2018/07/26
フィリピンのREIT規模と市場
フィリピンREIT
2009年12月、2年の歳月をかけて練られた、フィリピンREIT法、あるいは共和国法No.9856が施行されました。SMプライム・ホールディングス、アヤラランドなど、大手不動産会社が、その資産の一部をREIT化して資金調達する意向を示したにもかかわらず、フィリピンのREIT市場はいまだ活発さを見せていません。
フィリピン法では、不動産投資信託、すなわちREITは、収益を生む不動産を所有する目的を主として設立された株式会社です。REITがほかの証券取引所に上場するほかの不動産会社と異なるのは、法により認められている税制優遇措置です。
普通の会社と同じく、REITは、課税所得に対して30%の所得税が課せられます。しかし、普通の会社と違って、REITだけが、株主に分配される配当金を所得から控除することができるのです。配当金として利益の90%を配当することになっているため、REITにかかる法人所得税は大幅に軽減されます。税金として支払わなくてよい分、株主へ分配可能な利益が増えると考えることができますから、REITはよりより投資の手段となるはずです。
フィリピンREITの発展を妨げる要因
では、よりよい投資手段となるはずのREITが、フィリピンで活発さを見せない理由はなんでしょうか。ステークホルダーがREIT設立に前向きでない主な要因は以下の3つと言われています。
(1) 不動産をREITに移管する際のVAT課税
(2) ミニマム・パブリック・オーナーシップ(MPO、最小浮動株比率)要件
(3) エスクロー*要件
*エスクロー:第三者預託
(1) 不動産をREITに移管する際のVAT課税
歳入規則No.013-2011の第7条により、不動産をREITに移転する際、移転自体が免税であっても、12%のVATが課されます。
(2) ミニマム・パブリック・オーナーシップ(MPO、最小浮動株比率)要件
MPOとは、最小浮動株比率のことです。浮動株とは、市場で流通する可能性の高い株式、つまり、持続的に保有されずに市場に出回っている株のことで、主に投機目的で保有されている株や、一般の個人投資家が保有している株のことをさします。 この株式数の発行済み株式数に対する割合を浮動株比率といいます。
REIT法では、MPOがREITの株式発行高の三分の一(⅓)を下回ってはならないとしています。これに従って、SECが発行、のちに改正した実施規則(IRR)では、MPOを、初年度は株式発行高の少なくとも40%でなければいけないと定めています。このMPOは、上場から3年以内に67%までに引き上げられなくてはいけません。不動産持ち株会社は、株式の過半数を取ることも、REITの支配をすることもできないため、REIT設立をためらう一因となっています。
(3) エスクロー要件
REITの設立を必要以上に高額にしているもう一つの要件は、国家歳入局(BIR)の定める歳入規則(RR)No.13-2011の第10条に基づき、設立後2年間の配当金控除にかかる法人税の免除分をエスクローとし、REITが上場から3年以内に67%のMPO要件を達成したという証拠を提出して初めてリリースできる、というものです。REITが最も必要とする資本が、本来ならREITの運営に回されるべきなのに、無駄に拘束されてしまいます。
税制改革法(TRAIN法)
このようにして、2009年のREIT法以降発展を見せてこなかったフィリピンREITに新しい希望の光が差そうとしています。それが税制改革法、通称TRAIN法です。
(1) 不動産の移転にかかる12%VATの免除
TRAIN法、およびこれに基づきBIRが発行した歳入規則(RR)No.13-2018では、税法第40条(c)(2)にもとづく不動産の移転、つまり免税交換が、付加価値税(VAT)の免税対象となる点が盛り込まれました。これにより、不動産所有者は、12%のVATを課されることなく、REIT法人に要件を満たした不動産を移転することができるようになったのです。
(2) MPO要件引き下げの可能性
2016年には、SECがすでにMPOを33%に引き下げる意気込みを見せています。SECは当初、財務省(DOF)がREIT企業への不動産の初期移転にかかるVAT課税を見直すのであれば、MPO要件を再検討してもよいとしていました。TRAIN法により12%のVATが免除され、投資家たちは、SECが約束通りMPO要件を改正することを待ち望んでいます。
TRAIN法による不動産の移転にかかるVATの免除と、MPO引き下げの可能性。2009年以来活発化しなかったフィリピンのREIT市場についに投資家を呼び込むきっかけになるかもしれません。
参照:
・Business World Online
・The Manila Times
・National Tax Research Center
・Philstar Global
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