はスポンサーから50年という期間で賃貸されています。
6.Citicore Energy REIT Corp.(CREIT)
Citicore Energy REIT Corp.は、2010年7月15日、Enfinity Philippines Renewable Resources, Inc.として証券取引委員会に登録されました。主な事業目的は、再生可能資源の探索、開発、そして利用です。特に、太陽光発電と風力発電に力を入れています。さらに、発電所および関連施設の設計、建設および運営も行っています。
2015年10月16日、同社は共和国法No.9513(2008年再生可能エネルギー法)に基づく太陽エネルギー資源の再生可能エネルギー開発業者として、投資庁に登録されました。
同社は、2021年10月12日、証券取引委員会の承認を得て、現在の社名に変更、主たる事業目的を不動産投資信託へと変更しました。
CREITの主な投資戦略は、収益を生む再生可能エネルギー不動産物件に投資することです。投資基準として、太陽光発電所を中心とした再生可能エネルギー物件であること、CREITが資源の入手可能性および将来のタウンシップ開発の候補エリアとなりうることを検証した、未開発のエリアに位置していること、そして発電所のテストと試運転が成功した再生可能エネルギー発電所のサイトであることを挙げています。スポンサーはCiticore Renewable Energy Corporation (CREC)およびCiticore Solar Tarlac 1, Inc.です。
CREITのポートフォリオには、現在、パンパンガ州クラーク経済特区(Clark Freeport Zone)の太陽光発電所1軒と太陽光発電事業者に賃貸されている土地で構成されています。クラーク経済特区の太陽光発電所は、クラーク開発公社から25年リースをうけた土地の上に建設されています。賃貸されている土地は、同社が所有するタルラック市アルメニアの土地区画、タルラック市ダラヤップ、セブ州トレド市、西ネグロス州シライ市の土地区画の借地権で構成されています。
2021年10月13日、CREITは、クラーク経済特区にある発電所の太陽光エネルギー供給契約を、親会社CRECに譲渡し、CRECが発電所の賃貸主となりました。賃貸契約は、2021年11月1日から約18年間有効です。
フィリピンREIT各社のギアリング比率は?
では、次に各社のギアリング比率です。ギアリング比率とは、自己資本に対する他人資本(負債)の割合をいいます。 つまり、自己資本に対し、何倍の他人資本を使用しているかを示すものです。「負債比率」や「レバレッジ比率」とも呼ばれ、企業財務の健全性(安全性)を見る指標の一つとなっています。
では、各社の財務情報を見ていきます。フィリピン証券取引所(Philippines Stock Exchange)のウェブサイトから、入手できる最も新しい財務データを使用しています。
このように並べてみると、各社とも数字が低いことが分かります。FilinvestREITだけ負債が多く見えますが、同社のウェブサイトによると、前身のCyberzone Properties社が2017年7月7日に発行した社債60億ペソ(2021年9月30日時点の残高は59.8億ペソ)のようです。
▼フィリピンREIT各社のギアリング比率比較
(フィリピン証券取引所のウェブサイトより、PropertyAccess作成)
さて、以下に示すのはJ-REITのLTVです。LTV(有利子負債比率)とは、自己資本に対して有利子負債がどの程度あるかを示す比率です。J-REITでは、LTVが40%~45%未満の会社が最も多いようです。上記で述べたフィリピンREITのギアリング比率では、有利子負債以外の負債も含めた総負債で計算していますので、フィリピンREIT各社のLTVは、そこからさらに低い数値になることが分かります。
▼J-REIT全体のLTV(有利子負債比率)の分布と平均水準(出所:J-REIT)
フィリピンREITは最初のAREITの上場からまだ2年も経っていない若い市場です。各社、さらなるポートフォリオの拡大を計画しているようですので、今後の変化にも注目していきたいところです。
(出所:Philippines Stock Exchange, REIT各社ウェブサイト、J-REIT)
(画像:Photo by Nikko Balanial on Unsplash)
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