シンガポールで1億超えのHDB(公営住宅)増加の背景とは?

2022/09/15


世界で最も物価の高い国のひとつ、シンガポールでは、何百という公共住宅アパートメントが100万シンガポール(約1億円)以上で販売されています。


コロナウイルス関連の建設工事の遅延が、新築ユニット不足につながったからです。




少なくとも2つの物件がUSドルで100万ドル(約1億4,300万円)を超えました。




この高値により、政府では、不動産市場の加熱を抑制するための新しい措置の導入についての議論が高まっているようです。




シンガポールの公営住宅システムは、政府が建設した公営住宅を99年リースで直接国民に販売するもので、国民の持ち家割合は世界でも最高水準の80%超となっています。


開発を行う住宅開発庁(Housing & Development Board)の頭文字をとってHDBフラットと呼ばれるこの公営住宅の多くのユニットが、電車の駅やショッピングモールに近い便利な場所にあり、様々な社会経済的集団に対応できるようになっています。




所有権は、5年後には、国民または永住権所持者へ譲渡が可能で、リセール市場が発達しました。


アパートメントの中には、約50万シンガポールドル(約5,000万円)で当初購入したものが、アパートメントのサイズやロケーションによっては、倍になっているものもあります。




今年最もリセールで高値が付いたユニットは、92年リースの残った、電車の駅や学校に近い広々とした122平米のもので、141万8,000シンガポールドル(約1億4,460万円)の値段を付けました。




シンガポールでは、所有するHDBフラットを賃貸したり転売したりして小遣い稼ぎにする人もいます。




5月には、113平米のHDBが140万シンガポールドルで売却されました。


仲介業者は、「100万ドル超えのHDBフラットは居住用です。中心部、もしくは広めのスペースに住みたいけれど、プライベートコンドミニアムに手が出ないような人がいるからです。」と話しています。




「似たようなサイズのプライベートコンドミニアムを同じようなロケーションで探すと、価格は軽く250万シンガポールドルなるでしょう。」




HDBフラットとは異なり、シンガポールのプライベートコンドミニアムは、通常、警備員やスイミングプール、ジムといった設備があります。




初めて公営住宅を購入する人の多くは、政府の補助金やローンを申請することができます。


こうすることで、上がる金利の影響をあまり受けなくて済むので、パンデミック中に同様に高騰している賃貸市場から脱出したいと望む人も出てきます。


場合によっては、月々のローン返済額の方が、高騰した賃貸料よりも安く上がる場合もあるようです。




昨年後半にシンガポール政府が公表した内容によると、公営住宅の購入者で政府のローンを使う場合、融資返済金額が月々の収入に占める割合として、直近3年間は平均して23%となっています。




シンガポールの建設業界は、外国人労働者に依存しており、パンデミックのさなかで混乱をきたしました。さらに資材の供給困難も加わり、建設工事の遅延に繋がりました。




アナリストによると、供給の厳しい状況が緩和してくるのは2023年初です。




100万ドルフラットは、全体の取引の2%にも満たないものの、昨年、100万シンガポール以上で売却されたフラットは過去最高の259件で、今年は8月までですでに230件あるということです。




リセール市場には手が出ないと考える人々には、HDBビルト・トゥ・オーダー(BTO)フラットと呼ばれる、政府から直接オフプラン(建設前)の公営フラットを購入することもできます。


通常は、30万~70万シンガポールドル(約3,000万円~7,000万円)で販売されているようです。




しかし、人気のBTOプロジェクトのほとんどは募集枠を申込が上回り、建設が終わるまでに約5年かかるので、その間にリセール市場に流れる人もいます。




国家開発省(Ministry of National Development)は、2022年8月、政府は、需要に合わせて新築のBTOフラットの供給を加速していく計画であることを明かしています。




シンガポールは、2021年12月、不動産市場の過熱抑制策を発表しました。


主なものには、印紙税の増税と融資上限の引き締めがあります。


取引件数には若干の軟化が見られるようです。




オレンジ・ティー&タイのリサーチ・分析担当上級副社長のクリスティン・サン氏は、「公共・民間のレジデンシャル市場の価格上昇を受けて、政府がさらなる過熱抑制策を検討する可能性がある」と述べています。




しかし、売りたい人と買いたい人の間での取引なので、簡単にはいかなさそうだ、とクリスティン氏は付け加えています。




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(出所:New Straits Times

(画像:UnsplashのMeriç Dağlıが撮影した写真)