2024/12/20
監修:海外不動産税務の専門家 大木宣幸
(公認会計士・税理士・宅地建物取引士)
International CPA Firms・大木国際会計事務所 代表
「海外不動産の減価償却はどうなるんだろう?」
「減価償却について税制改正があったと聞いたけど内容をわかりやすく知りたい!」
投資用の不動産をすでにお持ちの方であれば、減価償却という言葉に馴染みがあるかもしれません。
海外に不動産を保有する際の減価償却については疑問を持たれる方も多いはずです。
今回の記事では、海外不動産の減価償却について、減価償却の定義や税制改正の内容も含めて、事例を使って専門家がわかりやすく解説します。
最後まで読むことで、減価償却の考え方から、海外不動産の減価償却費の計算方法まで知ることが可能です。
保有する海外不動産の減価償却を理解することで、日本で正しく確定申告できます。
売却する海外不動産の確定申告のポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
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海外不動産の減価償却4つのポイント
海外不動産の減価償却について理解するために、次の4つのポイントをおさえる必要があります。
1.減価償却とは?
2.海外不動産の減価償却
3.確定申告での減価償却費の計算方法
4.税制改正の注意点
では、ひとつずつ見ていきましょう。
1.減価償却とは?
減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって使用可能な期間の必要経費として配分していく手続きです。
ここでいう減価償却資産とは、一般的に時の経過等によってその価値が減っていく、使用可能期間の長い高額資産のことです。
事業用の建物、附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などが挙げられます。
もう少し具体的に見ていきましょう。
たとえば投資用の新築マンションをX年1月1日に8,000万円で取得し、同時に月20万円で賃貸したとします。
その取得にかかった費用を、取得した初年度に一気に認識すると、以下のように初年度は大きな損失が出て翌年から毎年収益が出ます。
*2年目以降の維持にかかる必要経費は便宜上ゼロとしています。
しかし、マンションは時間の経過とともに少しずつ価値が減っていくものです。
このマンションから長期的に得られる収入に対して、費用も同じように長期間で配分しようというのが減価償却の考え方です。
減価償却には、収益を生む資産の取得にかかった費用を、使用可能な期間にわたって認識することで、対象の期間の損益を正しく表す効果があります。
確定申告では、正しく表された所得をもとに、正しく課税する効果があるのです。
このように、使用可能な期間にわたって配分された費用を「減価償却費」と呼びます。
一方で、減価償却できない資産もあります。
その代表例は土地です。
土地は時間が経過しても、その上にどんな建物を建てたとしても、土地そのものの価値は目減りすることがありません。
時間の経過や使用によって価値が変わらない資産(非減価償却資産)は、減価償却の対象にならないので注意しましょう。
2.海外不動産の減価償却
投資用の不動産であれば、海外不動産も減価償却します。
日本では、居住者(*1)に対して「全世界所得課税方式」を採用しているからです。
全世界所得課税方式では、原則として「国内で生じた所得」と「国外で生じた所得」のいずれにも課税されます。
日本に居住している人が投資用の不動産の貸付によって得られた所得(不動産所得)は、不動産の所在地が国内・海外にかかわらず日本で確定申告することになります。
その際には、海外不動産の収入・経費も含めた全世界の所得を確定申告することが必要です。
所得は基本的に、収入から必要経費を引いて求めます。
不動産所得 = (国内・国外の不動産収入)ー(国内・国外の必要経費)
減価償却費は、不動産を保有する日本の居住者が、確定申告をする際に必要経費とできる費用のひとつです。
したがって、海外の不動産の減価償却費も日本側で経費計上し、確定申告で加味することが可能なのです。
3.確定申告での減価償却費の計算方法
減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を、「一定の方法」で「使用可能な期間」にわたって必要経費として配分する手続きでしたね。
(1)まず「一定の方法」は、大きく分けて以下の2通りです。
・定額法:一定の減価償却費を毎年計上する方法
・定率法:一定の割合で減価償却費が少なくなるように計算する方法
2024年12月1日現在の法令では、建物、建物附属設備*および構築物*は、定額法を用いることになっています。(*) については2016年4月1日以後に取得したものに限る。
したがって、この記事では、定額法を説明していきます。
定額法では、資産の取得に要した金額が毎年一定額ずつ必要経費となるのです。
(2)次に「使用可能な期間」のことを、「耐用年数」と呼びます。
日本の税法では、法令で定められた耐用年数をもとに、税務処理を行う決まりです。
各資産に関して法令で画一的に定められている耐用年数を「法定耐用年数」と呼びます。
(参照:減価償却資産の耐用年数等に関する省令)
建物の法定耐用年数は、構造や用途によって細かく分かれています。
【例】 居住用の場合
●軽量鉄骨造(骨格材肉厚が3mm以下の場合)…19年
●木造…22年
●重量鉄骨造…34年
●鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造…47年 など
さきほどの8,000万円のマンションの例を見てみましょう。
マンションの多くは、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造ですので、法定耐用年数は47年となります。
取得にかかった8,000万円の費用を47年間にわたって減価償却します。
つまり、毎年均等に約170万円(8,000万円÷47年≒170万円)の減価償却費を必要経費として計上するのです。
海外不動産であっても、日本の税法に基づく申告のため、あくまで日本の法定耐用年数に当てはめます。
▼減価償却のイメージ(定額法)(出所:PropertyAccess作成)
では、中古物件の場合はどうでしょうか。
中古物件の場合には、法定耐用年数ではなく、その物件を賃貸する目的で使用開始した時以後の、見積もりベースの使用可能年数で減価償却できます。
使用可能期間の年数を見積もることが難しい場合は、以下のような「簡便法」を使うことが可能です。
・法定耐用年数の一部を経過した資産
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
・法定耐用年数の全部を経過した資産
法定耐用年数×20%
たとえば、法定耐用年数を経過した古い木造の中古物件を購入したら、法定耐用年数(22年)の20%にあたる4年(1年未満は切り捨て)で減価償却する計算になります。
個人の確定申告に関連して、もうひとつ知っておきたいのが「損益通算」です。
不動産の貸付によって得られた「不動産所得」は、給与・配当・利子など各種の所得金額を合計して所得税の計算を行う「総合課税」の対象です。
不動産所得が計算上マイナスだった場合、総所得金額を計算する際に、その損失を他の各種所得の金額から差し引くことができます。
これを損益通算といいます。
なお、不動産を売却したときに得られる譲渡所得は「分離課税」の対象です。
分離課税制度では、他の所得金額と合計せずに、その所得単独の税額を分離して計算したうえで納税します。
海外不動産の売却時にかかる税金については、以下の記事で詳しく説明しています。
海外不動産にかかる売却時の税金は? 3つのポイントを専門家がくわしく解説!
4.税制改正の注意点
2020年度(令和2年度)の税制改正で、海外に保有する中古物件から不動産所得を得ている場合の減価償却費の取扱いが変わりました。
「不動産所得の計算で損失が生じたとき、その損失のうち国外中古建物の減価償却費に相当する金額は、生じなかったものとみなす」というものです。
減価償却費の計算において、「簡便法」等で算定された耐用年数を使用しているものが対象です。
(参照:国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例)
つまり、不動産所得が赤字になると、損失額を上限として「簡便法」を使って計算された国外中古建物の減価償却費はなかったものとなります。
なお、赤字がなかったものとされた減価償却費は、不動産売却時の取得費になります。
不動産売却時の取得費についての詳しい説明は、以下の記事で詳しく説明しています。
海外不動産にかかる売却時の税金は? 3つのポイントを専門家がくわしく解説!
国外中古建物を複数所有する場合には、物件ごとに不動産所得を計算する点にも注意しましょう。
▼確定申告における不動産所得用の付表(出所:国税庁)
税制変更の背景には、簡便法を利用した以下のようなスキームが高所得の個人の間でよく行われていたことにあります。
アメリカ中古木造住宅を購入し、耐用年数4年(木造22年×20/100、小数点以下切り下げ)で減価償却費を計上。 ⇒不動産所得の赤字を、高額な給与所得と相殺し、所得税の還付申告をする。 |
簡便法により短い耐用年数で減価償却したうえで、必要経費の額を増やして損失を出し、他の所得から差し引けることを利用したのです。
このスキームが問題になったため、税制改正となりました。
この変更は、2021年(令和3年)分より適用されています。
ただし、国外の中古建物に適用されるものなので、新築の物件は法定耐用年数を用いて通常通り減価償却ができます。
また、対象となるのは個人の不動産所得であって、法人には適用されません。
確定申告を正しく行うために、不安のある方は専門家に相談するのが良いでしょう。
まとめ
今回は、海外不動産にかかる減価償却について、以下の4つのポイントをご説明しました。
1.減価償却とは?
2.海外不動産の減価償却
3.確定申告での減価償却費の計算方法
4.税制改正の注意点
減価償却とは、長期間にわたって使用する資産の取得に要した金額を、耐用年数にわたって分割して必要経費として認識する方法です。
日本に居住する人は、海外に保有する不動産であっても、投資用の不動産であれば減価償却をします。
日本は、「全世界所得課税方式」を採用しているので、海外不動産の収入・経費も含めた全世界の所得を確定申告する必要があるからです。
確定申告で減価償却費を計算する際には、法定耐用年数を用いて定額法で計算します。
中古物件で使用可能な年数が見積りが難しい場合には「簡便法」を利用することも可能です。
ただし、2020年の税制改正で、不動産所得が赤字の場合、簡便法等で計算された国外中古建物の減価償却費は、赤字額を上限になかったものとみなされるようになりました。
節税目的で国外に中古建物を購入された方、購入しようとしている方は注意が必要です。
国外中古建物の不動産所得がある個人が対象ですので、新築や法人は含まれません。
正しく確定申告するためには、専門家のアドバイスを受けるのが良いでしょう。
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