2020/09/04
[ベトナム] 新たな投資を呼び込む新しい市の設立計画
ベトナム政府はホーチミンシティの東部に新しい市を創設することで基本的に合意、国内外の投資家から莫大な資金が調達できるとみられています。
ホーチミン市の人民委員会グエン・タイン・フォン会長によると、2区、9区、トゥドゥック区を合併してトゥドゥック市とする計画が、ホーチミン市の経済はもちろん、ベトナム南部全体の経済を後押しするとみられています。
2020年1月、アメリカの設計事務所ササキと、シンガポールとベトナムを拠点と国際的に企画・設計などを行うenCity(エンシティ)とのコラボレーションが、革新的な「トゥドゥック市」を開発するための設計を担当すべくホーチミン市当局により選定されました。
ササキの原則・都市設計者ロミル・シェス氏は、ホーチミン市は、大学・産業界・政府の3 者によるトリプルへリックス(三重螺旋)の相互作用により、コミュニティ・社会を革新的な活動の中心に置くことでさらに発展できる可能性があるだけでなく、生態系・環境のレジリエンスを長期的に高めていけると述べています。
このプロジェクトは、ベトナム南部の高まる洪水リスクを考慮に入れ、4つの主要なアプローチ(①大規模な工業の移転・投資の活用、②すでに高地にあるベトナム国立大学の既存の土地の活用、③近年の公共交通投資を基礎とする、④既存の景観の吸収能力を保ちつつ、市街地の価値を高める)を導入してます。
投資の誘致
2020年8月末に行われたホーチミン市・米国ビジネスサミットで、ホーチミン市人民委員会のズオン・アイン・ドゥック副主席は、米国の投資家は少なくとも市の3つの大規模プロジェクトに興味を示していると述べています。これらのプロジェクトとは、トゥドゥック市の設立、ホーチミン市のスマートシティ化、そして国際金融センターです。
ホーチミン市党委員会グエン・ティエン・ニャン・ホーチミン書記は、これらの3つのプロジェクトへの投資は大きなチャンスとなりうると話しています。「ホーチミン市は労働集約度の高いベトナム最大の都市です。これらの3つの大規模開発プロジェクトは、投資に最適です。市委員会は最高のインセンティブとサポートを提供します。」と述べました。
革新的な都市をめざし、トゥドゥック市は、双方向性技術、ハイテク製造、フィンテック、学問・研究、健康・ウェルネス分野における国内外の投資を募る予定です。
210平方キロメートルの敷地に位置するトゥドック市は、ホーチミン市のGDPの30%に貢献すると見積もられています。これは、国のGDPの4~5%に相当します。まだ設計段階ですが、これらの3つの地区は、すでにバイヤーや投機家から人気となっています。
将来のトゥドゥック市の中心となる、チュオン・トー村の「センターホーム・リバーサイド」プロジェクトは、販売開始から間もなく、50戸のタウンハウスのほとんどが52億ドン~90億ドン(約2,400万円~約4,100万円)で売り切れました。
2区のアンプ―・ニューシティでは、タウンハウスの価格が1か月前は平米あたりの単価が1.5億ドン(約69万円)だったのが、2億ドン(約92万円)に跳ね上がりました。
特に、9区のドン・タン新都市化エリアでは、2019年末には4,500万ドン(約20.7万円)だったタウンハウスの平米単価が今や1.3億ドン(約59.7万円)になっています。
トゥドゥック区のセンタム・ウェルスでは、トゥドゥック・ハウスと韓国のデウォンにより開発されたアパートメントの価格が、平米あたり1,000万ドン(約46,000円)ほど高くなっています。以前は、平米あたり4,300万~4,500万ドン(約19.7万円~20.7万円)ほどでした。他にも、ラヴィタ・ガーデン(Lavita Garden)、シティ・グランド(City Grand)、デルッソ(D'Lusso)、サフィラ・カン・ディエン(Safira Khang Dien)、サイゴン・ゲートウェイ(Saigon Gateway)、ハウスネオ(Hausneo)など、その他のアパートメントプロジェクトも同様の価格上昇が報告されています。
不動産販売ウェブサイト「チョートット(ChoTot)」が行った調査によると、2区、9区、トゥドゥック区のアパートメントの価格は、今年4月と比べて18%増加しています。
センターホーム社のジェネラル・ダイレクター、カオ・ヴァン・チュン氏は、3か月と前と比べても、オフィスを訪れるバイヤーの数が、5~7倍になったと言います。チュン氏は、Covid-19にかかわらず、未来都市を作るという新しい計画のおかげで、バイヤー、投機家からの関心は高まってきていると述べ、プロジェクト価格も宣言と比べて7%ほど高くなっていると付け加えました。
ホーチミン市東部のインフラ開発
ホーチミン市の東部には、様々なインフラプロジェクトが建設中で、市の不動産市場の中心として知られてきました。
特筆すべきプロジェクトには、南北高速道路、ホーチミンシティ-ロンタイン-ドーダウザイ高速道路、メトロ1号線、環状道路2号線、マイ・チー・トー高速道路、ファム・ヴァン・ドン高速道路があります。
これに加えて、様々なプロジェクトが実施されています。トゥドゥック区とビンタイン区のタイン・ダー半島を結ぶ橋、2区とドンナイ省ニョンチャック県を結ぶカトライ橋、環状道路3号線などです。
新ミエンドン・バスターミナルも完成したばかりで、地域の振興に一役買いそうです。ミエンドン・バスターミナルは、国内最大規模で、敷地面積16ヘクタール、投資額は4兆ドン(約184億円)となっています。
2010年以降、ホーチミン市に投入された投資資本の約70%がしの東部に注がれてきました。2021年から2030年までの市の開発プランでは、インフラシステムの整備に約852.5兆ドン(約3.9兆円)が必要です。
解決すべき新たな問題
しかし、同エリアの急速かつ力強い不動産市場の成長は、バイヤーや投機家に対して警鐘を鳴らしています。
不動産開発コンサルティング・仲介を手掛ける地場系DKRAベトナムのリサーチ・ダイレクター、グエン・ホアン氏は、ベトナム・インベストメント・レビュー紙に対して、「市の中の市」というコンセプトはベトナム初であり、実施に際して国が直面したことのないような障害が出てくるのではないかと話しています。
トゥドック市の設立という初期段階の情報だけをもとに、多くのデベロッパーや投機家がそれをプロジェクトの広告に利用し、価格を吊り上げています。ホアン氏は、「同エリアは、今後5年間で、中所得層以上の人が住むエリアとなるでしょう。低所得層には、エリアの不動産価格には手が出ないからです。未来都市の開発プランには、地元の住民のための低所得向けの住宅も加えるべきです。」と述べています。
さらに、人口密度のための区画制、不動産、建築など、多くの面がまだ設計されていない段階です。そのエリアが投資をするのに魅力的かどうかを投資家やバイヤーが判断するには情報が足りません。
首相の経済顧問チームのメンバーであるチャン・ドゥ・リッチ博士は、トゥドゥック市の設立は単に3つの区を統合するだけではないことを強調しています。「ホーチミン市の東部に革新的な市を設立し、経済発展を促進し、人々の暮らしを向上させるためには、現在の市の中心部と同エリアとの接続性が十分に確保される必要があります。」さらに、この未来都市は、ビンズオン、ドンナイ、ロンアンなど隣接する省の開発計画ともよく連携を取らねばならないと指摘しています。
専門家の反応
グエン・ティ・タイン・フオン氏(ダイ・フック・ランド、ジェネラル・ダイレクター)
ホーチミン市の東部3区を合併してトゥドゥック市を作ることは、同エリアの社会経済的な発展の駆動力となるだろう。また、さらなる職、住宅需要を生み、国内外の投資を誘致する、素晴らしいチャンスである。
国内外の投資家は、短期戦略、長期戦略、両方の投資機会をいつも探している。トゥドゥック市の設立し、新しい経済発展の中心地とすることで、投資資金を集め、同エリアの力強い活力となるだろう。よって、不動産価格も上がるだろうし、入念に計画された、高品質のプロジェクトはバイヤーが殺到しそうだ。
グエン・ディン・チュン氏(フン・ティン・コーポレーション、会長)
トゥドゥック市の設立は、全体的な経済発展、特に不動産において重要な意味を持っている。渋滞と人口過密を緩和するのに役立ち、多くの大学や研究機関が集まるため、専門的な人材を育てることができる。
これは、企業、市民はもちろん、国内外の投資家にとってもオポチュニティとなる。不動産市場にとっても、市が設立されれば住宅需要が格段に増えるため、大きなオポチュニティとなる。
ルオン・テゥ・アイン(ホーチミン市、計画・建築局)
創造性に富んだ都市としての重要な基準は、この未来のトゥドゥック市が、行政の境界を超えて、近隣エリアと接続・連携してソリューションを提供できるよう、発展のために協力できるかだろう。
各エリアにはそれぞれの強みがある。たとえば、トゥドゥック区とホーチミン市には、高レベルな労働力と人材、よりよいインフラシステム、安定したビジネスがある。ビンズオンやドンナイといった近隣の省には、工業発展、労働インセンティブ、安い消費者物価といったところに強みがある。
これは、今後人々の生活を向上させるために、お互いが協力し、ともに発展するというストーリーなのだ。
(出所:Vietnam Investment Review)
(トップ画像:Tony Pham on Unsplash )
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