[フィリピン]不動産市場動向(2021年8月)

2021/09/20



不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2021年8月のレポートを発表していますのでご紹介していきます。




■不動作市場全般

・経済協力開発機構(OECD)がまとめた、FDI(外国直接投資)の規制の制約を測る、「外国直接投資制限指数」に関する2020年のデータによると、フィリピンは対象となった83か国のうち、パレスチナとリビアに続いて、最も制限がある国の上位から3番目でした。インデックスは、最も開放的(0)から、閉鎖的(1)までの尺度で示され、フィリピンは0.374でした。特に大きな制限が見られたのは、一次産業、通信、メディア、ビジネスサービス、そして輸送セクターに関連する活動でした。このランキングからは、外国投資家がフィリピンに投資をするにあたって、その門戸が比較的閉ざされた状況にあることを示しています。

小売自由化法(Retail Trade Liberalization Act)や公共サービス法(Public Service Act)、外国投資法(Foreign Investment Act)の外資規制緩和が進められており、これらがフィリピンへの外国資本の参入を大きく緩和することになると期待されています。さらに、企業復興と税制優遇に関する法律(通称CREATE法)により、法人所得税率が引き下げられ、投資インセンティブ環境に大きな確実性が与えられたことで、すでにいくらかの外国投資の誘致につながっています。

・事業活動を活性化させ、フィリピン経済に活力を注入するのに、外国投資は極めて重要な役割を果たします。クッシュマン&ウェイクフィールドは、新しく施行されたCREATE法を補う形で、外資による売買や投資にかかる障壁を緩和するような政策は、フィリピンの投資環境の整備に役立つだろうと述べています。



■オフィス

・フィリピンIT&ビジネスプロセス協会(IT and Business Process Association of the Philippines(IBPAP))は、現在の2022年ロードマップが終わりに近づいて来ていることから、2028年ロードマップの作成を検討しています。これにあたって、パンデミック後のシナリオに移行する前に、パンデミック中のアウトソーシング業界の成長を促進するような政策介入や戦略を精査しています。Covid-19に関連する行動制限にもかかわらず、BPO業界の2020年の売上高は1.4%増の267億USドルを記録、雇用は1.8%増加して、今やBPO業界で働く人は132万人にもなると言われています。IBPAPは、他のアウトソーシング先に対して競争力を維持できるよう、政府とともに、長期的な視野に立って政策を協議していきたい考えです。

・パンデミックをきっかけとした新しいニーズに対応しつつ、競争力を保っていくには、改革的な取り組みを採用する必要があります。フィリピンのアウトソーシング業界は、パンデミック後のオフィス部門の回復のけん引役となるとみられており、技術革新を進めることで、国内のBPOの中でも成長株である、金融サービスやフィンテック・アウトソーシングを促進させることができそうだとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。


■レジデンシャル

パリを拠点とする国際不動産連盟(Fiabci)は、フィリピンの不動産市場の回復を2021年第3四半期頃と予測しています。同連盟が226の都市を対象に行った調査によると、9月に農業用地と一戸建ての価格が上がっており、低層住宅および住宅地の価格回復がそれぞれ11月と12月に始まるだろうと予測しています。コンドミニアムの価格が回復してくるのは2022年5月、住宅およびアパートメント賃貸の回復は2022年1月と予想されています。Fiabciフィリピン支部は、コロナ対策も含めた「将来に備えた不動産開発および建設、都市計画、建築設計コンセプトにおける重要な技術革新」を提唱しています。

・レジデンシャル・コンドミニアム部門は、2021年の残りの期間で需要が完全回復するという望みを掛けていますが、コロナ陽性者数が高止まりした状況の中で投資家や消費者の自信回復につながるような経済の再開が思うように進まず、先行きに不透明感が残ります。完全回復は、短期的には不確定性を残していますが、マクロ経済のファンダメンタルズは、依然として良好な状態が続いているので、コロナの状況が制御できるようになった際には、レジデンシャル部門の成長を促す助けとなるだろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■ホスピタリティ

・観光局(Department of Tourism)は、国家観光開発計画(National Tourism Development Plan)の一環として観光業界での資源の消費と二酸化炭素の排出を削減を含む、サスティナブルな取り組みを促進しています。観光局は、国内観光業のレジリエンスを再構築するためには、サステナビリティが重要なカギであることを強調しています。また、Save Our Spots (SOS)キャンペーンという、ステークホルダーに対して責任ある観光業とは何かを長期的な視点に立って考えるための、情報プロジェクトを実施しています。

・地方間の移動がまだ厳しく制限されており、国内観光ですら難しい状況の中、観光・宿泊業界の短期~中期的な見通しはグレーなままです。クッシュマン&ウェイクフィールドは、今後、業界が回復し、さらなる適応性を身に着けていくためには、業界の再考、再形成、再構築が必要なのではないかと提言しています。



■工業/物流

ダブルドラゴン・プロパティーズ(DoubleDragon Properties Corp.)とジョリビー・フーズ(Jollibee Foods Corp.)は、39.7億ペソの契約を結び、ダブルドラゴンの工業リースを行う子会社セントラルハブの普通株式をジョリビーが取得する代わりに、16.4ヘクタールの工業用地を拠出することになりました。これにより、セントラルハブの工業用地のポートフォリオは39.8ヘクタールに増加、2022年には国内初の工業REIT(不動産投資信託)の上場が視野に入ってきました。この計画中のREIT上場を通して、セントラルハブは、国内最大の工業用倉庫保有者となるべく、さらなる工業用倉庫の建設を計画しています。


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・Eコマースのブームに加え、フィリピンの工業部門は、コロナ後の製造業や国際貿易活動の回復に伴い、さらなる成長を遂げるだろうと言われており、物流や倉庫への投資が注目されています。



■リテール

・ビジネスおよび景気の先行き不透明感から、リテールがコロナ前のレベルに戻るのは2022年と言われています。フィリピン小売業者協会(PRA)は、リテールが再び成長を始めるのは2023年になるだろうと予測しています。8月に再び厳しいロックダウン(ECQ)が2週間実施され、必要不可欠でない小売店は休業を迫られたからです。多くの小売業者はオンラインに切り替え、今まで占有していたスペースは通信販売で注文を受けた商品の発送センター(フルフィルメントセンター)として利用されているものの、モールの営業費用をまかなうには満たないようです。PRAは、年初に今年の小売売上高10%成長を予測していましたが、下方修正して横這い、としています。

・8月の2週間のECQは消費者心理を再び冷え込ませ、企業の閉鎖や失業を生む結果となりました。集団免疫を獲得する前に、小売業界を再始動させるには、今後の感染者数の増加封じ込めを行いつつ、部分的に事業の継続を許可することなどを考えていく必要がありそうだとクッシュマン&ウェイクフィールドは指摘しています。



(出所:Cushman & Wakefield)

(画像:Photo by Christofer Tan on Unsplash )