[フィリピン] 世界銀行、ウクライナ紛争の影響鑑み、成長予測を下方修正

2022/04/18


フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領の経済チームは、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらした消費者物価へのスピルオーバー効果に備えています。世界銀行もまた、2022年のフィリピンの国民総生産(GDP)成長率予測をやや下げて5.7%としています。



パンデミックが落ち着きつつあり、フィリピンは急速に回復の道をたどっている、とカルロス・ドミンゲス財務相は述べています。フィリピン政府がこれまでに行ったGDPの15.6%に相当する3兆ペソ相当のCovid-19対策支援にも支えられ、今年のフィリピン経済は7~9%成長が予測されています。



「楽観的な見方は、ウクライナ紛争による不確実性により翳りが出てきています。すべての国でインフレのレベルが確実に上がるような状況に直面しています。これは主に、石油と消費者物価価格の上昇によるものです。」とドミンゲス財務相は述べています。



しかし、「ドゥテルテ政権は状況を注意深く監視しており、石油と食品価格上昇の影響を軽減すべくできる限りのことを行っている」と国民に対して安心するように呼びかけています。



「人口の下位50%への現金支給に加えて、輸送セクターおよび小規模農家や漁業関係者への燃料補助金や割引などで対応していきます。」とドミンゲス財務相は話しています。



政府は、燃料高騰の影響を大きく受けた人々に対して、総額475億ペソ(約1,151億円)を割り当てる計画です。このうち、414億ペソ(約1,003億円)は、6か月間にわたり世帯当たり500ペソ(約1,200円)相当の無条件現金支給、公共小型トラック(public utility vehicle)の運転手に対して50億ペソ(約121億円)の燃料補助金、そして農家に対しては11億ペソ(約27億円)の燃料割引が含まれています。



ドミンゲス財務相は、記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻を「フィリピン経済の足を引っ張ることになる」と認めています。これら2か国に対する貿易や投資の低迷がフィリピン経済へ間接的な影響を与えると述べています。



フィリピン中央銀行(BSP)のベンジャミン・ディオクノ総裁は、ロシア・ウクライナ紛争によるリスクがありつつも、フィリピンの経済見通しは依然として楽観的な見方が続くものとしています。



世界銀行の東アジア太平洋地域チーフエコノミスト、アーディヤ・マットー氏は、世界銀行が、フィリピンの2022年のGDP成長見通しを、以前の5.8%から下方修正したことを発表しました。世界銀行が発表した数値は、政府の目標幅を下回った状態となります。



2021年12月に発表された世界銀行の成長見通しはすでに「かなりコンサバ」なものでしたが、マットー氏は、「今回の下方修正の理由は主にウクライナ紛争だ」と述べています。



「これは世界全体にとってショックなことであり、フィリピンにも影響を与えると思っています。フィリピンは燃料の純輸入国だからです。輸出および金融の点で、世界の状況に左右される国ですが、フィリピンの脆弱さは他の国よりは少ないです。ベトナムほど輸出に頼っていませんし、マレーシアほど外部金融に頼ってもいません。」




「フィリピンは珍しいのです。価格規制を行っておらず、このような物価上昇に対応するために人々に直接支援を与えることに比較的成功しています。」



しかし、マットー氏は、「域内の他のすべての国と同様、フィリピンにも弱みがあります。エネルギー輸入はGDPの3%を超えています。食料の輸入はそれほどでもなく、GDPの0.5%ほどです。世界的なバリューチェーンに組み込まれているので、金属輸入もまたフィリピンにとって重要です。これらの商品価格ショックがフィリピンに打撃を与えるでしょう。」と加えています。



マットー氏は、フィリピンがCovid-19の封じこめに成功し、これから国を開いていこうとしていたところで、今回の新たな世界的な不確実性が起こったことは不運であり、観光業はまだまだ抑え込まれた状態が続くだろうと話しています。




マットー氏はまた、「フィリピンは観光業に依存してきました。しかし、ソフトウェアその他バックアップサービスを世界に提供できる能力もあります。デジタル化が、より洗練されたサービスを世界に届けるための範囲を広げてくれているのです。」とも述べています。



「フィリピンで非常に有望な構造上のシフトのひとつとしては、観光などのセクターから資源をシフトさせて、デジタルで提供されるサービスに向けること、これらのサービスの提供を通じて成長できる大きな可能性を利用することです。」



「しかし、パンデミックが作った傷跡を癒すべく、教育への投資が必要です。フィリピンでは、学校がかなり長い間休校していましたから。同時に、これらのサービス提供に必要な、ブロードバンド設備に投資をする必要もあります。さらに、個人情報保護法など、国内のニーズと外国の規制上の要求との適切なバランスを保てるような、規制上のメカニズムも整備する必要があります。」とマットー氏は話しています。



フィリピン中央銀行(BSP)のディオクノ総裁にとって、フィリピン経済見通しは、約5兆ペソの2022年国家予算の実施、「ビルド・ビルド・ビルド」インフラプログラムの継続実施、CREATE法の実施、そして大統領令(Executive Order (EO) No.166)に謳われているパンデミックからの景気回復の加速と持続のための10つの政策アジェンダが基礎にあります。総裁は、最近可決された改正公共サービス法も経済成長を促進するだろうと話しています。



「この経済見通しは、部分的には金融デジタル化・金融包摂、そして安定的なインフレおよび経済成長を促す金融環境に向けたBSPの努力にも支えられています。」
 


これらを考慮して、ディオクノ総裁は、BSPは、正常化に向けた戦略として、今年後半を見据えているとして、パンデミックの中で経済にてこ入れするための緩和的な政策からの抜け出すことにも触れました。



いわゆる「パンデグジット(pandexit)」戦略には、市場操作の再調整、流動性供給の巻き戻し、金融緩和の削減、今後の危機に備えたバッファーの構築などが含まれています。



パンデミック後の景気回復に向けた道を作るために、BSPは、主要品目の供給問題に対応するための政策改革の制度化を進めています。これには、金融消費者保護法の施行、デジタル支払法に基づくデジタル支払の推進などがあります。




(出所:Business Inquirer