2020/09/07
[フィリピン] 失業率過去最高を脱する
フィリピンの失業率および不完全雇用率は、ロックダウンによる規制の緩和に伴い、4月の数値より7月の方が改善したことが分かりました。しかし、前年同月比では依然として高い状態です。
フィリピン統計局の2020年7月の労働力調査(Labor Force Survey)の速報値では、失業率は10%、2020年4月の記録的な失業率17.7%と比較すると低下してきていますが、2019年7月の5.4%と比較すると依然として高い状態です。
▼フィリピン統計局速報値
(項目上から、15歳以上の人口、労働力率、就業率、不完全雇用率、失業率)
絶対的な数値でいうと、457.1万人のフィリピン人が現在失業中で、2020年4月の725.4万人よりは少ないものの、2019年7月の243.7万人と比較すると2倍弱となっています。
同様に、就業中だが、より多くの仕事、またはより長時間の仕事を探している人口を示す、不完全雇用率は17.3%で、2020年4月の18.9%より下がったものの、2019年7月の13.6%よりは高い状態となりました。
これは、713.7万人のフィリピン人が不完全雇用中ということになり、2020年4月の638.8万人、2019年7月の579.9万人より多い状態です。
労働力人口は、15歳以上のフィリピン人7406.1万人のうち、約4587.7万人となりました。就業者数と完全失業者数とを合わせた労働力人口が15歳以上の人口に占める割合である労働力率(LFPR)は61.9%となります。これは、4月の55.6%より高いものの、昨年の62.1%よりは低い結果となりました。
15歳以上の人口における就業者の割合を示す就業率は、90%となりました。4月の82.3%から上がりましたが、前年同期の94.6%には届きませんでした。就業中のフィリピン人は、4,130.6万人となり、2020年4月は3,376.4万人、2019年7月は4,252.1万人でした。
サービス業に従事するフィリピン人は54.8%となり、4月の57.1%から下がりました。一方で、農業に従事する就業者の割合が25.9%から26.3%へ、工業に従事する就業者の割合が17%から18.8%へと上昇しました。
2020年7月の平均労働時間は、週当たり38.2時間で、2020年4月の35時間から増加しましたが、2019年7月の41.8時間よりは少ない状態となっています。
フルタイム、つまり週に40時間以上勤務する人の割合は、2020年7月時点で就業中の人口の56.1%を占めました。こちらは、2020年4月の29.2%と比べると大幅に増えました。しかし、2019年7月の67.9%と比べるとまだ低い状態です。
パートタイムで働く人の割合は40.6%となり、2020年4月の32.4%、2019年7月の31.3%と比較しても増加しました。
7月の失業率は、地域によって大きく異なります。最も低かったのはバンサモロイスラム教徒ミンダナオ自治地域の3.8%、最高はマニラ首都圏の15.8%となりました。
不完全雇用率についても、バンサモロ自治地域が最低の9%を記録した一方で、西ミンドロ州、東ミンドロ州、マリンドゥケ州、ロンブロン州、パラワン州を含むミマロパ地方は最高の27.2%を記録しました。
統計局の声明で、社会経済企画長官代理のカール・ケンドリック・チュア氏は、2020年7月の結果について、「隔離措置の制限レベルと労働市場の結果に直接的な関係があることを示している」と述べています。
「2020年5月前半、フィリピン経済の78.8%が強化されたコミュニティ隔離措置(ECQ)のもとに置かれました。結果として、GDPと失業率は過去最悪レベルとなりました。対照的に、2020年7月前半は、ECQに置かれていたのは経済の2.1%にすぎませんでした。この結果、失業率は大幅に減り、約750万の職が戻りました。」
ING銀行マニラのシニアエコノミスト、ニコラス・アントニオ・マパ氏は、労働市場の全体的なトレンドは、景気回復のペースにならうだろうと述べています。
「2020年7月、限定的ではありますが、多くの労働者が職を見つけることができたため、不完全雇用率に改善が見られました。これは、雇用者の中に、以前に雇用していた者を限定的な条件ではあるけれども雇い直すなどの動きがあったと思われます。能力を半減させて営業しているものや、営業時間を減らして営業している企業もあり、このような部分的なロックダウンが、失業状態から不完全雇用状態への移行として現れたのでしょう。」
フィリピン経営者連盟(Employers Confederation of the Philippines (ECoP))のセルジオ・オーティズ-ルイス会長は、規制が緩和されても、回復が遅れているのには、一部の会社が公共交通機関の不足により、労働者の再雇用に至っていない場合があることを挙げています。
2022年までにコロナ前のレベルまで戻れるか?
今年これまでに3回行われた労働力調査で、失業率は平均して11%となっています。
チュア社会経済企画副長官は、来年240~280万の新規雇用が生まれると想定し、来年の失業率は6~8%程度まで下がると予想しています。
2021年予測も、新型コロナウィルス(Covid-19)の封じ込めに成功し、隔離措置の制限がさらに解かれ、政府の景気回復プログラムが早急に実施される前提です。
チュア副長官は、来年ワクチンが手に入るようになれば、2022年には失業率はさらに4~5%程度にまで下がると予想しています。2019年の失業率は5.1%でしたので、これが達成できれば、コロナ前のレベルに戻れることになります。
この最新の失業率予測は、開発予算調整委員会(Development Budget Coordination Committee(DBCC))の2020年7月28日時点の予測である2021年7~8%、2022年8.5%~9.5%より低いものになっています。
「傾向は回復方向です。Uターン的な回復は見込んでおらず、ワクチンが来年央か第3四半期ぐらいに手に入ることを前提として、2022年までには失業率4~5%程度にまで戻ると予想しており、これは我々の目標でもあります。」とチュア副長官はレポーターに向けて会見の中で述べています。
同じ会見で、フィリピン中央銀行(BSP)のフランシスコ・ダキラ副総裁は、この7月の結果が不確定要素を減らし、銀行の貸付基準緩和を促すのではないかとコメントしています。44四半期連続でほとんど変わらなかった信用基準ですが、BSPの調査で、国の大部分が厳しいロックダウン状態に入った2020年第2四半期、多くの銀行が貸付基準を強化したことが分かっています。
ユニオンバンクのチーフエコノミスト、ルベン・カルロ・アスンシオン氏は、経済が再開し、国内需要が回復しようとする中、雇用も「生ぬるい」状態が続くと述べています。アスンシオン氏は、失業率がさらに改善するためには、有効なワクチンの発見と入手がキーだと述べています。
アジア経営研究所(Asian Institute of Management)のエコノミスト、ジョン・パオロ・リヴェラ氏は、フィリピンの労働市場の回復には時間がかかると言います。リヴェラ氏は、「厳しいコミュニティ隔離措置が行われ第2四半期は最悪だった。しかし、あわててはならない。パンデミックを封じ込めるため、国民一人一人が協力して行動するかどうかにかかっている。」と別のEメールでBusiness Worldに回答したということです。
(出所:Business World)
(トップ画像:Razvan Chisu on Unsplash)
もっと詳しく知りたい方はこちら