[フィリピン] 景気回復の見通しと今後のフィリピン不動産

2020/10/16

[フィリピン] 景気回復の見通しと今後のフィリピン不動産



新型コロナウィルス(Covid-19)とロックダウンの影響でフィリピン経済はつまずき気味ですが、フィリピン政府は景気回復に対して前向きな姿勢を崩していません。これは、不動産業界にもよい影響を与えるはずだと、総合不動産サービス会社コリアーズ・フィリピンは述べています。


2020年4月には過去最高の17.7%を記録した失業率も、7月には10%にまで回復、5月には海外直接投資(FDI)も前年同期比42%増の3.99億ドルを記録し、それ以前の3か月連続減少から逆転しました。FDIの伸びは、フィリピンの長期的な経済成長を示す良い前兆で、今後の景気回復の波を起こすきっかけとなることが期待されています。


■OFWの送金がリテールとレジデンシャル需要を押し上げる

フィリピン中央銀行のデータで、海外で働くフィリピン人労働者(OFW)の6月の送金額は、それまでの3か月連続減少からプラスに転じ、前年同期比で7.7%増となりました。フィリピン人消費者の信頼感が戻り、パンデミックと厳しいソーシャルディスタンシングで低迷していたリテール部門に再び活気を取り戻すきっかけとなることが期待されます。2021年に予想されている世界経済の回復もまた、OFWからの送金額のリバウンドにつながりそうです。コリアーズは、これがフィリピン全土のレジデンシャル需要にも前向きな影響を与えると予想しています。コリアーズは、デベロッパー各社に対して、需要を支えるべく、見込み客に対して魅力的な支払条件の提示などをしていくことをアドバイスしています。


■民間建設工事の再開

メガマニラ(メトロマニラ、ラグーナ州、カヴィテ州、リサール州、ブラカン州)の主要エリアでロックダウンが徐々に緩和され、国の経済の50%を占めるこれらのエリアの経済活動が戻ってきています。ロックダウン措置の緩和は、2020年第2四半期には対前年同期で33.5%減となっていた、公共工事、民間工事の復活につながるでしょう。

コリアーズによると、2020年に竣工を迎えるメトロマニラ内のオフィススペースが50%ほど落ち込んでおり、同社の当初予想107万㎡から53.26万㎡ほどとなっています。コンドミニアムの竣工も、2020年は6,270戸と、当初予想14,720戸から57%減と予想されています。


■景気刺激法案が不動産業界をサポート

経済・不動産業に救済を与えるような法案が控えています。CREATE法案と呼ばれる税制改革法案(Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises Act)では、経済特区に入居する企業の税制の行方に関する懸念を明確化することになりそうです。また、最近承認されたものには、1,655億ペソを景気刺激策に充てるBayanihan2(Recover As One Act)があります。また、1.3兆ペソを中小・零細企業その他パンデミックで影響を受けたセクターの支援に充てるARISE法案(Accelerated Recovery and Investments Stimulus for the Economy)法案も、通過すれば従来のオフィステナントが恩恵を受けそうです。

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■ハブ&スポークモデルの開拓と、リテールスペースの転換

コリアーズは不動産オーナーに対して、主要なビジネス地区よりも三割ほど安い値段でオフィスが借りられるような、主力エリア外のオフィススペースを提供するなど、選択肢の幅を広げていくよう提案しています。

これは、本社一拠点に依存せずより分散した拠点配置戦略を取る、ハブ&スポークモデルを実施を計画している企業にとってはとても重要です。こういった戦略を取ることで、メトロマニラでの占有スペースを縮小して不動産コストを下げることができるだけでなく、より安価なロケーションに拠点を構え、様々な場所から人材を確保することができるようになります。コリアーズは、これにより従業員もワーク・ライフバランスを向上させるだけでなく、生活費の削減にもつながると考えています。

空室率が上がってきているモールなどの不動産オーナーに対しては、コリアーズは空きスペースをフレキシブル・ワークスペースとして活用できるかどうかの可能性を探るべきだと助言しています。というのも、モールは通常住宅エリアの近くにあるので、モールの空きスペースをフレキシブル・ワークスペースとすることで、従業員の通勤時間を飛躍的に削減できるようになるからです。


■ニューノーマルの中でのスペースの活用法

フィリピン統計局のデータによると、宿泊・食品サービス支出は68%減、その他サービス(芸術、レジャー、娯楽、ウェルネス・理容美容などのパーソナルサービス)は63%となっています。フィリピン人家庭で、必要不可欠ではない支出を抑えようとする動きがあるようです。外国人旅行客の激減もあり、コリアーズは2020年のホテル稼働率は30%程度にとどまると予想しています。


コリアーズは、ホテル事業者やデベロッパーに対して、衛生基準の遵守、テクノロジーを活用した革新的なサービスなどを強調し、他のリースモデルを検討したり、コリビング施設やフレキシブル・ワークスペースとして活用していくよう勧めています。



■住宅ローンの低金利を活用

2020年第1四半期末時点で、メトロマニラ内の売れ残りコンドミニアムユニットは約44,800戸と、2019年末の47,600戸から減少しました(プレセール、竣工済み含む)。竣工済みのプロジェクトについて、コリアーズはデベロッパー各社にリーススキームなどで工夫をしていくようにアドバイスしています。

また2020年末にかけて需要を支えるために、購入見込み客に対する魅力的な支払条件なども継続していくことを勧めています。同社は、こういった対応が現在の低金利にも支えられ、第4四半期以降のレジデンシャル需要の成長の基礎となっていくのではないかと述べています。



■工業不動産はパンデミックの中の光

食品、医薬品、その他家庭用品など生活必需品の製造業者が、2020年と2021年の工業不動産の成約面積をリードしていくとみられています。世界的な景気後退により電子機器製造業の低迷する成約面積を一部オフセットしていきそうです。

コリアーズは、デベロッパー各社に対して、伸びているEコマースの需要を取り込むために、倉庫の現代化を図るとともに、配送会社と提携してより多くの消費者に商品を届けるようにしていくことが重要だと述べています。また、モール事業者に対して、小売店が顧客に対して商品を届けられるような倉庫スペースとして空きスペースを活用していくことも提案しています。同社は、パンデミックと世界的な景気後退の中、資産の転換(conversion)・転用(repurposing)は極めて重要だとして、デベロッパー各社に対して先回りした素早い対応をしていくようアドバイスしています。

(出所:Business Inquirer