[マレーシア] MM2Hのルール見直しに関する議論

2021/09/08


マレーシアでは、マレーシア・マイ・セカンドホーム(MM2H)プログラムの下で、ローカルフードや文化の多様性などに魅力を感じた5万人もの外国人が、マレーシアを「マイ・セカンドホーム」にすることを選択しました。


MM2Hを通じて、マレーシアに住むにあたって様々な便宜をを受けられる一方で、外国人は経済に貢献し、その高い期待値に応えるニッチな市場の需要を生み出してきました。


クアラルンプールのスリ・ハルタマスや、ペナンのバトゥ・フェリンギもまた、その戦略的なロケーションや環境という点で、多くの外国人を集めてきたエリアです。


しかし、今回、MM2Hの参加者が満たさなければならない要件に変更があり、MM2Hプログラムにスポットが当たっています。MM2Hビザ保持者および保持予定者の90%超が、この新しい要件に難色を示しているという調査もあります。


政府は、今回の変更は、より質の高い申請者を呼び込むために行われたものだと説明していますが、国内では、コロナ禍の今変更を行うことが本当に適切なのかという意見もあるようです。


国営のBernamaオンラインニュースが伝えているところによると、いくつか論点がありますので見ていきましょう。


1つ目はタイミングです。


国立ウタラマレーシア大学の主任講師ムハンマド・リドゥアン・ボス・アブドゥラ氏は、変更が行われるにしても、段階的に行うべきだ、と唱えています。


ムハンマド・リドゥアン主任講師は、コロナ感染の連鎖を断ち切ろうという努力がなされている中、変更を行うには国内外の経済の回復シナリオを考慮に入れる必要があるとしています。


「急激に変更することはできません。なぜなら、世界的な懸念材料であるCovid-19パンデミックを受けて、労働市場がかなり脆弱な状態だからです。」


国内経済の観点から、昨年初めから続くパンデミックの直接的な影響を受ける人は依然として多く、2021年6月時点の失業率は4.8%、つまり76万8,700人が失業状態です。


よって、ムハンマド・リドゥアン主任講師は、MM2Hプログラムの変更には、経済状況は家計支出、MM2H保有者の現在の状況などを踏まえた、より適切な方針が必要だと述べています。MM2H保有者には、経済界の各方面のプロがいて、国内経済を直接刺激することができることから、方針の改善にあたっては、テークホルダーの意見を柔軟に取り入れるべきだと主張しています。


2つ目は、撤退の可能性が高まることです。


MM2Hの要件の引き締めが発表されてから、現地の外国人向けTEGメディアがMM2H参加者に対して行った調査で、プログラムからの撤退の可能性が高まっていることが明らかになりました。


TEGメディアのアンディ・ダヴィソンCEOは、900人超の既存のMM2Hビザ保持者および予定者に対して行った調査で、回答者の約98%が、新しい条件を満たす意思がないと回答したと話しています。


さらに、ほとんどの人が、100万リンギット(約2,650万円)をマレーシアの定期預金に預ける意思がないと言います。というのも、マレーシアリンギットの下落しており、低金利状況が続いているからです。


新しい条件によって、個人および法人から不安や抗議の声が聞かれているようです。その理由は、新規申請者のみに適用されると思われていた変更が、既存のMM2H保有者にも適用されることになっているからです。


もし既存のMM2H保有者が条件を満たすことができないと、マレーシア経済から大量の資金が逃げ、不動産は売りに出されることになりかねず、マレーシアにとっては良い状況ではありません。


ダヴィソン氏によると、調査に参加した約500人の予定者、つまり97.5%が、新しい条件のもとでは、MM2Hプログラムに申請しないと答えているようです。


3つ目は、経済への波及効果です。


Bernamaが報じているところによると、内務省のデータとして、2002年から2019年の間に、ビザ料金、不動産購入、個人自動車購入、定期預金および月々の家計支出などを通じたMM2Hのマレーシア経済への効果は、118.9億リンギットに上るといいます。


マレーシア観光局(Tourism Malaysia)の2017年のデータでは、60歳から69歳のMM2H保有者は、マレーシア国内各所に10~12か月滞在しています。これらの保持者の多くは、日本、英国、オーストラリア出身の人たちです。


これらの人々が支出した金額は月額平均6,030リンギット(約16万円)、マレーシア経済への貢献額は年間16.8億リンギット(約445億円)になります。


しかし、今回の新しいMM2Hの条件が導入されるのは、国の不動産業界が供給過多問題に直面している時期です。


最新の条件では、MM2Hビザ保有者は、少なくとも月額所得が4万リンギット(以前は1万リンギット)、流動資産が150万リンギットあることを証明(以前は30万~50万リンギット)、定期預金を少なくとも100万リンギット保有し、国内に年間90日は滞在することとなっています。


今回MM2Hの条件を見直すにあたって、内務省は、条件が2002年から変わっておらず、見直しは、マレーシアに居住する外国人が質が高く経済に貢献できる人たちであることを保証するのが目的だと説明しています。


ウタラマレーシア大学のウォン・ウェイ・チュアン准教授は、プログラム参加者の要件を改善する一方で、プログラムそのものの競争力や魅力も改善する必要があると指摘します。


マレーシアにはユニークな部分がたくさんあるものの、競争力は保つべきだというのが准教授の主張です。富裕層をマレーシアに誘致するような計画を作成するために、ステークホルダーをしっかりと巻き込んでいかないと、タイやシンガポール、インドネシアといった近隣諸国にMM2Hから発生する収益を奪われることになるだろうと述べています。


▶関連して読む
[マレーシア] MM2Hプログラム10月に再開



(出所:Bernama

(画像:Image by Engin Akyurt from Pixabay)