2021/01/07
[マレーシア] 高速鉄道(HSR)のキャンセルは「観光業界にとっては不幸中の幸い」
クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道(HSR)のキャンセルは、マレーシア国内の観光業界にとっては、不幸中の幸いだとされています。
マレーシア旅行業協会(Malaysian Association of Tour & Travel Agents、MATTA)のタン・コク・リアン会長は、HSRができていたら、マレーシア国内の空港やクルーズ船用の港は、主要な交通の拠点になるどころか、単なるサブ的な存在になっていただろうと述べています。
「観光業が引き潮の今、シンガポールを通してではなく、国内の主要な空港やクルーズ船用の港への直行便が必要です。」
「高速鉄道が実現すれば、観光客もビジネスマンもシンガポールを渡航時のハブとして使用するようになるでしょう。そうすれば、主要航空会社は、クアラルンプール国際空港(KLIA)の乗り入れをやめてしまいます。」
「つまり、HSRは実際には、マレーシアの観光収入を使って、シンガポールの主要な交通ハブとしての地位を固めることになるのです。」
マレーシア観光委員会(Malaysia Tourism Council)のウザイディ・ウダニス会長もまた、HSRを終了するという政府の決定を支持し、タイムリーな動きだと表現しています。
「マレーシアはシンガポールに対して賠償金を支払わなければいけないですが、プロジェクトが国内の観光業に与える長期的な影響を考慮するならばリーズナブルな結論だと思います。」
「HSRが実現していたら、航空各社はKLIAよりも、シンガポールのチャンギ空港に飛びたがるでしょう。そうすれば、国内観光市場を冷え込ませるだけでなく、観光業界が長期的にシンガポールに大きく依存する形になってしまいます。」
マレーシアインバウンド観光協会(Malaysian Inbound Tourism Association)の会長でもあるウザイディ氏は、国内空港に力をつけさせて、マレーシアを世界的な交通のハブにするためのインフラ開発をしていくことを、政府に対して要請しています。
「プロジェクトの終了は、国内観光業界の自立に向けた機会を与えてくれました。政府は、ジョホールバルのセナイ国際空港をシンガポールのチャンギ空港に匹敵するレベルにアップグレードして、高速鉄道でKLIAとつなぐべきです。マレーシアの国内観光市場は大きく、非常に有望です。綿密な計画と十分なリソーセスをもってすれば、マレーシアはアセアン地域の国際的な交通ハブになりうるポテンシャルを備えています。」
一方で、プロジェクトのキャンセルは、一部のジョホール住民にとっては驚きの結果となりました。
特に、シンガポールで働く、またはシンガポールに通勤しており、HSRプロジェクトの発表があってから、ジョホールに住居を購入した人たちです。プロジェクトは、シンガポールとの接続性を強化することで、ジョホール経済にスピルオーバー効果をもたらすことが期待されていました。
HSRはキャンセルとなりましたが、ジョホールとシンガポールを結ぶセカンドリンクの交通渋滞の緩和への貢献が期待されている高速輸送システム(RTSリンク)は順調に進んでいるようです。
RTSリンクが発表されたのは、2010年で2024年末の完成が予定されていました。しかし、2019年、マレーシア側の見直し要求を受けていったんプロジェクトは停止しましたが、2020年7月に正式に再開しています。
完成すれば、この4キロメートルのリンクによりジョホールバルのブキット・チャガル・ターミナル駅とシンガポールのウッドランズ・ノース・ターミナル駅がつながり、2駅間の所要時間は5分となります。
オンラインニュース「Straits Times」によると、2021年1月5日時点のシンガポール交通省の話として、すでにジョホールバル側の鍬入れ式は済んでおり、シンガポール側ももうすぐ鍬入れ式を執り行うということです。最新の計画通りにすすめば、2026年には完成し、運航開始となります。
(出所:New Straits Times、Straits Times)
(トップ画像:Photo by Afifi Zulkifle on Unsplash )
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