[マレーシア] オーバーハング問題で浮上した空室税(Vacancy Tax)の導入論

2020/10/08

[マレーシア] オーバーハング対策で浮上した空室税(Vacancy Tax)導入論


マレーシア住宅・地方政府省のズライダ・カマルディン大臣は、過去5年~10年の間に起こっている不動産の「オーバーハング」状態への対策として、オーストラリアやカナダで採用されている空室税についての議論が続いていることを明かしています。


オーバーハングとは、建設工事が終わり完成済みの住宅が売れ残っている状態を指します。


提案されている空室税(Vacancy Tax)は、50万リンギット以上のハイエンド物件について、一定期間内に売り切れない場合には、販売価格の一定割合を税金としてデベロッパーに課すものです。


ズライダ大臣は、マレーシアが供給過多の状態に直面していることに同意、これは多くのマレーシア人に手の届かないような価格設定が問題であると指摘しています。大臣は、Covid-19の出現により、多くのデベロッパーが将来の見通しが十分でなかったことを実感しているはずだとして、現在、デベロッパー各社に対して、手ごろな価格帯の住宅の建設を進めるように呼びかけています。


一方で、現在のCovid-19パンデミックによりさらに減速する不動産市場において、一定期間内に物件を売り切れないデベロッパーに課税することはタイムリーではない、という声もあります。デベロッパーは立地、価格設定、商品そのものの決定を間違えたことで、売れ残った物件を抱えることになり、すでに金利や維持費用を負担して「ペナルティ」を課された状態になっているからです。


カナダやオーストラリアのVacancy Tax(空室税)は、売却済みでも空室となっているユニットに対して税金が課されるというものです。


一方で、シンガポールは、Temporary Occupation Permit(建物が完成し、入居できる状態にするために取得される許可)から2年間売れ残りとなっているユニットついて、デベロッパーに対して税金を課しています。


空室税を課しているこれらの国では、不動産投機を抑制するために税金を導入しています。マレーシアで起こっているのは供給過多であり、課税をすることでデベロッパーにとって二重の打撃になりかねないので、実際に課税に踏み切る決断をする前には、きちんとフィージビリティスタディ―をする必要があるとの指摘もあがっています。


デベロッパー各社は既存の在庫の価格を見直し、新規物件の販売価格を下げてくると見られるため、今後価格は全体的に下がることが予想されています。新築、中古、賃貸、それぞれの市場で競争が激化することが予想されています。また、バイヤーも、空室税を受けてデベロッパーが投げ売りを始めることを見込んで、2021年まで購入を控えることもありそうです。


国家不動産情報センター(NAPIC)のデータによると、2020年前半期終了時点で、マレーシア国内のオーバーハング状態の住宅は31,661戸、200億リンギット相当で、2019年後半期の30,664戸から3.3%増、188億リンギット相当から6.4%増となりました。



■2021年施行はなさそう

2020年8月に議会で話題に上ってから、関係者の間で議論が行われているこの空室税ですが、来年に施行されることはなさそうだとThe Edge Marketは報じています。


同ニュースでは、ハイエンド物件の売れ残り問題への対応を考える上で浮上したものであり、住宅・地方政府省によりまだ検討がされている段階で、2021年施行はないと報じています。ズライダ・カマルディン大臣は、B40、M40の所得層に属する人々が銀行ローンを利用して住宅購入をできるようにすることが住宅・地方政府省の最優先事項だと述べています。

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(出所:New Straits Times, Free Malaysia Today, The Edge)

(トップ画像:EJ Yao on Unsplash )