[カンボジア] プノンペン不動産市場2023年3Q:オポチュニティと課題

2023/11/22


事業用不動産サービスCBREカンボジアが発表した2023年第3四半期レビューでは、プノンペンの不動産市場のオポチュニティと課題の両方が明らかになりました。



カンボジア経済は、2023年の経済成長率が5.3%、2024年には6%を超えると予想されており、他国と比較しても堅調なパフォーマンスです。



CBREカンボジアのカントリー・ディレクターであるローレンス・レノン氏は、グレードAオフィスを中心にオフィスの稼働率が上昇しているだけでなく、賃貸料も安定してきていると述べています。また、家主は顧客知識とターゲットを絞ったマーケティングの重要性を強調しました。



また、中国の不動産市場で起こっている問題が、特にカンボジアへの外国直接投資(FDI)に波及効果をもたらしているとも指摘しています。アメリカやヨーロッパにおける、カンボジアからの輸出品に対しる購買意欲の減退とも相まって、カンボジアの可処分所得に影響を及ぼしており、ひいてはカンボジアの観光業や製造業にも影響を及ぼしていると説明しています。



一方で、カンボジアの政治面については、今年8月22日に就任したフン・マネット新首相政権のスムーズな立ち上がりは、投資環境にとって心強いことだと前向きな見方を示しています。多くの投資家が、新政権の政策に期待を寄せており、短期・中期的な成長の原動力になるとして、カンボジアが現在直面している経済的な逆風を新政権の政策がある程度相殺する可能性があるとも述べています。



また、キャピタル・ゲイン課税の施行延期の不確実性が市場に複雑なシグナルを送ることになるとも述べています。キャピタル・ゲイン課税は、経済財政省の省令No.346に基づき、キャピタルゲインに対して一律20%を課すというものですが、現在、経済財政省はその施行を2024年まで延期すると発表しています。一方で、明るい話題としては、現在進行中のインフラプロジェクトを挙げています。今後数年間で約300億ドルのインフラ投資が見込まれており、新しい空港や主要高速道路が完成することで経済の後押しが期待されると述べています。



■オフィス不動産


CBREのバリュエーション&アドバイザリー・サービス・シニアマネージャーのダルーチ・チン氏は、プノンペンのオフィスセクターについて、過去7年間で初めて、今期は新規立ち上げや竣工が見られなかったと述べています。しかし、新規立ち上げが竣工が一時停止したことで、市場の稼働率が回復する余地を与えるので、実際にはポジティブな展開だと述べています。現在の平均稼働率は64.2%で、入居率を上げるために家主が価格を下げるようになってきているということです。



今後について、CBREは、プノンペンのオフィス供給が約100万平方メートルに達すると予測しています。ダルーチ氏は、賃貸料を安定してきており、グレードAのオフィスは1平方メートルあたり26ドル前後、グレードBは22ドル前後、グレードCは15ドル以下で推移しているということです。



また、オフィスシーンに影響を与える3つの主な市場動向として、①質への逃避、②よりオフィスらしいフォーマルなスペースへのシフト、③健康、安全、そしてESG(環境、社会、ガバナンス)要件の重要性の高まりを挙げています。



賃料が下がってきているので、より良いオフィススペースへのアップグレードを検討するテナントが増えていること。また、手ごろな賃料に加えて、プロの不動産管理サービスも、よりフォーマルなオフィス環境へ移転する動機付けになっていると言います。さらに、ESGの遵守はもはやオプションではなく、標準になってきているので、国際的な大企業を誘致するためには、ESG要件の遵守が重要だとも述べています。




■小売


前述のダルーチ氏によると、小売部門の不動産についても、2023年第3四半期の新規立ち上げや竣工がなかったということで、こちらは5年ぶりのことだと述べています。これについても、ダルーチ氏は、小売市場にとってポジティブな展開であり、「市場供給が追いつくことができる」と評価しています。稼働率は下降傾向にあり、現在は68%前後で推移しているということです。消費者の可処分所得の減少など、様々な要因が重なっていると分析しており、今後もプロジェクトがさらに遅れることが予想されると述べています。平均賃料相場も減速しており、一等地の店舗スペースで平米当たり26ドル前後、コミュニティモールで20ドル以下となっています。



CBREによると、今期は主に飲食店を中心に、29ブランドの新規進出と24ブランドの撤退がありました。ダルーチ氏によると、これらの変化は、小売セクターに影響を与える3つの重要な市場動向と一致していると言います。①家主は来店客を増やすため、頻繁なマーケティング活動に投資している、②売上高の減少に直面している小売業者がますます慎重になっているため、ブランド拡大が減速している、そして③新規プロジェクトの継続的な遅れを挙げています。2023年に予定されていた小売スペースの約半分は、激化する競争と低迷する賃貸活動により工事が遅れているということです。




■コンドミニアム市場

CBREのコンドミニアム部門を担当するキンケサ・キム氏は、今年の新規プロジェクトが明らかに減速していることを指摘しています。キンケサ氏によると、新規立ち上げは、タイムズスクエア6のみで、第3四半期に竣工したのはプリンス・ホァンユー・センターです。これについて、必ずしもトラブルの前触れではなく、市場が既存の供給を吸収することを可能にするものだと分析しています。



プノンペンのコンドミニアム市場は、プロジェクトが120件超、総戸数6万戸と、強固なポートフォリオを維持ししているとキンケサ氏は述べています。価格も、高級コンドミニアムが平米あたり2,700ドル、中級が2,200ドル、手頃な価格帯のもので1,500ドル弱と、全体的に安定していると述べています。一方で、2021年以降、前年比で価格が下落しているデベロッパーにとっては、この価格の安定は課題であるとも述べています。



キンケサ氏は、市場動向については特に2つの変化がみられると述べています。①デベロッパーはますます値ごろ感を重視するようになり、国内バイヤーをターゲットにしていること、②大量購入の機会を狙う投資家が、在庫や二次販売を注意深く検討しているということです。このような傾向は、今後数四半期に渡ってプノンペンのコンドミニアム市場を形成していくだろうと述べています。



オンラインニュース「Cambodia Investment Reveiw」は、「キム氏の洞察から、プノンペンのコンドミニアム市場は、慎重な楽観主義を維持しながらも、新たな経済的現実に適応しつつあることが明らかになった。業界は、需要のシフトに適応することで、より持続可能な成長へと舵を切り、長期的によりバランスの取れた市場を形成している。」と述べています。




■土地付き不動産


CBREによると、一戸建てプロジェクトは、2023年第3四半期に、3件の新規発売と7件の竣工がありました。主にハイエンド・セグメントに偏っており、手頃な価格帯のセグメントではほとんど動きがなかったということです。この背景には、低所得者層に影響を及ぼしている継続的な経済的な圧力と関連している可能性があるとCBREは分析しています。



プロジェクトの竣工のペースが遅いことも注目されています。CBREによると、今期の竣工見込みの50%に遅れが出ているということです。この背景として、コンドミニアムと異なる横長の設計スタイルと、最近の販売状況の低迷が関係していると説明しています。



また、土地付きの不動産市場では、需要と供給のミスマッチによる価格是正が起こっています。CBREによると、平均相場は800~1,200ドルで、2021年比で約15%の大幅下落となっており、ここ数年の供給増と現在の需要の大幅な鈍化の組み合わせによるものだろうと説明しています。



土地付き不動産市場における新たなトレンドは、①マーケティングと②リスク要因における変化です。CBREは、「ボレイ(集合住宅)では、コミュニティ・イベントが増えており、住民の目に触れる機会が増えている一方で、市場の需要が弱まり、キャッシュフローが枯渇するにつれて、流動性リスクが大きな懸念材料になりつつある」と指摘しています。




(出所:CBRECambodian Investmetn Review

(画像:UnsplashのPaul Szewczykが撮影した写真)