[マレーシア] Covid-19で1966年住宅開発法のもとデベロッパーが直面する問題

マレーシアで徐々に緩和が進む活動制限令(MCO)ですが、この期間止まってしまった建設工事に関連して、考えられる問題を見ていきましょう。

[マレーシア] Covid-19で1966年住宅開発法のもとデベロッパーが直面する問題


2020年3月18日にマレーシアに活動制限令(MCO)が発令されてから、すべての開発プロジェクトは停止してしまいました。住宅開発業界は、「エッセンシャル(必要不可欠)なサービス」とみなされていませんでしたので、デベロッパーはMCOの期間中は建設工事を行うことができなかったのです。5月4日には、条件付き活動制限令(CMCO)として多くの業種の活動が再開を許され、6月10日からは回復活動制限令(RCMO)としてさらに緩和が進んでいますが、建設工事現場の中には作業を再開できていないところも多いようです


ここで、デベロッパーと購入者間で交わされた契約を履行に関連して、いくつかの問題が浮かび上がってきます。

<引渡し関連>
・プロジェクトの建設工事がMCOの期間中は開始できない、または継続できない。
・プロジェクトの建築士は、建設工事の各段階の完成を証明することができない。
・建築士の証明が出ないと、弁護士は、銀行に対して、デベロッパーへの融資実行を指示できない。
・工事が遅れると、デベロッパーと購入者との間で、1966年住宅開発法に基づいて締結された売買契約書に記載の、竣工日に影響が出る。

<欠陥の修繕関連>
・竣工済みの物件については、購入者は欠陥の点検をすることができない。
・デベロッパーも、購入者から欠陥の通知を受けても、欠陥を修理する義務を履行することができない。

上記に基づいて、次のような疑問について考えていきましょう。


1.MCOが理由で引渡しが遅れたらどうなるのか?
2.瑕疵担保責任期間(Defect Liability Period)は、MCO期間中もカウントされるのか?


■期限遵守の原則


デベロッパーと購入者との間の標準的な売買契約を定めた、1966年住宅開発法の別表H(区分所有物件)または別表G(土地付き物件)では、契約の当事者は、ひとたび契約が締結されれば、そこに記載の条件に拘束されることになります。

1966年住宅開発法の別表Hの第8条、別表Gの第9条には、契約上の期限を守ることは、すべての条項について必要不可欠だと定められています。つまり、デベロッパーが契約に定められた期限内に義務を履行することは、きわめて重要だといえます。


■MCO期間内にデベロッパーが義務を履行する期限が到来したら?


上記の1966年住宅開発法の別表H(区分所有物件)または別表G(土地付き物件)には、物件は入居可能状態で購入者に引き渡されるべき期間が定められています。


・別表H(区分所有物件)第26条:契約締結日から歴月36か月
・別表G(土地付き物件)第24条:契約締結日から歴月24か月


また、デベロッパーが契約書に記載の期間内に物件を引き渡しできない場合、デベロッパーは購入者に対して金銭的な補償、つまり損害賠償の予定額(Liquidated Assessment Damages (LAD))を支払う義務が発生することになっています。LADは、日割り計算で、引渡し期限過ぎた日から、購入者が物件の引渡しを受ける日まで、購入価格の年率10%で計算されます。


デベロッパーが義務を履行する期間を守ることは、契約上基本的なことですので、デベロッパーには規定の期間内に入居可能状態で物件を引き渡すことが求められます。それを守れない場合の遅延について、LADという罰則があるのです。

しかし、MCOによって、デベロッパーが必要不可欠な産業とみなされず、事業活動を止めざるを得なかったがために、引渡し通知を発行できなかったとしたらどうでしょうか。デベロッパーは物件を完成しているが、MCOが理由で入居可能状態での引渡しを通知することができず、入居可能な状態での引渡し期間が過ぎてしまった場合、購入者はLADを受け取ることができるのでしょうか。


契約上では、通知は書留か手渡しということになっていますので、デベロッパーが引渡し通知をEmailで発行することはできません。さらに、標準契約書には、「不可抗力」条項や、MCOや契約当事者の義務の履行を妨げるような予期しない事態に直面した際に、デベロッパーの利益を保護するような免責条項は定められていません。


では、MCO期間も契約期間がカウントされ続けるとみなされたときはどうなるのでしょうか?デベロッパーは、MCOが理由で購入者に物件を引き渡せなかった場合でも、LADを支払うことになるのでしょうか。


前述のとおり、契約上にはデベロッパーを保護するような免責条項はありませんので、デベロッパーの保護を定めるようなものが法律にあるかどうかを見ていくことになります。


まずは、1950年契約法の第57条に定める「契約の後発的不能」を適用して契約がもはや不可能になったとしてしまったらどうでしょうか。しかし、物件がすでに完成してしまっていたり、物件の工事を開始していたりしたならば、多くのデベロッパーは、契約を不能としたくはないはずです。なぜなら、後発的不能となれば、デベロッパーに支払われた金銭は、購入者または銀行に返済しなければならなくなるからです。商業的な観点から、これはあまり望ましくありません。


「契約の分離可能性」を使うことはできるでしょうか?分離可能性とは、契約の一部が違法または強制不可能となった場合でも契約の残りの条項は適用されることを定める条項です。別表Hと別表Gには、そのような条項がありません。さらに、影響をうける契約上最も重要な義務が、物件の引渡しですので、このような条項が強制不可能とみなされることはなさそうです。


売買契約書もまた、成文法により定められた契約であり、1950年契約法の第56(3)条は適用されないので、契約当事者は、定められた様式以外の契約をすることができません。


上記に基づくと、MCO期間も時間がカウントされている場合には、デベロッパーの利益を保護するようなものは何もないようです。しかし、政府の指示に従ってオペレーションを止めたのに、契約当事者の義務が残り、別表Gおよび別表Hに基づく時間枠は継続しているとみなされて、デベロッパーが相当額のLADを支払うのは、デベロッパーにとっては不公平かもしれません。



■瑕疵担保責任期間はMCO期間中もカウントされるのか?


これも同様に、別表Gにも別表Hにも、瑕疵担保責任期間に関する免責や不可抗力についての条項がないことから、MCOの期間もカウントされて続けていると考えるのがよさそうです。


今回の新型コロナウィルスは、1948年、および1969年から1971年の期間に発令された緊急事態宣言以降、マレーシアが初めてMCOを発令する機会となりました。マレーシア法は、Covid-19パンデミック期間中にデベロッパーをサポートするような免除、免責、その他の法的なしくみを備えていないのです。



デベロッパーも住宅・地方政府省も、MCOによる影響を受けた期間の分だけ、契約上の時間も凍結させ、義務履行のための期間が延長されればいいのですが、今のところそのような命令やガイドラインは出ていません。これまでに見てきたように、別表Gや別表Hには現在の状況に対応できるものがないので、1966年住宅開発法の第12条に基づいて、事前に住宅・地方政府省の大臣から命令やガイドラインを取り付け、義務の明確化を求めることが一番の方策だと考えられているようです。


過去の記事でもご紹介しているとおり、マレーシア不動産・住宅開発業者協会がすでに動き始めており、コロナ暫定措置法案を政府に要請しています。この暫定措置法案が通れば、デベロッパーがMCOで建設工事を止めざるを得なかった期間の取り扱いが明らかになってくるでしょう。



※契約書はそれぞれ異なります。本記事は知識を深めることを目的として標準的な売買契約書をベースに書かれたもので、個々の契約書について法的なアドバイスを提供するものではありません。

(出所:Zicolaw、Official Gazette)

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